手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
上 下
127 / 804
【記憶】

9

しおりを挟む






元々の色素が薄いから肌が白いというのもあるだろうけど、顔から少し血の気が引いているように感じるのは気のせいだろうか。

人形と間違えてしまいそうなほど美しい少年を体現したような見た目をしているから、こういう食べないところを見ると実は本当に生きている人ではなかったりするのかと錯覚してしまいそうになる。


(……でも、蒼くんは間違いなく話もするし、動いてる)


豪華な弁当があるのに自分の一般的な弁当の中身を食べさせるのも悪いなと思って、今まで遠慮してたけど。


「…(このままじゃ、だめだ)」


どうにかして一口だけでも食べさせようとオムライスをスプーンですくって、蒼くんの前に差し出してみる。


「はい、蒼くん。あーん」

「…っ」


これやるの何年ぶりだろう。
少し面白くて無意識に笑顔が零れる。
でも、スプーンを差し出しても、蒼くんはなかなか食べようとしなくて。


「…ほら、蒼く…、」


言いかけた言葉がとまる。

何故だろう。
蒼くんが、硬直してしまった。


「…あ、あの、」


やばい。自分でやったことなんだけど、今更恥ずかしくなってきた。
自分のしていることを客観的に考えてみると、徐々に頬が熱くなってくる。
一向に動かない状況に、耐えられない。

中学二年生の男子生徒が、あーんを友達にする光景。


「…(う、うお…)」


何してるんだろう自分。
蒼くんも気持ち悪いと思ったかな。

「あーん」をした状態のままで、この差し出したスプーンを持つ手をどうしようなんて考えて、フリーズする。


「……」

「…………」


その静寂をぶち壊すように一つの声。


「あー、蒼だけ甘やかされてずるいー」


不満げな依人の声が突然耳に届いて、ハッとする。

蒼くんも困ってる…よな。


「ご、ごめん…!!やめ…」


やめる、そう言いかけた時。


「……っ、ちょ、」


焦ったような声とともに、スプーンを持っている方の手首を掴まれた。


「えっ」と小さく驚く声が遠くから聞こえた。


「食べるから、待って」

「…っ、」

「…いい?」


引き下げようとしたおれの反応が気にかかったのかもしれない。
確認するように問いかけられ、頭の中は真っ白なまま、小さく頷く。

蒼くんの言葉に、返事をする余裕もなかった。

彼はその薄く形の整った唇を僅かに動かし、口を開く。

それから、おれの差し出していたオムライスに少し顔を近づけて、

………食べた。

手が、離れる。


「おいしい。ありがとう、まーくん」

「…う、うん?」


零れるようなあまりにも嬉しそうな笑顔に、若干嬉しさやら驚きやらで変に語尾が上がってしまった。


いつから見ていたのか教室のそこら中で女子の歓喜の奇声が上がったけど、それが耳にも届かないくらい心臓がどきどきしている。
まさか、食べてくれるとは思わなかった。


「ずるいー。真冬―俺にもー」

「え、う」


もう一度やるの辛いなあと若干怯んだ。
でも蒼くんにだけやるのもおかしいし、と依人の言葉に頷こうとして、声が重なる。


「お前はだめ」

「なんで蒼にそんなこといわれないといけないんだよ!蒼の阿呆!」


ぴしゃりと跳ねつけるように即答する蒼くんに、依人が「ばか!阿呆!変態!むっつり!」と暴言を吐く。
それを意に介せず、完全無視する蒼くん。
そんな二人のやりとりが面白くて、ちょっと笑ってしまった。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

無自覚な

ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。 1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。 それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外 何をやっても平凡だった。 そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない そんな存在にまで上り積めていた。 こんな僕でも優しくしてくれる義兄と 僕のことを嫌ってる義弟。 でも最近みんなの様子が変で困ってます 無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...