543 / 804
過去【少年と彼】
5
しおりを挟むもういいや、と作業に取り掛かろうと唇を肌に近づけていく。
と、
「……る、」
「…え?」
頭上から聞こえてきた蚊の鳴くような小さな声に、疑問符を投げて顔を上げた。
しかし、しばらく待ってもどこか気まずい雰囲気だけが流れてきて明確な言葉にしようとしないので、問う。
「まーくん、今…何て言った?」
「…する…、」
「…っ、」
上擦った声。
あまりにもか弱い声と少ない言葉に、うまく言葉の意味が飲み込めずに瞼を2、3度瞬いた。
「蒼と、その、……ヤる…っ、から」
「……」
それを感じ取ったのか、もう一度ごにょごにょと既に泣いている顔で唇を震えさせながら、今度は少しはっきりとした言葉で呟く。
…何を?と、そんな変なことを聞きそうになった。
思いも寄らなかった言葉に何を言うこともできず絶句する。
「…だから、お願い…」
「……」
「…噛んだり、…吸ったり、されるの…凄く痛い、から…やだ…」
俺から顔を反らしたまま、睫毛を涙で濡らして唇を結ぶ。
言葉にしながら段々自分が何を言ってるのか実感して怖気づいてきたのか、言葉じりになるにつれて声は弱々しく小さくなった。
居ても立ってもいられなかったらしく、裾が広い着物を身に着けている頭上に持ち上げられた腕に隠すように涙まじりの少し悔しそうな表情を浮かべた顔を埋める。
(…あ、)
やばい。
頭が真っ白になった。
何かが頭にズドンってキた。
ゾクリと背筋が震えて、下腹部に熱が集まる。
「…何。なんで、…今日凄い、…そんな、」
「…だって、どっちも嫌だって言ったら…もっと蒼は…怖く、なるし…」
「それだけは、絶対に…嫌だから」とぽつりぽつりと決してこっちは見ずにそっぽを向いたまま続ける声。
ゴクリ、と喉が上下に動いて唾を飲む。
(…本当、に…?)
「…本当にキスマークより、そっちの方が良い?」
「……」
こく、と頷いて肯定を示す頭。
…なのに。
それとは反対に形が歪むほど唇を強く噛み締めて、緊張と恐怖に身体が震えている。
「…っ、」
「……」
俺がついさっきまで触れていた肌も、全身の震えが伝わってきて小刻みに震えていた。
無意識に手を伸ばしてその髪に触れようとすると視界の端でその行動の意味がわかったのか、あからさまに瞼をキツく閉じて筋肉を強張らせながら神経を張り巡らせる。
そんな反応に一瞬躊躇って伸ばした手を止めて、「…やめた。」と吐息交じりの言葉を吐いた。
「…今日は冷めたから、もういいよ」
「…ぇ、…」
とても大切なモノに触れるように、その柔らかな髪を撫でた。
そうすると自然と強張っていた表情が少し和らいだように見えた。
……昔から頭撫でられるの大好きだもんな、まーくんは。
息を吐いて身体を起こし、その上から退く。
手首を纏めていた拘束も解いて、強く縛ったせいで手首に残った赤い線が瞳に映って瞼を伏せた。
今までこうして途中で止めたことがなかったからか、戸惑いを含んだ視線を感じる。
28
お気に入りに追加
1,088
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
嫌われ者の僕
みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。
※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる