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魔法少女

異質

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  全員が固まっているが、今のセリフを聞いていない人物がいた。チャッピーの声が届いていない以上、緊張も恐怖も無いはずだ。

「送。狙撃できるか?」

 竜聖が押し殺した声で無線に話し掛ける。今なら大事にならずに始末できると踏んだのだが、彼女から帰って来たのは否だった。

『身体の半分以上が少女の脚に隠れてる』

 脚もろとも吹き飛ばせば可能だが、それはできない。

「複雑なことを考えない方が良い。逃げても良いが臭いで追える」

 そうなれば咲たちにできる行動は1つ。

「行くぞ」

 竜聖が号令をかける。

「罠だぞ?」

 藤十郎が言う。

「他に選択肢は無い。相手が隙を見せるまでは誰も撃つな」

 つばきにもそう指示し、咲に代わりに竜聖が戦闘に立つ。

 時間外の学校なのだから、校門にも鍵が掛かっているはず。そう考え、乗り越えようを手をかけると、カチャンと音を立てて校門が開いた。

(鍵のかけ忘れ、なわけはないな。何から何まで手のひらの上か。23時に敵が来るというのも、僕らをおびき出すための嘘だろうな)

 こみ上げてくる笑いを噛み殺し、敷地内に入る。

 完全武装に身を固めた彼らを見た少女たちは、驚愕と恐怖が滲んでいた。きっと今まで倒してきた敵の方が死をイメージし辛かったのだろう。その点、銃は子供でも分かるくらい危険な兵器なのだから当然と言えた。

咲たちは、魔法少女たちと3メートルほどの間を開けて足を止めた。

「こうなってしまったんだ。僕らの目的を話そう」

 竜聖が話し始める。

「僕らは、依頼によって魔物を退治する組織だ。今回の依頼は『魔法少女となった娘を助けてほしい』という、君のお母さんからの依頼だ。瀬戸舞花ちゃん」

 威圧感を減らすために優しく穏やかな口調を意識する。

「僕たちの調査で、君たちの力の源はそこのウサギ、チャッピーと言うんだっけ? 彼だと確信した。君たちの元から、彼を引き離せれば依頼は解決だ。」

 戸惑う少女たちに代わり、チャッピーが応答する。

「私を捕まえてどうする? 殺すのか?」

「いや、依頼は娘を助けてほしいという事なので、殺しはしない。彼女たちを普通の小学生に戻してくれ。その交渉のために一緒に来てほしい」

 それは、ほぼ嘘と言っても良い方便。穏やかに事が進むのなら平気で嘘を吐く事は厭わない。

「いや、それはできない。私はお前たちを信じてはいない」

 完全なる拒絶。子供を言いくるめる様にはいかないらしい。竜聖は次の手を考えるが、相手に先手を取られた。

「お前たちは、私の様な異質を殺すために生きているのだろう? ならば異質に手を貸したこの少女たちを傷つけない保証も無い」

 だから信用しないのだ。と念を押された。

 この手の会話は、即座に否定しなければならない。考えるのは肯定に見える。なので竜聖はすぐさま否定する。

「違う。さっきも言ったように、子供たちに罪は無い。魔法少女としての生き方から解放してほしいんだ。舞花ちゃん。僕らは君のお母さんから話を聞き、とても心配している事も聞いたんだ」

「……お母さんが」

 舞花が反応を示した。自身の親からの願いと聞かされれば当然だった。そして舞花以外の3人にも、表情に影が見える。親に隠し事をしている事への罪悪感だろう。
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