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吐き気と、暴力と、
実験 (椿side)
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股間に顔を埋めている家畜の髪を掴む。
「おい、家畜」
「…っ、ん、ぁ゛…っ」
ごくりと今日の分の精液を飲みこんで俺の雑な呼びかけに一瞬苦痛の声を上げてから、へにゃりと緩んだ笑みを浮かべて応えた。
その返事に多少機嫌を良くして、掴んだ髪を離してそこに手を当てて撫でてやればその顔がさらにだらしなく緩むのを見る。
「一之瀬蒼のこと、まだ引きずってるか?」
そう問えば、家畜は少し沈黙してからふるふると首を横に振った。
その唇の端についた白いモノがやけに卑猥に見える。
「おれには、ごじゅしんさまがいてくれるから、ほかにはなにも…いりません」
「…ふん」
少し寂しげな口調はやはり蒼に対して少し思うところがあるらしい。
あんなにイヤホンで聞かせたのに、まだ気にしてんのかよ。
多少腹立たしいような気分になったが、それを振り払って家畜にキスをすれば俺の首に腕を回して自分から舌を絡めてくる。
ほとんどちゃんとした飯を食わしてないからか、俺に少なからず体重がかかっているはずなのに全然重くない。
「…っ、ふ…ッ」
「……」
必死に俺の舌に縋りつく家畜。
家畜の唾液に自分がさっき出した精液の味が混ざっていて、やっておきながら微妙に不快感が募って。
その感情をぶつけるように激しく口内を貪る。
ただでさえ窓のないコンクリートで四方八方を固めただけの、酸素の少ない部屋での体内の空気全部を奪うようなキス。
「…っ、ぁふ…っ、んん…ッぁ…っ」
「…まっず」
「…は、ぁ…っ、は…っ」
当たり前といえば当たり前だが、精液の味しかしなかった。
酸素不足で俺に抱き付いていた家畜の身体からふ、と力が抜ける。
それを見てやっと満足して、口を離せば肩で息をする家畜を受け止めながらぼそっと呟いた。
目線を一瞬だけドアの方向にやる。
そこにいるヤツと目が合って、顎で合図するとその男は家畜から目を離さずににたにたと嬉しげな笑いを浮かべて歩いてきた。
おーおー、やる気じゃねぇか。
そのズボンの股間のところが少し膨らんでるように見える。……準備は万端か。
視線を戻す。
「おい、家畜」
「…はい」
家畜はまだその男の存在に気づいていないらしい。
少し笑いを含んだ俺の呼びかけに、少し首を傾げながら返事をする。
「一之瀬蒼のことが嫌いか?」
「………きらい、です。おれは、あおいのことが、きらい」
何度となく繰り返させた言葉を、家畜自身も呟きながらその言葉を刻むように小さく繰り返す。
はは…っ、こんなのアイツが聞いたらショックで死んじまうんじゃねえの。
「うそじゃねえよな?」
「…はい、うそじゃ、ありません…」
そう返す声は、酷く暗くて憔悴しきっている。
あれだけ過去に捨てられた奴らの声を聞けばこうなるのも当たり前か。
それは口に出さずに、もう一度問いかける。
今度は自分でも自覚するほど、声が完全に笑っていた。
「じゃあ、俺に抱かれてもいいと思うか?」
「…え、…」
俺の問いに家畜は一瞬硬直した。
なんでそんな話になるのか、と戸惑っている様子がありありと伝わってくる。
でも結局迷った挙句、コクンと鈍い動きで頷いた。
「……はい。だかれ、たいです…」
ごしゅじんさまなら…と続くだろう言葉に、その肯定の声に嗤う。
「――じゃあ、俺じゃなくても、一之瀬蒼じゃなかったら誰にでも犯されていいよな?」
「……え?」
今日は俺一人じゃねえんだよ。
そう耳元で囁いてから身体を離す。
呆気にとられたような驚いた声を上げた家畜の服の中に、持ってきた”ある物”を入れて立ち上がる。
気が動転しているのか、家畜は気づいていない。
「あは、久しぶりー真冬くん。蒼くんに、捨てられちゃったんだって?かわいそうだね」
「…っ、!!、や、」
突然聞こえた男の声に恐怖を覚えたのか家畜は身体を震わせて、狼狽えたような顔をして身を縮こませた。
