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容器を渡して暫くが経った。
扉の向こうから音は何も聞こえない。

(大丈夫かしら)

エミールが向こうの部屋で一人で致しているのかと思うと妙に緊張する。
私が緊張しても意味がないのに。

内扉の前でうろうろと落ち着きなく待っていると、思ったよりも早く彼は容器を持って来てくれた。

「旦那様、大丈夫でしたか?」
「ん、あ、ああ、なんとか」

ごほごほんと部屋に入る前と同じように咳払いをして 気まずそうに差し出すエミール。

「……これを」
「ありがとう、ございます」

気を遣ってかタオルに包まれているそれを両手で受け取る。
良かった、直接目にしたらさすがの私もいたたまれない。

「では旦那様、これからは私が頑張る番ですね」
「あ、ああ……一人で大丈夫か?」
「はい、恐らく……無理だったら旦那様が手伝って下さるんですか?」
「な!?いや、それは……!」

気を紛らわせようとからかうように言うと、エミールの顔が真っ赤になり焦り出す。
まるで少年のような反応に思わず吹き出してしまい、妙な緊張感が少し解れた。

「ふふ、冗談です。では急ぎますので」
「あ、ああ」

何度も言うがこれは時間との勝負だ。
内扉を早急に閉め、ベッドへと向かう。

(これを中に入れるのね)

初めて見る白濁したそれを手に取る。
不思議と触れるのに躊躇いはなかった。

(ここ、かしら?)

指で探り、場所を確認する。

「ん……っ」

少し手に取りそこへと入れるが、中々上手く入らない。
というか痛い。

(痛くてとても奥までは入れられないわね……あ、そうだ!こういう時の為に)

初夜の儀で使うはずだった潤滑油があった事を思い出す。
これもなければ不自然だろうとそれぞれの部屋に置かれているものだ。

とろりとしたそれを再び指に塗り入れると楽に入れられた。
これなら大丈夫かも、と先程よりも多めに容器からそれを取り少しずつ中へと塗り込むように入れる。

(……これで良いのかしら?)

どの程度まで、どのくらい入れれば良いのかわからないから正解がわからない。
男性のモノがどこまで入るのかもわからないが、自分の指で足りないのは明白。
しかしとりあえずいただいたものは全て中に入れられたのでホッと息を吐き出す。

(指では入れにくいわね……容器に細い口が付いていると楽なんだけれど)

ジョウロ……では大きすぎる。
もっと小さくて似たような形のものがなかっただろうか。
そうだ、風邪の時に寝たまま水を飲めたあれは……そうそう吸い口だ。
吸い口があれば楽に入れられるのではないだろうか。

(……いえ、やはり口に入れる物をここに入れるというのは少し抵抗があるわね)

それ専用にしてしまえば良いのだろうけれど、万が一侍女やメイド達に見つかって普通の使い方をされたらたまったものじゃない。

(吸い口は諦めるとして、そうなると……)

そういえば注射器ならアレを素手で取らなくても良いし、入れるのも簡単そうだ。
先が丸く注射器のように鋭くないものが良い。
どこかに探せばあるだろうか。

(街に出てみて探してみようかしら)


身動きを取るとせっかく入れたモノが流れてしまいそうなので少しそのままの体勢で止まる。

(これ、どのくらい置けば良いのかしら?)

そこまでは医師に聞いていなかった。
今度聞いておかないと。

(これで出来ると良いのだけど)

というよりもこんな恥ずかしい事をエミールに手伝って貰おうなど、冗談でも良く言えたわ。

「……っ」

今更ながら熱くなる頬。
きっと真っ赤に染まっている事だろう。

(世の夫婦はもっと恥ずかしい事をしているのよね)

つくづく、新妻としては失格だがエミールとの初夜が流れて良かったと痛感してしまった。



そんな私の隣の部屋で、エミールが……

(何の反応もないが……終わったのか?出来たのか?大丈夫なのか?)

私がしていたように扉の向こうからこちらの様子に耳を傾けやきもきしていた事など全く気付いていなかった。

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