手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
上 下
151 / 804
修学旅行

15

しおりを挟む



でも、どう考えても。

おれが誰かに近づくことと、蒼くんの許せない発言がつながらなくて。

理解できないことになんかむむっとしてきて「どーいう意味か教えて」と何故か呂律のまわらない口調で蒼くんを見てそう問うと「そんなに深く考えないでいいよ」と、ぎゅっと抱きしめられて蒼くんの顔が見えなくなる。


(…そういえば、こうやってハグしあうのも普通なら変なんだっけ?)


何が変でなにが変じゃないんだ。と眉を寄せて考えたけど、そんなの一瞬でどうでもよくなった。

ハグするのって安心できるし、寂しくならないから、好きだ。

変かどうかなんてもうどうでもいいやと思考するのをやめて、とりあえず瞼が重くて、目を閉じて蒼くんの肩に顔をもたれかけさせる。

そして、抱きしめ返しながら思い出す。


「蒼くん、もっとちゃんとたべないと」


細いと思う。

というより、モデル体型なだけあって、でもそれって昼ご飯食べてないことが原因だったらやばいんじゃないのかアイス食べたいとぐるぐる脈絡のないことを呟いていると、ふ、と空気が緩む。

蒼くんが肩を震わせて笑っている。


「…なに」


こっちはこんなに真剣に話しているというのに、笑うとは何事だとむっとして身体を離せば「まーくん」と目を細めた蒼くんに呼びかけられて「ん?」と首を傾げる。


「可愛いな、本当に」


相変わらずそんなこと言って、子どもを可愛がる親みたいに頭を撫でられる。
何が可愛いのか、男に可愛いなんて全然褒め言葉じゃないとぶつぶつ文句を言ってみる。

ふいに蒼くんがおれの頬に触れて、寂しげに目を伏せた。


「なんで、まーくんは俺のこと”くん”づけで呼ぶの?」

「なんでって?」

「…依人、とか、その……女子とか、まーくんは普通に名前で呼んでたのに」



拗ねたような口調と表情に、そういえばなんでだろうと首を傾げる。

なんか蒼くんはやっぱりどっか雰囲気が皆と違って、落ち着いてて、そういう人を名前で呼び捨てってことに抵抗があったから、だったっけ。

でもどうしてかって言われると、そこまで説得力のある言葉なんて返せない。

とん、と額に何かが軽く触れる。


「まーくんに、名前で呼ばれたい」

「…っ、」


額同士がくっついたままで、蒼くんの綺麗な顔が間近にあることに何故かドキドキしてしまう。
その初めて聞いた甘えるような口調がなんだか可愛くて、「うう…」ととりあえず唸ってみる。

でも今更名前呼びも変な感じするし、なんか気恥ずかしいしと小さく呟いて。


「……だめ?」

「っ、う、…」


……な、なんだそれ。

ぐ、やられた、と心臓をおさえながら、さっきの返答では納得してくれなさそうだったから、最終的にこくんと頷いた。


「わかった。明日から呼ぶ」

「今、呼んで」

「…っ、ぬ、ぬ」


瞬時に返ってきた言葉に、そんな変な声が口から出た。

"明日から"という逃げ道を作っておいたのに、逃走妨害で前に回り込まれたような気分だ。

今言うのは。というかむしろこの雰囲気で言うのは非常に難しい。
でも「お願い」と蒼くんに甘えるような声音で言われれば、おれに拒否することなんてできなくて。

多分、蒼くんもわかっててやってるんだろう。

ああもうこの甘ったるいような変な雰囲気のなかで呼ばないといけないのかそもそも蒼くんはなんでそんなに名前呼びに拘るんだろうでも確かに蒼くんはおれのこと「まーくん」って呼んでくれるしそろそろ名前で呼んでもいいのかもしれない。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

無自覚な

ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。 1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。 それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外 何をやっても平凡だった。 そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない そんな存在にまで上り積めていた。 こんな僕でも優しくしてくれる義兄と 僕のことを嫌ってる義弟。 でも最近みんなの様子が変で困ってます 無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...