手足を鎖で縛られる

和泉奏

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過去【少年と彼】

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…どういうわけか風呂から上がった後も濡れた俺の身体を拭こうとするし服を着せようとするし、まだ小さい子どもの癖にさすがにここまでしようとしてくると戸惑いより違和感の方が強くなってくる。

俺を人形か捨て猫だとでも思ってるのかもしれない。

そういえばどこかで聞いたことがある。
小さい子供ほど自分より弱い生き物を見ると世話がしたくなるとかなんとか。
…そう考えても、さすがにここまでくるとおかしな気がしてくるけど。


「くーくん…?……ねむい…?おふとんいく?」

「…ねむくない」


わしゃわしゃとタオルで髪を拭かれながらそんな呑気な声に軽く首を振ってこたえた。
冬なのにエアコンがなくて酷く寒い部屋の中、俺は今床に座って真冬に髪を拭かれている。

……正直言ってかなり眠い。
今肌に感じる寒さなんか気にならないくらい眠い。
呂律が回らなくなってきてるのを自覚する。


屋敷にいた時でさえ身体中が痛くてすごい怠かった。

でも真冬と会った後は比較的あんまりそんな負担を感じてなかったのに、風呂に入ったら気が緩んだのか一気に襲ってくる眠気によって身体が重く感じる

…あとは真冬がもしかしたらあの人の差し金かもしれないってちょっと疑ってたけど、流石にもうここまでくればそういう理由で真冬が近づいてきたわけじゃないってわかった。

だから本当の意味で安心できたからかもしれない。

(…すごく、眠たい…)

気を抜けば一瞬で夢の中に落ちてしまう気がするから、意味もなく目の前を睨み据えた。
無防備に誰かの前で眠るということがどれほど危険なことか身をもって知っている。

眠っている間は外に意識が向かないから誰かに殴られても蹴られても避けられない。

…それで何度酷い目にあったかわからない。

だからたとえ一緒にいる人間がいかにふわふわしてて気が抜けたような奴だとしても先に寝るほど馬鹿じゃない。

椅子に座って不意に視界に入ってきた時計の針を見る。
22時30分ジャスト。

居間を眺めて思う。

真冬の家は俺の家とは全然違った。

ずっと昔…小さい頃に行った祖母の家とは全然違う。
そして今日まで暮らしていた屋敷とも違う。

視線の先に広がる景色は、テーブルと椅子だけが置かれた無機質な部屋。そして少し離れたところに料理なんかできなさそうなとてつもなく小さな台所と冷蔵庫。

ほとんど物がおかれてない部屋はまるで生活感がないようにも見えるけど、部屋に来たときは別の意味でこんな簡素じゃなかった。


最初に部屋に来たときはもっと部屋中が汚かった。

あえていうなら、あの人のヤリ部屋ぐらい。

居間中に散らばるゴミ、床に落ちた食べ物、コンドーム、ベッドについた白い液体とか諸々は全部真冬が慣れたようにさっさと掃除していた。

汚くてごめんなさい、と申し訳なさそうに謝る真冬に、どうみても汚したのは他の人間なのになんで謝るのかと疑問に思う。

「気にならないから別にいい」と言葉にすれば、「…うん。ありがと」なんてよくわからないお礼を言ってちょっといつもと違う表情でへらっと緩く笑った。

…よくわからない。

何か手伝わないといけない気がして何をすればいいと聞く。

と、ムッとした顔で「くーくんはたいせつなおきゃくさんだからだーめー!」と椅子にむりに座らされて結局真冬が片付け終わるまで、風呂上がりの髪が濡れたままぼーっと眺めているしかなくてとてつもなく暇だった。


というか、座ってるだけだと無性に眠くなった。

…それで渡されたタオルで髪を自分で拭こうとしても、


「おれがやるからまって…!もうちょっとだけまって…!」と焦ったように何故か自分がやる、やりたいと主張してくる真冬にその必死さは一体なんなんだと疑問に思いながらも頭に乗せてあるタオルに触れようと持ち上げた手を下げた。

……そして結局今素直に真冬に髪の毛を拭かれているという状況である。
椅子だと高すぎて俺が座っても真冬の手が髪に届かないから結局綺麗になった冷めきった床の上だった。

自分だって髪の毛濡れてるくせにそれを放っておいて先に別の人間の髪の毛を拭くというのはなんかおかしくないか、と最早働かない頭で考えながらとりあえず何か言葉にしないと本気で眠りそうで言葉を絞り出す。


「…親帰ってこない時って、夜飯どうしてるの?」

「だいじょーぶ…!たぶんれいぞうこにある、から…だから…あとでいっしょにたべよ?」


後ろからタオルで髪を拭いていた真冬が手を止めた。

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