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…ただ、傍にいたかった。
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しおりを挟むいつもなら自分で歩くと言いたいところだけど。
その有無を言わせぬ雰囲気に、まあいいやと思って彼の首に腕を回して、ぎゅっと抱き付いてその髪に顔を埋める。
すると、蒼が笑ったのが気配で伝わってきた。
扉を開けた瞬間に、ふわりと身体に吹く冷たい風。
その寒さに、一瞬目をつぶる。
冷たいというより、この時期になると冷たさが痛い。
しばらく歩いていると、誰かに声をかけられる。
固い、緊張したような声。
「蒼様、どちらへいらっしゃいますか?」
「大浴場に行く。その間、誰も寄せ付けるな」
「はい。承りました」
抱き寄せられ、下を向くように手で頭をおさえられる。
顔を首元に押し付けられて、誰と話しているのかわからない。
…でも、なんとなくその雰囲気と言葉づかいから屋敷の使用人みたいな人だろうと思った。
誰かと話すときでさえ、彼は俺の顔をできるだけ隠すようにする。
その理由は分からないけれど、蒼がそうした方がいいと思うならそれでいい。
ガラリと音を開けて、大浴場の着替えの部屋に入ると蒼が俺を床におろしてくれる。
床に敷かれているタオルのおかげで足が冷たくない。
立ったことによる腹圧と重力も含めて、肚の中に出された精子がとろ、と後孔から太腿に零れ落ちる感覚に小さく震えた。そういうのもあって、余計に目を合わせづらくなる。
「あ、ありがと…」
「ほら、腕上げて」
最早当たり前のように、蒼は俺の浴衣を脱がしていく。
促される通りに、されるままに動いた。
全部脱がしてもらった後、一応暖房はついているけど、冷えたらだめだからと大きなタオルを背中から被せてくれる。
……そうされることに慣れてしまった自分が本当に恐ろしい。
「…あんまり見られてると、キスしたくなってくるんだけど」
「……う、ごめん」
ぼーっとその様子を眺めていると、そんなことを言われたので気恥ずかしくて、俯く。
確かに。ちょっと、見過ぎだった。
「おいで、洗ってあげる」
「…え、蒼は?」
俺の服を脱がしたのに、何故か彼は着物を脱がずに風呂場に俺を連れて入ろうとする。
脱がないの?と驚いて声をかけると、少し瞳を伏せて微笑んだ。
「……俺は、後で一人で入る」
その言葉に目を瞬く。
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