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「さっき言った、婚約者候補に立候補したいっていう話、考えてみてくれる?」
「庇う為の嘘じゃなかったんですか?」
「本心だよ。ゆくゆくは唯一の旦那様になりたいな」
「だ、だ……」

旦那様。
夫と言っていた気がすると、聞き間違いかと思っていたけどそうじゃなかったのか。

「俺ならあの王子よりもずっと魔法使いさんを幸せに出来るし、楽しませられるし、何より寂しい思いなんてさせないよ?」
「……」
「それにもちろん、あんな女狐に騙される程馬鹿じゃない。どう?こんな優良物件中々ないと思うけど?」

真剣に見つめてきたのとは一転、茶目っ気を含ませたウィンクに、思わず吹き出してしまう。

「ふっ、自分で言いますか」
「周りも言ってくれるけど、たまには自分から言おうと思ってね」

そりゃそうだ。
隣国の王太子殿下といえば才色兼備、勇猛果敢、身分の隔たりなど関係なしに老若男女問わず虜にし、微笑むだけで一国の王も傅くとまで言われている。
自身も優しく、雪の舞う中薄手の服しか身に纏えない孤児に手を差し伸べ自らの衣服を与えたとか、彼が政治を担うようになってからは浮浪者や孤児の数が格段に減り、汚水問題や失業率の改善、平民に対する最低限の生活補償などなど数多くの逸話が他国にまで聞こえてくる程。
優良物件どころの騒ぎじゃない。
泣かせたい云々は気になるところだが、この手を取って得られる利に比べたら些末なもの。

それに不思議とこの人と話していると王子の事を考えずに済む。
四六時中頭から離れなかった彼の顔が、声が、全く浮かばないのだ。

「ね?どうかな?」
「……まだ、婚約者とかそういうのは考えられないんですけど」
「うん、けど?」

けど……

「……貴方の傍に仕えたら、楽しそうだなあとは思います」

まずは傍においてもらって、お互いを知る所から始めたい。
そう伝えると。

「望むところだよ。絶対、後悔させないからね」
「っ、過度なスキンシップはまだ早いです!」

頬を撫でていた手が下がり私の手を取りその甲にちゅっとキスをされ、即座に手を振り払い言ってしまったセリフ。

「ふふ、まだ、ね」
「あ、いや、そうじゃなくて……!いや、ああもうニヤニヤしないで下さい心臓に悪い!」
「ええ、しょうがないだろう?嬉しいんだもん!でもそうか、魔法使いさんにもこの顔が有効で良かった」

その顔が有効じゃない人なんているんだろうか。

「早速出国準備しよう!何なら今晩中に出発しちゃう?もたもたしてるとあの王子が余計なちょっかいかけてきそうだもんね」
「へ?あ、えっと、でも出国するのはともかく入国審査には時間がかかるんじゃ……?」
「ああ、それなら問題ないよ。どうせ最終的な許可出すのは父上だけどもう向こうには伝えてあるし」
「はい?」

え?伝えてるって、何を?

「実は何が何でも口説くつもりだったから最初から入国の手続きしてきちゃったんだよね」
「はあ!?」
「いやあ無駄にならなくて良かった!」
「な、な……!」

国家間の手続きを、しかも結構手間のかかるものを私なんかの為にわざわざ、おまけに来るかどうかもわからないのにやってきたと?
なんて事をしているんだこの人は!
しかも父上ということは陛下もこの事を知っているという事だよな!?
いや本当になんて事を……!

(この人だから許されてるんだろうなあ)

そう思ってしまう辺り、私も早々にこの人贔屓になってしまっているのかもしれない。

親への報告はどうしよう。
まああの両親なら栄転だと大喜びだろう。
事後報告でも、私の決めた事ならといつもあっけらかんと受け入れるので問題はないか。

「魔法使いさん」
「はい」
「向こうに着いたら、俺我慢しないから」
「え?」
「全力で、魔法使いさんを口説くから。今から心の準備しておいてね」
「……っ」

そう言って朗らかに笑う彼の顔は月明かりと相まって、まるで精霊や妖精、または神話に出てくる神様のように神々しく美しく光り輝いていた。

その後、出国の準備を済ませさっさと隣国へと出発。
出国の手続きが驚く程最速で終わったのはきっと彼が国王へと根回ししておいたからだろう。
どこまでも用意周到で、もしや私が頷かなくとも攫っていく手筈くらいは整っていたのではと勘繰ってしまった。

その直後。

「あいつが王太子殿下と!?ありえないわ!私の方がずっとずっとキレイで可愛いのに!私が王太子殿下に選ばれるべきなのに!」
「彼女があんな女だなんて思ってもみなかった!いなくなって初めて気付いたんだ、君こそが俺の運命の相手だった!戻ってきてくれ……!」

なんて、ぎゃんぎゃんと騒ぐ新婚夫婦がいたとかいなかったとか。

隣国へ旅立った後の王太子殿下は、宣言通り全力で私を口説きにかかり、そんな王太子殿下に絆され想いを受け入れ晴れて婚約者になり、正式に夫婦になるのはそう遠くない未来の話。






終わり
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みんなの感想(2件)

黑媛( * ॑꒳ ॑*)♡


| ᐕ)⁾⁾

二話で、あれは駄目だって王子が言った時点で、あ、これアカンやつってすぐに察しました

しかし、灰かぶりさん腹の中のモノ隠しきれてませんよ? ってツッコんでしまいました🤭

一話〜最終話までどのお話も楽しめました♬

なんで、エール📣は一日三つしか送れないんだろうと悔しいです

連続投稿失礼します

|´-`)੭⁾⁾

おこめ
2023.07.08 おこめ

二度もありがとうございます!
おまけにエールまで……!
感謝感謝です!!

あいつらはお察しの通りアカンやつです笑

解除
黑媛( * ॑꒳ ॑*)♡


|ूoωo。)♡

今までで一番好きかも♡

王太子、キャラがいい♬
きっと、すぐにでも陥落させるんやろなぁ♡
ちょっとその様子が見てみたかったです

でも、こそをサラッと終わらせるところが、妄想が捗って楽しいんだろうなぁと思うので、書き込まずにまとめる手腕は尊敬します✨

私なら、国に帰った後のやり取りも書いちゃう
(だから、短編詐欺長編続行になるんですが😩 いつもまとまりないダラダラ作なので、一度は短編完結やってみたい)

劣等感やいろんなあれからか自覚ないおバカさん王子もあざとく計算高いがそこまでじゃない灰かぶりも、ちょっとぷぷっってなりました
ꉂꉂ(๑˃ฅฅ˂๑)

短くサラッと読ませてくれるので、いつも楽しみです♬

また、次の作品でも楽しませてもらえると心待ちにしています💖

| *´◡`*)⁾⁾

おこめ
2023.07.08 おこめ

わー!ありがとうございます(^^)
続きは番外編で書こうかとも思ったのですが、力尽きてああなりました笑

私もだらだら長く書いてしまう事もあります笑
書いているうちについついながーくなってしまうんですよね。
これはもう絶対短編で終わらせるぞ!と意気込んで書いたので無事収まりました笑

また次も読んでいただけると嬉しいです!
感想本当に嬉しいです、ありがとうございました(^^)

解除

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