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修学旅行
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しおりを挟むでも、どう考えても。
おれが誰かに近づくことと、蒼くんの許せない発言がつながらなくて。
理解できないことになんかむむっとしてきて「どーいう意味か教えて」と何故か呂律のまわらない口調で蒼くんを見てそう問うと「そんなに深く考えないでいいよ」と、ぎゅっと抱きしめられて蒼くんの顔が見えなくなる。
(…そういえば、こうやってハグしあうのも普通なら変なんだっけ?)
何が変でなにが変じゃないんだ。と眉を寄せて考えたけど、そんなの一瞬でどうでもよくなった。
ハグするのって安心できるし、寂しくならないから、好きだ。
変かどうかなんてもうどうでもいいやと思考するのをやめて、とりあえず瞼が重くて、目を閉じて蒼くんの肩に顔をもたれかけさせる。
そして、抱きしめ返しながら思い出す。
「蒼くん、もっとちゃんとたべないと」
細いと思う。
というより、モデル体型なだけあって、でもそれって昼ご飯食べてないことが原因だったらやばいんじゃないのかアイス食べたいとぐるぐる脈絡のないことを呟いていると、ふ、と空気が緩む。
蒼くんが肩を震わせて笑っている。
「…なに」
こっちはこんなに真剣に話しているというのに、笑うとは何事だとむっとして身体を離せば「まーくん」と目を細めた蒼くんに呼びかけられて「ん?」と首を傾げる。
「可愛いな、本当に」
相変わらずそんなこと言って、子どもを可愛がる親みたいに頭を撫でられる。
何が可愛いのか、男に可愛いなんて全然褒め言葉じゃないとぶつぶつ文句を言ってみる。
ふいに蒼くんがおれの頬に触れて、寂しげに目を伏せた。
「なんで、まーくんは俺のこと”くん”づけで呼ぶの?」
「なんでって?」
「…依人、とか、その……女子とか、まーくんは普通に名前で呼んでたのに」
拗ねたような口調と表情に、そういえばなんでだろうと首を傾げる。
なんか蒼くんはやっぱりどっか雰囲気が皆と違って、落ち着いてて、そういう人を名前で呼び捨てってことに抵抗があったから、だったっけ。
でもどうしてかって言われると、そこまで説得力のある言葉なんて返せない。
とん、と額に何かが軽く触れる。
「まーくんに、名前で呼ばれたい」
「…っ、」
額同士がくっついたままで、蒼くんの綺麗な顔が間近にあることに何故かドキドキしてしまう。
その初めて聞いた甘えるような口調がなんだか可愛くて、「うう…」ととりあえず唸ってみる。
でも今更名前呼びも変な感じするし、なんか気恥ずかしいしと小さく呟いて。
「……だめ?」
「っ、う、…」
……な、なんだそれ。
ぐ、やられた、と心臓をおさえながら、さっきの返答では納得してくれなさそうだったから、最終的にこくんと頷いた。
「わかった。明日から呼ぶ」
「今、呼んで」
「…っ、ぬ、ぬ」
瞬時に返ってきた言葉に、そんな変な声が口から出た。
"明日から"という逃げ道を作っておいたのに、逃走妨害で前に回り込まれたような気分だ。
今言うのは。というかむしろこの雰囲気で言うのは非常に難しい。
でも「お願い」と蒼くんに甘えるような声音で言われれば、おれに拒否することなんてできなくて。
多分、蒼くんもわかっててやってるんだろう。
ああもうこの甘ったるいような変な雰囲気のなかで呼ばないといけないのかそもそも蒼くんはなんでそんなに名前呼びに拘るんだろうでも確かに蒼くんはおれのこと「まーくん」って呼んでくれるしそろそろ名前で呼んでもいいのかもしれない。
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