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本編
第107話 マヨイは放置しない。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
[動画被写体通知:許可/不許可]
「……ん?」
酒場から出て東へ歩き出した直後に久しぶりに見る通知が届いた。どうやら僕の姿を収めた動画を掲示板に投稿しようとしたプレイヤーがいるらしい。最近撮られたものなのか、それとも以前撮られたものなのか判断が付かなかったので投稿される動画を確認する。
「……え、あそこにプレイヤーいたの?」
その動画の内容はオリオンの生着替え未遂を盗撮したものだった。オリオンが脱ぎ始めたところから僕が席を立って止める場面までの約15秒の短い動画だったけど、これはオリオンが脱ぎ始める前から撮影していなければ無理なタイミングだ。僕とオリオンの会話はまるまる撮影されてしまったと考えていいだろう。客か店員かは分からないけれど、その中にプレイヤーがいたのに気が付けなかったのは失態だ。
「プレイヤー名は……通行人B?」
通知は当然拒否するが、撮影した通行人Bというプレイヤーが気になった僕は適当に歩きながら掲示板の検索機能を利用して彼もしくは彼女について調べることにした。
その結果、通行人Bは盗撮スレとも呼ばれる動画投稿スレに頻繁に投稿や書き込みをしているプレイヤーのようだ。どうやら透明になる技能や通知が送られない撮影方法などを発見し、それを応用して女性プレイヤーしか出入り出来ない店に忍び込んで盗撮を繰り返すなどしているらしい。
「……よし、通報しよう」
どうやら他のプレイヤーの多くは先ほどの通知を"常に許可する"または"常に拒否する"のどちらかにしている場合がほとんどのようで、前者の設定にしているプレイヤーの盗撮動画を何件か見つけることが出来た。
許可している以上は被害者はいないというのが彼の主張らしい。それに関しては僕も同意見だけど、さすがに女性プレイヤー専用の施設で撮影した動画を投稿する際に──設定で"常に拒否"にしている場合は投稿できないらしいが──相手側に通知が送られないという不具合を発見、それを積極的に利用しているのはやりすぎだと思う。それに不具合の積極的利用は──掲示板でも何人かが指摘しているが──規約違反に抵触する行為だ。
もちろん、今回のような揚げ足を取るような通報は褒められた行為ではないけれど、僕にはそうするだけの大義名分があった。せっかくだからフレンドの多そうなシキにも教えてあげよう。
『こんにちは、今大丈夫?』
『久しぶり!配信見たよ!もうギルド作ったとか凄いじゃないか』
『ありがとう。それで今日はちょっと見てもらいたいものがあるんだ──』
シキに通行人Bの盗撮行為に関して教えると、彼女の方でも調べたらしく僕の想像以上に憤慨していた。あの様子なら僕が何も言わなくても情報を広めてくれるだろう。
「彼だから彼女だかには申し訳ないけど暁やクレアを盗撮されてるのを見つけた以上、ギルマスとして放置する気はないんだよね」
暁たちの盗撮動画は運営に消される前に現実へデータを送信させてもらった。これは母さんたちに事情を説明して暁に雷を落として貰うためだ。ネットには既にコピーされたものが流れている可能性があるけれど、それに関しては僕が感知することじゃない。どうせ母さんたちが何とかしてしまうだろう。
…………………………………
……………………………
………………………
「迷った?」
それからしばらく薄暗い入り組んだ路地を適当に歩いていた僕は自分が迷子になっていることに気がついた。ロクに道を確認しないまま余所見をして歩いていた僕の自業自得なんだけど、さすがに来た道を戻れなくなるとは思ってもみなかった。
「……あ、そういえば地図あるじゃん」
どうしたものか悩んでいた僕はトリス雑貨店で購入した"アルテラの旧い地図"のことを思い出した。アルテラが出来たばかりの頃の地図なので役に立つかは微妙なとろこだけど、僕は藁にもすがるような気持ちでアイテム欄から"アルテラの旧い地図"を取り出した。
「って何で光ってんの?」
アイテム欄から取り出した"アルテラの旧い地図"は淡く光っていた。トリス雑貨店で購入した時は少し変色した羊皮紙でしかなかったはずだ。そこで僕は購入した時はまだ持っていなかった高位鑑定技能を使って"アルテラの旧い地図"の詳細を確認することにした。
偽称:アルテラの旧い地図
名称:アルテラの同期地図
分類:高位魔道具 錬金術
説明:エイト地方最大の港町であるアルテラの地図。
特殊な魔術効果と使用制限が付与されている。
効果:自動更新
現在地表示
施設検索
道程検索
鑑定内容偽装
条件:[技能:錬金術]の習得
「……ぶっ壊れじゃん」
色々とツッコミどころの多い鑑定内容だ。
まず"アルテラの旧い地図"という名称が嘘だったことだ。これは"鑑定内容偽装"の効果だろう。その内容は技能を使わない簡易鑑定や普通の鑑定技能では嘘の内容が表示されるという文字通りの効果だった。
"自動更新"もそのままの意味でアルテラの街並みが変化すれば地図の内容も自動的に更新されるようだ。この地図を購入した時に最新の地図と値段を比較したけれど、トリスは"アルテラの同期地図"の詳細を知らなかったのだろうか。
「現在地は……うわ、こんな所にいるのか」
地図上で点滅する赤いマーカーが現在地らしい。
周囲は細かな道が何本も入り組んだ迷路のようになっていた。
「で、これが施設検索……と道程検索か」
地図の右上にある"施設リスト"と書かれた部分に触れるとアルテラの街中に存在する施設が表示された。組合や彩神の噴水など見知った施設もある。リストに表示された施設名を触れると詳細まで見ることが出来るようだ。更に選択した施設を目的地に設定することで最短ルートを地図上に表示できる機能まである。
そしてリストに目を通していると興味深い名前を見つけたので詳細を表示させる。
名称:アルテラ地下大迷宮
分類:ダンジョン
説明:地龍アルテラによって作られた迷宮。
龍の力を持ったモンスターが多く生息している。
詳細:全1024階層
総面積およそ25600㎢
「……ダンジョン?」
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
第2話で登場したアイテムをやっと使う日が来ました!
暁「ログアウトしたら地獄が待ってる気がする」
藍香「なに意味の分からないこと言ってるのよ」
余談。
盗撮魔、通行人Bは厳重注意処分になりました。
今回のような不具合の利用だけで垢BANは流石にないです。
ただ反省せずに繰り返したら垢BANされるでしょうね。
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