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過去【少年と彼】
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しおりを挟む…放課後。
「前…俺、まーくんに他の人の話しないでって言ったよな?」
「…っ、」
押さえていた苛立ちの堰が切れた。
壁に片腕の肘から先全部を付けて顔を近づける。
ただ片手を壁につくだけより、こっちの方が距離も近いしほとんど逃げられる程の隙間がない。
…逃げようとしても、絶対に逃がしたりしないけど。
中学の時とは違って俺の方が大分身長が高くなったから、見下ろす格好になった。
…まーくんは俺との身長…というか成長差を気にしてるみたいだけど、そのままでかなり可愛いし充分なのに。
人気のない廊下。
息をすれば触れるような距離で見下ろして、冷え切っていた感情を吐き出すように唇から言葉を零す。
「…っ、ご、めん…」
「…(あー…。もう、やばい)」
怯えたように眉を垂れさせて、泣きそうに震えている睫毛。
視線を逸らされる。
きゅ、と軽く噛まれた唇。
もっと酷い言葉を吐いたら、本当に泣いてしまうかもしれない。
…でも、その顔も見たいな。
俺が…そうしたい。
加虐心を酷く煽られて、湧き上がる感情。
「本当に、悪いと思ってる?」
「…う、うん…」
わざと冷たく声を吐き出して、落ち込んだ表情でしょぼんと最早泣きそうな顔をするまーくんを瞳だけで見下ろした。
「それに最近俺じゃなくて”俊介”ってやつとずっと一緒にいるよな、まーくん」
「…っ、そ、れは…だって、…」
「言い訳なんか聞きたくない」
帰りも俺との約束を破って一緒に出掛けたりするし、最近は俺といる時間より”俊介”といる時間の方が多い。
…高校に入る前まではうまくいってたのに。
なんでアイツの言葉には無条件に全部従って、俺の言葉は否定するんだよ。
俺は全部知ってるんだよ、まーくん。アイツの家に行ったってことも。…好きだって言ったことも。(勿論友達としてって意味だけど。本当に無防備すぎて困る。…相手がいつ勘違いして襲ってくるかわからないのに。)
それに、
…俺よりも…あいつに依存しかけてるってことも。
(…知ってる、)
だからまーくんの家に行ったとき、そのお仕置きの意味を込めて通常の何倍もの媚薬を盛った。
……俺は苦労して頑張って、それでやっとまーくんと一緒にいられるんだから。あんな奴にこんな簡単に奪われてたまるか。
「俺よりソイツの方が大事になった?俺とはもう一緒にいたくない?」
「…ち、違…っ、そんなことない」
「…でも、最近俺のこと避けてるよな」
「…ッ、本当に、それは違うから…!避けてるってわけじゃなくて」
「だったら、何が理由?…”俊介がそうしろって言った”なんて言い訳は許さないから」
「っ、」
責めて詰るような口調で問いかければ、傷ついたようにまーくんはぐ、と唇を噛んで俯いた。
顔を背けたせいで、その白く透明感のある首筋が晒されてやけに官能的に見える。
…そういう仕草に、どうしようもなく惹きつけられる。
まーくんはいつも無自覚に他の人の話題を楽しそうに話してくる。
どんなことをしたとか、どういう話をした…とか。
最近はその俊介とかいう男の話ばっかりだった。
凄く楽しそうで、嬉しそうで…そんな笑顔を見るたびに全部壊したくなる。
…まーくんをぐちゃぐちゃに犯して、泣かせて、…無理やりにでも俺のモノにしたくなる。
「……」
自然と唇に視線が吸い寄せられた。
白い肌に、…柔らかそうな可愛らしい唇。
そこらへんの女よりもかなり色っぽい。
(…今キスしたら、どんな顔するかな…)
泣いて嫌がるかもしれない。
嫌だって叫んで、”俊介”に助けを求めるかもしれない。
…前も友達にはそんなことされたくないって言われたし、本当にしようなんて考えてない、けど…。
だからあんなにまーくんに迂闊に手を出さないように気をつけてたのに、結局我慢できなくて、まーくんの厭らしい声が聴きたくて、…欲求のままに家に上がり込んで色々した。
”ん゛ぁああ…っ?!あぉ゛、い…っ、もう、や゛め、て…っ”
嫌だって首を振るくせに。
結局快感に逆らえなくて、ぐちゅぐちゅ卑猥な水音を立てて喘ぎ声を漏らす。
口とは違って正直な身体は唇から発される言葉と逆で、勃起した性器は更に硬くなって、俺が指でぬるぬると分泌される先走りを全体に塗りつけるように刺激する度に声を上げながら身体を震わせて欲を吐き出していた。
通常量の何倍もの媚薬で敏感になったまーくんはあっけなく何度もイッた。
尿道口を指の肚で擦られると弱いらしく、厭らしく熱い吐息を零しながらビクッ、ビクッ、と痙攣させていた。射精管理用のゴムが精液に塗れてどろどろになって、イキそびれた性器が見てわかる程赤黒くドクドクと脈打って膨脹していた。
…瞳を潤ませながら快感に耐えるまーくんの顔。
思い出すだけで身体が熱くなる。
嗚呼、可愛かった。凄く…可愛くて、綺麗だった。
どうしてあんなに欲情して泣きそうな顔ってそそられるんだろう。
ゾクリと胸が震えて、鼓動が速くなる。
それを見た瞬間に何も考えられなくなる。
(…本当はお姫様みたいに大事にしたい。…あんなふうに無理矢理感じさせて泣かせたいわけじゃなかったのに)
硝子の箱に閉じ込めて、俺だけのお姫様にしたい。
泣かせたい。泣いて、感じて…欲情した顔が見たい。
…でも、泣かせたくない。
相反する感情が体内でうごめき合って、自分の本心がわからなくなった。
元はといえばまーくんが悪い。
俺は昔、”恋人”がずっと大切な人といられる方法だってまーくんに教えたはずなのに。
…記憶喪失になった後に、誰かに勝手に”友達”がずっと一緒にいられる方法だと記憶を上書きされていた。
……だから、このままだと永遠にまーくんが俺の”恋人”になる日は来ない。
他の人間にとられる前に、奪われる前に…無理矢理身体だけを俺のモノにするってことも考えた。
でも、傷つけたくないから、怖がらせたくないから…本当に嫌われるのが怖いから、
…できるだけまーくんに感情をぶつけないように、我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して。
―――――――――――――――
…………それ、なのに、
「なぁ、真冬。俺と付き合わない?」
「…っ、」
(…ふざけんな…っ)
俺が掴んだまーくんの腕とは別の方を、男が掴んでいる。
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