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蒼のいない朝
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………………
「ご、ごめん」
「…ううん」
しばらくして落ち着いてきた俺を離して、少し安堵したように彼は微笑んだ。
「ずっと探してたんだね。近くにいなくて、ごめん」
「…っ、ううん…」
そう申し訳なさそうに言って、ひっくひっくとまだ小さく嗚咽を漏らして首を横に振る俺の頭をよしよしと撫でてくれた。
あたたかい言葉が、胸に染みて涙がぶわっとまたこぼれた。
頬が緩むと同時に、周りで歩いていた人の目線がこっちに向けられているのを今更感じて、頬が熱くなる。
涙で濡れた頬をぐしぐしと袖で拭った。
彼は立ち上がって、優しく笑いながら俺に手を差し伸べた。
「とりあえず、部屋に戻ろうか」
「…?」
首を傾げる。
あれ…?
なんか、違う…?
その微笑みが何か記憶のモノとは違う様な気がして、多少の疑問を覚えながら、きゅっと手を握られたまま連れられていく。
さっきの部屋に向かっているのだろうか。
買い物から帰って来たらしく、手に大きな買い物袋を持っている。
カンカンと音を立ててさっき降りた階段をのぼっていく。
あったかい。
繋いだ手のぬくもりにほっと息を吐いて、嬉しくて笑みを零しながら握る手に力を入れた。
迷いもなく前をスタスタと歩く姿を見あげる。
(ここ、蒼が昔住んでた場所だったりするのかな…?)
聞いたことない。
不思議に思いながら、鞄から取り出した鍵で、玄関のカギを開けるのを見る。
そのまま俺も中に入ろうとすると、「ちょっと待った」と制止の声がかけられる。
「?」と首を傾げれば、彼はしゃがみこんで、俺の足を見てから「あー…」とうめき声を零し、哀愁の漂ったため息をついた。
血のにじんで、砂のついた俺の足。
危なかった。部屋を汚すところだった。
「裸足で歩いたからか…。…血も出てるし。目を離してた俺が悪いけど、怒られるなぁ…」
「…蒼?」
そのまま少し落ち込んだように頭を垂らしていた彼は、立ち上がって俺の腕を引っ張った。
連れていかれた場所は、バスロームだった。
小さいけど、ちゃんと座る椅子もある。
「…とりあえず、お風呂入ってきてもらってもいいかな?長い時間寝てたから気持ち悪いだろうし、足も傷口から細菌でも入ったら化膿して、大変なことになるから」
「…?はい」
確かに、言われてみれば身体が汗でべとべとだ。
何故か少し他人行儀な感じでそう問いかけてくる蒼に、戸惑いながらも思わず敬語になって、コクンと頷く。
(…声も、なんか違う…?)
「あ、一応お湯ためるからちょっとだけ待ってて」
「…うん」
いや、違うわけない。そんなことないと首を横に振って、俺は促されるまま、それから少しして風呂に入らせてもらうことになった。
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