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足音
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しおりを挟むそのことが、どうにも引っかかって頭から離れない。
俊介が言った「周りで人がいなくなることがなかったか」って前に聞かれたことも気になって。
昨日の夜、依人に電話で聞いてみた。
……そうしたら、「何人もいたのになんで知らなかったんだ」って言われて。
そうだ。なんで俺だけ何も知らなかったんだろう。
依人も知っていて。
俊介も知っていて。
板本君も、知っていて。
……でも、あの時蒼はそんなこと知らないって言っていた。
人がいなくなるようなことがあれば、世間でニュースになってもっと話題に上がる。だから、それを”まーくん”が知らないはずがないって。
確かに俺は知らない。誰かがいなくなったことなんか聞いたこともなくて、知らなかった。
…だから、俺もその通りだと思って、あの時の俊介の問いを勘違いだと思って忘れてたけど。
そのことについて知っている人が何人もいるのに、もう勘違いだろうなんて打ち消して無視することなんかできない。
友達の少なかった俺はまだしも、他にもたくさん友達がいた蒼は本当は知ってるんじゃないかって依人は言った。
そのくらい、多くの人の間で噂になっていたらしい。
そして、いなくなった人は蒼だけじゃなく…”俺”にも関係した生徒ばっかりだったとも言っていた。
……蒼の言ってることと、他の皆が言ってること、どっちが正しいんだ。
もう、どれが本当のことなのかもわからない。
「……っ」
ずきりと痛む頭をおさえて、どくどくと速く脈打つ胸に息が乱れた。
なんで、俺は何も知らないんだろう。
…知らないうちに、どこかおかしくなってるのかな。
一瞬頭の中に顔の見えない人間が何人も浮かんで、消えた。
不安で胸が潰れそうになるけど、今はそんなことをじっくりと考えている余裕なんかない。
「…蒼は、何も言ってくれない」
気づけば、そんな言葉が口から零れていた。
…怒りというより、むしろ悲しみに満ちた声。
その佐竹って男子生徒のことも、一言もいってくれなかった。
俺のために探し出して、多分…俺のことを助けようとしてくれたんだろう、と思う。
すごく、感謝してる。
本当に、嬉しいと思ってる。
でも、なんで俺にそのことを黙ってるんだ…?
………どうして、あの時蒼は行方不明になった生徒が”いない”って言ったんだ。
どうして、何も教えてくれない。
唇を噛みしめる。
「依人のことだって、俊介のことだって、板本君のことだって、せっかく友達になれたのに…っ、なんでそんなに俺から離したがるんだよ…っ!」
「…っ、それ、は…」
悲しみと怒りでぐちゃぐちゃになった感情のせいで、眼球が熱くなってくる。
ぼやける視界の中で、そこにいるだろう蒼を睨み付けた。
「…っ、そうやって何も言ってくれないのに、いつもいつも俺が蒼のいうことを聞こうと思えるわけないだろ……!!」
「…――ッ、まーくん…っ、待…」
気づけば、叫ぶような大声を出して背を向けて走り出していた。
周りで歩いていた生徒が驚いたように、こっちを振り返る。
でも、焦った蒼の呼び止めるような声も、他の人の目も無視する。
俺だって、
(…俺だって、自分だけ何もしらないままなんて嫌だ…っ)
冷たい風が強く顔に吹き付けて、刺すように肌が痛い。
けど、そんなことどうでもいいと思えるほど、今はとにかく一人になりたかった。
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