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蒼のいない朝
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しおりを挟む言いづらそうに口ごもって、意を決したような表情で俯き加減だった顔を上げた。
「…真冬くん」
「はい」
「蒼から、家のことや昔のことって聞いたことある?」
「…ない、です」
その問いに首を傾げて、躊躇いがちに首を横に振る。
蒼は自分のことについては一切話そうとしなかったから、そもそも蒼の家族関係もよく知らない。
「やっぱり、…そっか」と小さく呟いた彼は、一度お茶を飲んで、コトンと机に置いた。
その顔に浮かぶ複雑そうな表情に、そんなに話し辛いことなのかと少し身構えてしまう。
気まずくて、俯く。
「その…すみません…。あんまり話したくないこと、でしたか…?」
「あ、いや、…ううん。…真冬くんにはちゃんと、話しておいた方がいいと思うから」
「気を遣わせてごめんね」と申し訳なさそうな表情を見て、ぶんぶんと首を横に振る。
身体を強張らせながら、じっとその口が開くのを待った。
緊張する。
「…実は、蒼と俺はね、……双子の兄弟なんだ」
「双子の、…兄弟?」
思いもよらない言葉に、目を瞬く。
いや、これだけ似てればそりゃあ双子以外に考えつかないんだけど。
…それでも、想像と本人の口から聞くのとでは大きく違う。
(…蒼に、双子の兄弟がいたなんて知らなかった)
「だから、まぁ…似てて当たり前といえば当たり前なんだけどね」
「……」
そっか。
双子だから…だから、さっき変な質問してごめんねって言ったのかな。
でも。
(…また、だ)
その顔に浮かぶ表情を、疑問に思う。
さっきもそうだったけど、どうして似てるっていう時そんなに辛そうな表情をするんだろう。
「俺たちは一卵性双生児だった。小さいころから、瓜二つだって言われたよ」
今でもこんなに似てるんだから、小さい頃も相当似てたんだろうなと思う。
幼いころの蒼って、…どんな感じだったんだろう。
今でもすごく綺麗な顔してるから、相当可愛かったんだろうな。
そんなことを考えていると、彼は不意にふわっと硬い表情を崩して笑みを零した。
「…今更だけど自己紹介。俺の名前は佐藤彼方(さとう かなた)っていいます。蒼じゃないってすぐに言わなくてごめんね」
「あ、いえ…!えっと、柊真冬です。よろしくお願いしま…」
勝手に勘違いした俺が悪いのに、謝らせてしまった。
ぶんぶん首を横に振りながらそこまで言いかけて、不意に気づく。
「苗字が、違う、…?」
「うん。俺と蒼は、別々に育てられたから苗字も違うんだ。ずっと昔に一緒にいただけで、ほとんど一緒に住んでないから最早兄弟って感じもしないんだけどね。…だから実質一人っ子って言った方が近いかもしれない」
「なんで、別々に…」
双子で別々、なんてそんなことあるのか。
別々にする意味がわからない。
「うーん。真冬くんも、本家に行ったならわかると思うんだけど…あ、本家っていうか、蒼の家って行ったことある…よね?」
「…はい」
頷く。
蒼から聞いてないのかな。
行ったというか、…むしろ蒼とずっとそこに住んでいた。
…決して幸せな思い出ばかりじゃないけれど。
でも、そんなに昔のことじゃないのに、随分前のことのように感じて懐かしくなった。
彼方さんは、少し俺から視線を逸らした。
「…昔から、あの家はちょっと変わってて、…優秀なもの、もしくは父にとって興味のあるものしか中に入れてくれないんだ。いらないものは切り捨てる。必要なものだけを中に入れる。そんな家だった」
「中に入れてくれないって…」
「文字通り、家族の一員として認めてもらえない。家畜当然の扱いをされるんだ。…父が、100点以外は0点と一緒って考え方の人だったからさ。幼いころから100点取れない時は、俺も蒼も散々殴られた」
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