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吐き気と、暴力と、
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つまり…昨日まーくんの現状を聞いてからほとんど丸一日経ってしまったということで。
込み上げてくる焦燥感に、額から汗が零れ落ちてきた。
にやにやと気持ちの悪い笑みを顔面に張り付けている椿を睥睨する。
「まーく……柊 真冬を解放しろ」
「第一声がそれか?愛しの椿様が会いに来てやったのに。なんつー色気のねぇ言葉だこと。会いたかったーとか可愛いこと言えねえのか?」
「死ね」
馬鹿みたいなふざけた言葉をほざく声に、自然と睨む瞳に殺気が籠る。
コイツさえいなくなれば、まーくんはこれ以上傷つかずに済む。
……分かってる。
そう分かってるのに、俺には椿を殺せない。
「おっかしいな。薬打ちまくったってのに血が出るまで頭ぶつけて目ぇ覚まそうとするか普通。昨日は殴ってねぇのに血だらけじゃねえか。ドМ?」
「……――っ」
右手を掴まれて思い切り握られれば、吐きそうなほど強い激痛が脳を刺激した。
苦痛の声が漏れそうになるのを必死に歯を噛み締めて堪える。
「骨折による発熱…39℃程度ってところか」
「…っ、離せ」
俺の手から流れていた血を舐めた椿に、吐き気がこみ上げてくる。
気持ち悪い。
反吐が出る。
熱と薬の効果のせいで霞んでいく意識に飲み込まれないように、舌を思い切り噛めば少しだけ眠気が収まった。
ギリリと音を立てて少し緩んでいた鎖の長さを最小限にまで短くされた。
全く、身動きが取れない。
首輪が持ち上がって、無理矢理顔を上げられる。
唇が触れそうなほど至近距離で椿が、俺の頬に触れて口角を上げた。
「最近はもう誰とセックスしていても、暴れたりしなくなったのに。いきなり人が変わったみたいになっちゃって、どうしたの?」
「……」
「柊真冬の名前を聞いて正気に戻っちゃった?」
甘えるような女声に返事を返さないでいると、チッと荒い舌打ちが聞こえる。
「ほんと…ムカつくな、お前」と低く吐き捨てる声音。声は笑っているのに、その顔は不機嫌に歪んでいる。
「いっとくけど俺、男のチンポを穴に挿れたの、お前が初めてだったんだぜ?」
反射的に眉が寄る。
嬉しそうな、でも悲しそうな表情を浮かべているのを見て、知るかと吐き捨てたくなる。
「数え切れないほどお前とセックスする時間を繰り返して、それだけじゃない……毎日代わりがわり格別に良い女と頭がおかしくなるくらい何度も何度もセックスさせた。それなのにお前はどんな奴とヤッてる最中でも一人の男のことしか考えない…あーあ、まじムカつく」
「…っ、」
注射をポケットから取り出し、躊躇うことなく針を首筋に刺される。
チクリと痛みがして、液体が身体の中に入ってくる。
針の先が抜かれると同時に、その薬の正体を把握した。
(…また、媚薬か…っ)
体温が上がり、心音が激しく胸を打つ。ただでさえ上がっていた体温が急上昇し、視界が白んで意識が混濁する。
「柊真冬もいーけど、お前は俺のハジメテだからな。どうやってもそれだけは変えられねぇ」
「…っ、は…ッ」
「お前もはじめて。おれもはじめてだった。そうなると自然に特別な感情が生まれるのは仕方ないことだろ?」
椿が浴衣の下に手を入れて、足元に下着を脱ぎ捨てた。
パサリと床に落ちる衣類。
まーくん。
声にならなくても、自然と唇がその名前を呼ぶように形を作る。
身体が動かない。
「死ね…っ、くそ…やめろ…っ」
離れようと身体に力を入れても、目の前で自分の穴を解す準備をすすめる椿に吐き気がしてくる。
耳に響く水音。
聞きたくもない男の…嬌声。
視界の端で椿が自分で…その場所を解している。
……嫌な淫音がどこから聞こえてくるかわかっているから余計に吐き気が込み上げてきて、思わず顔を背けた。
嫌だ。いやだ。いやだ。
まーくん以外となんか、死んでも嫌だ。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
媚薬のせいで嫌でも熱く震える拒絶の声を聞いた椿は、これ以上ないほど嬉しそうに喉の奥で笑う。
「もっとお前の苦しむ顔が見てえ。お前だけ柊真冬と幸せになるなんて、そんなの許せるわけねぇだろ?」
「…離せ…ッ」
「いいのか?お前が俺を拒めば、アイツはずっとこのまま地下に閉じ込められたまんまだぜ?」
「…っ、」
ぐ、と唾を飲みこんだのを見て笑ってから、俺の浴衣の下に手を伸ばす。
そして、嗤った。
「ほら、もうこんなに大きくなってる。今すぐにでも、挿れたいんだろ?我慢すんなよ」
肌が触れあいそうなほど身体を近づけながら、上気した頬を緩ませる。
「そうだな。お前が俺の出す条件を呑めば柊真冬は解放してやるよ」
「……じょうけん?」
眉を顰めれば、耳元に唇を近づけてきた。
吐息が耳にかかって鳥肌が立つ。
「――…」
「っ、」
その後に続いた言葉に、息を呑んだ。
ああやっぱりと思うと同時に、途方もないほどの嫌悪感が体中を襲う。
「はは…っ、柊真冬を解放したいんだろ?まぁ、俺はどっちでもいいけどな」
俺の返事は一つしかない。
それをわかっているのか、発情したような表情で荒い息を零す椿は酷く満足げだった。
「…(…まーくん)」
一瞬、込み上げてきた感情に戸惑う。
…まーくんが幸せになれるなら、それでもいいか。
少し躊躇いがちに目を伏せてから
……わかった、と小さく頷いた。
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