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修学旅行
雨の日
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ある冬の日の、今までにないほど強く、冷たい雨の降る夜のことだった。
強い北風に煽られて、横殴りの雨がガラス戸に叩きつける音で目が覚めた。
いや、正しく言えば、目を開いた。
緩慢な動作で布団からもぞもぞと顔を出す。
ガラス戸にぶつかる雨が、バチバチと音を立てていた。
もうどれぐらい雨が降ってるんだろう。
昨日の夕方から降り始めた雨はさらに勢いを増していて、今にも地上を水で埋めてしまうのではないかとさえ感じる。
「…あー…」
やっぱり、眠れない。
時計に目を移すと、夜の午前0時。
かれこれ二時間以上布団の中でこうしている気がする。
羊を121…(だっけ…?忘れた)匹まで数えて、その後はもう数えるのが面倒になってやめてしまった。
「…もう、いいや」
初めから雨の日に寝るなんて無理だったんだ。
……そもそも、普段からよく眠れることなんて滅多にないけど。
ため息を吐いて、布団から冬眠後の熊ごとくのっそりと出る。
雨の様子を観察しようと、窓に手を触れて空を見上げてみた。
相変わらず怖いくらい大粒の雨が、暗い空から降ってくる。
(…うわ、)
遠くの空の方では、時折ピカピカと光っていた。
「…感電したら死ぬだろうな」
他人事のように考えて、
不意に視線を落とすと、予想もしない光景が目に飛び込んできた。
「えっ、」
意識するよりも先に、驚きの声が上がる。
なんでこんなところに、ってそんな疑問よりもまず、
玄関まで大急ぎで走って、適当なサンダルを履いてガチャリと重い扉を開いて外に出る。
「…っ、わ、!!」
もはや風を遮るものはほとんど何も無く、先程安全地帯から眺めていた横殴りの雨が今度は容赦なく直接、体に叩きつけてくる。
冷たい氷の刃が何度も身体の皮膚に突き刺さる。
一気に頭の上からそんなものをかぶせられて、目を開けているのも難しい。
話そうと思って口を開いても、すぐに冷えた水のような、鉄の錆が入っているような、そんな味のものが口の中に入ってくる。
雨の音に負けないようにと、声を張り上げた。
「あおい…っ!!」
「……、」
睫毛の下。無感情な目が、ぼんやりとこっちを向いておれを見つめる。
いつからここにいたんだろう。
そう思うくらい、全身ずぶ濡れ状態だった。
制服が水を吸って、色を失くしている。
黒い髪が濡れて一層黒く見えた。
「なんで、こんな時間にいるの…?!何かあった?」
「…まー…く、ん…?…」
髪から頬を伝い、顎へ落ちて滴る雫。
薄く整った唇を僅かに動かし、白い息が零れる。
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