キョロキョロと音のするだろう方向に顔を向けて、不安そうに拳を握っている。
「俺のこと、覚えてるー?」
「…わ、わかりませ」
「ほら、蒼くんに君が監禁されてた時、俊介くんのメールを持ってきてあげた…覚えてない?」
「…っ、」
怯える家畜に、躊躇うことなくにこにこと笑いながら近づいていく様子を色のない瞳で見る。
市川 碧人(いちかわ あおと)。
昔、蒼の家畜だった奴の一人。
過去に一回蒼に他の人間と対談をさせている間に、柊真冬を襲わせた。
だがそれを話せば、まだ商談中だってのに蒼がそっちに向かおうとしたから。
そのことにムカついて、予め薬を飲み物の中に入れ込んで、確実にまともには動けない状態にもしておいたにも関わらず、自分をナイフで刺して無理矢理正気に戻りやがった。
流石に予想外すぎて、それに面食らってる間に蒼は家畜を助けに行っちまった。
(あれはマジで失敗だった…)
あの時成功してたら、もっとコイツらの苦しむ顔が見れたかもしれなかったのに。
その後、流石に大切なお姫様に触れられたことはこれ以上ないほど逆鱗に触れたらしく、蒼の命令で今までのどの家畜よりも酷く使用人どもに弄ばれているコイツを救ってやって、今ここに連れてきた。
当然だが、可哀想に思って助けてやったわけじゃない。
所詮、市川は家畜の実験に付き合ってもらうためだけに用意した駒に過ぎなかった。
まぁ、蒼に数十本ほど骨を折られてるから、コイツ自身を見つけた時、生きてるのが不思議なぐらいだった。
死ぬより辛い拷問ってこういうことを言うんじゃないかと、その光景を見た時思った。
「よかったー、思い出してくれたみたいだね」
「…ぁ、な、なん、で…」
家畜も思い出したらしい。
口を一瞬だけぽかんとあけて、すぐに警戒するように床についた手で逃げるように後ずさった。
「ぁ、や、だ…」とその震える唇の隙間から、悲鳴にも似た声が小さく零れたのが聞こえる。
誰かを探すように視線を彷徨わせて、その手が何かを求める赤ん坊のように宙を彷徨う。
目が見えてないから当然といえば当然だが、その姿はとても無防備だった。
でも、残念ながらその方向に”俺”はいない。
「ごしゅじん、さま…っ、どこ…っどこです、か…」
「……」
あえて何も答えずにドア付近まで歩いて、背を壁に預ける。
あの時助けてくれたはずの蒼は、ここにいない。
今家畜がこの状況を回避できるかは、家畜自身の力でアイツを跳ね除けられるかどうかにかかっている。
さぁ、家畜がどう出るか。楽しみだ。
自然と唇の端が持ちあがる。
「家畜」
「…ぁ、」
俺の声を聞いて安堵したのか一瞬顔色を明るくした家畜に、短く命令する。
俺は蒼みたいに優しくない。
助けてなんかやらない。
「ソイツのちんぽをぶち込んでもらえ」
どこに、なんて言わなくてわかるだろ。
「…っ、…どう、して…」
これ以上ないほど、わかりやすい言葉。
俺の容赦ない台詞に、家畜が捨てられた犬のような声を出す。
目隠しの下には、絶望した瞳があるに違いない。
そう思うだけで、楽しくてたまらなかった。
「ソイツと一回セックスし損なったんだろ?ちゃんと最後までやってやらないと可哀想じゃねえか」
「うん。ほんと、それ。既に勃ちすぎて痛いんだよね。前より今の格好の方がそそるかも」
「…っ!」
家畜は今、昔に蒼が家畜に着せてやっていたという浴衣を着ている。
でもその服は最早原型をとどめていない程ぼろぼろで汚れて、精液と汗でカピカピに固まっている。
だが家畜はぎゅっとその袖を握って、泣きそうに歪ませていた唇を噛み締めて俯いた。
それについて何かを思うわけもなく、吐き捨てる。
「蒼を心の底から嫌いになったって言えるなら違う男と俺の目の前でセックスしてその証明をしろ。もしこんなことすらできないんだったら、俺はお前を捨てる」
「…ッ、ぁ…う…、や、やだ…っすてないで…ください…っごしゅじん、さま…っ」
「返事は」
「…ひ…っ、ぁ…やり…ます…っ、う…っ」
「……」
ぼろぼろと大粒の涙を零して泣きだした家畜は、顔を手で覆ってしゃくりあげている。
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