500 / 804
過去【少年と彼】
10(【蒼と初めて会った日】の蒼side)
しおりを挟むこれでもかというほど逸る心に眩暈に似た感覚に捉われながら、ふ、と深い息を吐く。
…あまり時間はかけられない。あと5分以内には車に乗って戻らないと…。
できることなら最後まで残って出てこないか確認したいけど生憎俺が自由に使える時間は多くなかった。
そしてしばらく探して、もうそろそろやめようと落胆に瞳を伏せようとしたその時、
視界に入ってくる…姿。
「…っ、」
…―――まーくん、
声にはならない。
唇でその形だけを作る。
…いた。
ちゃんと、俺はまーくんを見つけられた。
他とは全然違う。
あんなに人がいるのにそれでも他なんて目に入らないくらい…自然と視線が吸い寄せられた。
隣にいる人間と何を話しているのか、可笑しそうに笑って笑顔で話しながら歩いている。
その雰囲気は前見た時と全く変わらなくて、
どこかふわふわとした、見たこっちの気が抜けるような笑顔。
前より随分身長も伸びた分顔立ちが大人っぽくなって綺麗になった。
それでもその言動1つ1つが可愛らしい。
制服姿のまーくんを息を吸うのも忘れて見つめて、
「…、まーくん…」
やっと絞り出した声は熱く震えていた。
嗚呼、遠くから見るだけなんてやっぱり無理だ。
声をかけたい。
振り向いてほしい。
俺を見て、俺の名前を呼んでほしい。
「まーく、」
「蒼様」
ふらりと足を一歩前に出した時、咎めるような声と同時に腕を強く掴まれる感触。
ぐ、と唇を噛んで、腕を強く振って振り払った。
…わかってる。
近づかない。
近づいたらいけない。
まだ条件を満たしてないんだから、ただ俺は見に来ただけなんだから。
許されてないんだから。
必死に自分にそう戒めて、もう一度冷静になってその姿を見る。
……良かった。
(…思ったより元気そうで、本当に良かった)
…入院したって聞いたからどうしているのか凄く心配していたけど、変わらない雰囲気に心底安堵して軽く息を吐く。
眺めていると別のことが見えてくる。
「……(……)」
……客観的に見ても、女に少なくない頻度で好意を持たれるだろう容姿。
ここにいる時間だけでも、充分に見て取れる。
数人、すれ違いざまにまーくんに熱い視線を向けていた。
それに気づいた瞬間、胸の辺りがざわざわと虫が大量に這っているような嫌な感じがして気分が悪くなった。
違和感に首を傾げて、じーっとその様子を見ている
と、
「…え、」
小さく声が漏れた。
不意にこっちを向いたまーくんにドキリと胸が大きく跳ねる。
(…まさか、)
見られるとは思ってなくて、戸惑う。
そんな俺に対して、きょとんと目を瞬いたまーくんは
直後…優しく頬を緩ませて、
俺に
手を振った。
「…――ッ、」
激しく胸を打たれて、世界から音が消える。
心臓が止まったかと錯覚するほどその瞬間、まーくん以外何も見えなくなった。
込み上げてくる熱いモノに本気で息が出来なくなって、そんな顔を見られたくなくて隠すようにふいと顔を背けた。
俯いて、必死に感情を鎮めようとぎゅっと目を閉じて強く身体に力を入れる。
でも滲んだ視界はすぐにはもとに戻らなくて、結局しばらく顔を上げることができなかった。
「屋敷に戻りますよ」と声をかけられた頃にはもうまーくんの姿はさっきあった場所になくて、
…何度も何度もその場所に目を戻して、尾を引かれるようにして車に乗った。
――――――――――
(…嗚呼、)
(どうして、その隣で笑ってるのが俺じゃないんだろう…)
10
お気に入りに追加
1,088
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
無自覚な
ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。
1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに
イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。
それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて
いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外
何をやっても平凡だった。
そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる
それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない
そんな存在にまで上り積めていた。
こんな僕でも優しくしてくれる義兄と
僕のことを嫌ってる義弟。
でも最近みんなの様子が変で困ってます
無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる