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お世話
3
しおりを挟む口の中に僅かに残った液体に、喉を上下させる。
それが何故か、いつもよりやけに大きい音に感じたような気がする。
喉を伝って入っていった水のおかげで、多少の渇きは癒された。
口に入りきらずに零れた水によってぬれた部分を手で拭って、うまく働かない頭で考える。
「飲めた?」
「…っ、うん、」
飲めた。
確かに、飲めはした…んだけど。
(……でも、)
いや、でも
「あ、あの、あお…っ、」
再びペットボトルを持って、それを口の中にいれようとしている彼に何か言おうとすると。
無表情の蒼に、すぐにまた顎を掴まれて唇を塞がれる。
「ま…っ、ん…っ、」
流れ込まれる液体を無理矢理飲み込まされる。
さっきより抵抗したせいで、水が顎を伝って零れる。
今度は服に零れて、汗で濡れた服に水が沁みこんだ。
熱が少しは下がったとはいっても、何度もこんなふうに息ができなくなるのは苦しい。
……というか、口移しとか予想外すぎてどう反応すればいいかわからない。
温度の低い舌が、おれの熱い舌と擦れる。
熱を奪い合うようにして粘膜が擦れ合い、クチュ、と音が鳴った。
そうしている間に蒼の舌も熱くなって、軽く舐められた後、唇が離れる。
離れていくのを目で追うことすらできず、咳き込んだ。
「…ごほっ、ちょ…っ、待って」
腰を折って咳をしていると、また蒼がペットボトルに口をつけようとする。
必死に身体を動かして手を伸ばし、その制服の裾を掴む。
「待っ、て…っ、あおい…っ」
「何?もう喉乾いてない?」
さも、この行為が当たり前かのように普段通りの様子に絶句する。
多分蒼のことだから、本当に純粋におれが熱のせいでうまく水を飲めないだろうと気を遣ってしてくれたんだろう。
その気持ちは嬉しい。
……嬉しいんだけど、あまりにもおれの考えになかったことをすごく当たり前にやるからびっくりしてしまう。
こっちを向いてくれた蒼に、こくこくと頷く。
さっきよりも頭痛がする頭を押さえながらも、わかってくれたらしい。
ペットボトルが机の上に置かれるを見てほっと肩をなでおろした。
「…(う…)」
ぐらりと視界が歪む。
喉の渇きは満たされたけど、今の行為で疲れた。
やばい。熱が悪化した気がする。
「…はーっ、」
布団に横たわり、大きく息を漏らす。
最早話す元気もなくて、荒くなってなかなか平常に戻らない呼吸を必死に整える。
熱い。苦しい。
怠い。
完全に風邪の症状でやられている証拠だった。
(……え?)
傍で座っている蒼が、徐におれの制服のボタンに手をかけた。
熱のせいかぼやける視界のなか、指がボタンを外していくのが見えて焦る。
皺になったワイシャツ。
その穴にかけたボタンが布の擦れる音とともに、はずれていく。
いきなりすぎて、焦る前に一瞬動けなくなって思考が停止した。
「ちょ、…っ、ごほっ…」
制止しようと声を出そうとすれば
少し話しただけで、咳き込んで何も話せなくなる。
やばい。体力が大幅に減った。
その間にも彼はおれのワイシャツのボタンを外し終えていて。
蒼の整った顔が怖いくらい無表情だから余計に何を考えているのかわからなくて慌てる。
「あの…っ、あおい…?」
掠れた声で呼びかければ、彼は表情を緩めて視線を逸らした。
何かをぴちゃんと液体につける音がする。
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