上 下
16 / 46
魔法少女

緊急

しおりを挟む
 平日は朝から学校なので、監視はしない。午後3時あたりに瀬戸邸を訪れて5時間ごとの待機。

 舞花は、夕方まで友達を自室に呼んでお喋りに興じたり、鉛筆と紙がこすれる音だけが響いたり。

 実に健全な小学生だった。

 4日目の朝、監視を切り上げてきた聡里とつばきが事務所に戻って来た。

「監視終了だ。異常なし」

 竜聖に報告して、車のキーも返す。

「朝飯いるか?」

 藤十郎が咲とつばきに尋ねる。

「何か軽いもん作ってくれ。食ったら寝る」

「私はいい、寝る」

 咲はソファに座り、眠るために部屋から出て行く。

 事務所内に設置されている給湯室で、ベーグルを焼き始めた藤十郎。それを待ちながら、咲はテレビの画面を見る。朝のニュース番組では、動物園の特集が放送されていた。

『こちらが、つい先日生まれた赤ちゃんライオンです。カワイイですねぇ』

 女性のリポーターがこれでもかと笑顔を振りまく。

 咲としてはチャンネルを変えたいところではあったが、聡里が画面に食い付いているので、変えられない。

(変えたら怒るよな)

 可愛いもの好きの聡里から可愛いものを奪うと物凄く恨めしい表情になるので、あきらめの気持ちを持ってリモコンから手を放す。

 すると、

「ほらよ」

 そう言って藤十郎が咲の前にベーグルと紅茶を置いた。

 横半分に切られたベーグルは軽くトーストされ、具には目玉焼きと厚く切られたハムが挟まっていた。

 いただきます。と言ってから咲はベーグルをかじる。

 カリカリのベーグルに半熟の黄身。厚く切られたハムからも肉汁が出てくる。ソースにはマヨネーズを使っているが、藤十郎の特性なのか微かに酸味が強い。それが全体を引き締め、さっぱりとした印象を与える。

 それを無言で食べきり、紅茶を飲み干した。

「さて、1眠りするかな」

 ソファから立ち上がり伸びをする。大きく深呼吸をして、だるそうに事務所から出て行こうとした時、誰かの携帯電話が着信を知らせた。

「はい」

 そう電話に出たのは竜聖だった。

 咲は、嫌な予感と共に立ち止まり竜聖の方を見る。

「はい、はい。解りました。こちらも人員を、……全員ですか? 今抱えている案件があるので、…………。解りました」

 そう言って通話終了のボタンを押した。

「緊急の依頼だ」

 その一言で、咲の嫌な予感が現実となった。

 つばきも起こされ、全員が事務所に集まり、竜聖から依頼内容が語られた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...