4 / 4
4
しおりを挟む「さっき言った、婚約者候補に立候補したいっていう話、考えてみてくれる?」
「庇う為の嘘じゃなかったんですか?」
「本心だよ。ゆくゆくは唯一の旦那様になりたいな」
「だ、だ……」
旦那様。
夫と言っていた気がすると、聞き間違いかと思っていたけどそうじゃなかったのか。
「俺ならあの王子よりもずっと魔法使いさんを幸せに出来るし、楽しませられるし、何より寂しい思いなんてさせないよ?」
「……」
「それにもちろん、あんな女狐に騙される程馬鹿じゃない。どう?こんな優良物件中々ないと思うけど?」
真剣に見つめてきたのとは一転、茶目っ気を含ませたウィンクに、思わず吹き出してしまう。
「ふっ、自分で言いますか」
「周りも言ってくれるけど、たまには自分から言おうと思ってね」
そりゃそうだ。
隣国の王太子殿下といえば才色兼備、勇猛果敢、身分の隔たりなど関係なしに老若男女問わず虜にし、微笑むだけで一国の王も傅くとまで言われている。
自身も優しく、雪の舞う中薄手の服しか身に纏えない孤児に手を差し伸べ自らの衣服を与えたとか、彼が政治を担うようになってからは浮浪者や孤児の数が格段に減り、汚水問題や失業率の改善、平民に対する最低限の生活補償などなど数多くの逸話が他国にまで聞こえてくる程。
優良物件どころの騒ぎじゃない。
泣かせたい云々は気になるところだが、この手を取って得られる利に比べたら些末なもの。
それに不思議とこの人と話していると王子の事を考えずに済む。
四六時中頭から離れなかった彼の顔が、声が、全く浮かばないのだ。
「ね?どうかな?」
「……まだ、婚約者とかそういうのは考えられないんですけど」
「うん、けど?」
けど……
「……貴方の傍に仕えたら、楽しそうだなあとは思います」
まずは傍においてもらって、お互いを知る所から始めたい。
そう伝えると。
「望むところだよ。絶対、後悔させないからね」
「っ、過度なスキンシップはまだ早いです!」
頬を撫でていた手が下がり私の手を取りその甲にちゅっとキスをされ、即座に手を振り払い言ってしまったセリフ。
「ふふ、まだ、ね」
「あ、いや、そうじゃなくて……!いや、ああもうニヤニヤしないで下さい心臓に悪い!」
「ええ、しょうがないだろう?嬉しいんだもん!でもそうか、魔法使いさんにもこの顔が有効で良かった」
その顔が有効じゃない人なんているんだろうか。
「早速出国準備しよう!何なら今晩中に出発しちゃう?もたもたしてるとあの王子が余計なちょっかいかけてきそうだもんね」
「へ?あ、えっと、でも出国するのはともかく入国審査には時間がかかるんじゃ……?」
「ああ、それなら問題ないよ。どうせ最終的な許可出すのは父上だけどもう向こうには伝えてあるし」
「はい?」
え?伝えてるって、何を?
「実は何が何でも口説くつもりだったから最初から入国の手続きしてきちゃったんだよね」
「はあ!?」
「いやあ無駄にならなくて良かった!」
「な、な……!」
国家間の手続きを、しかも結構手間のかかるものを私なんかの為にわざわざ、おまけに来るかどうかもわからないのにやってきたと?
なんて事をしているんだこの人は!
しかも父上ということは陛下もこの事を知っているという事だよな!?
いや本当になんて事を……!
(この人だから許されてるんだろうなあ)
そう思ってしまう辺り、私も早々にこの人贔屓になってしまっているのかもしれない。
親への報告はどうしよう。
まああの両親なら栄転だと大喜びだろう。
事後報告でも、私の決めた事ならといつもあっけらかんと受け入れるので問題はないか。
「魔法使いさん」
「はい」
「向こうに着いたら、俺我慢しないから」
「え?」
「全力で、魔法使いさんを口説くから。今から心の準備しておいてね」
「……っ」
そう言って朗らかに笑う彼の顔は月明かりと相まって、まるで精霊や妖精、または神話に出てくる神様のように神々しく美しく光り輝いていた。
その後、出国の準備を済ませさっさと隣国へと出発。
出国の手続きが驚く程最速で終わったのはきっと彼が国王へと根回ししておいたからだろう。
どこまでも用意周到で、もしや私が頷かなくとも攫っていく手筈くらいは整っていたのではと勘繰ってしまった。
その直後。
「あいつが王太子殿下と!?ありえないわ!私の方がずっとずっとキレイで可愛いのに!私が王太子殿下に選ばれるべきなのに!」
「彼女があんな女だなんて思ってもみなかった!いなくなって初めて気付いたんだ、君こそが俺の運命の相手だった!戻ってきてくれ……!」
なんて、ぎゃんぎゃんと騒ぐ新婚夫婦がいたとかいなかったとか。
隣国へ旅立った後の王太子殿下は、宣言通り全力で私を口説きにかかり、そんな王太子殿下に絆され想いを受け入れ晴れて婚約者になり、正式に夫婦になるのはそう遠くない未来の話。
終わり
2
お気に入りに追加
121
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
気付いたら悪役令嬢に転生していたけれど、直後嫁いだ相手も気付いたら転生していた悪役令息でした。
下菊みこと
恋愛
タイトルの通りのお話。
ファビエンヌは悪役令嬢であることを思い出した。しかし思い出したのが悪虐の限りを尽くした後、悪役令息に嫁ぐ直前だった。悪役令息であるエルヴェと婚姻して、二人きりになると彼は…。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
歪んだ欲望と、我慢した先の愛
下菊みこと
恋愛
主人公だいぶ歪んでます!ヤンデレとか病んでるとかじゃなくて性的な嗜好がぶっとんでます!でも多分誰にも迷惑…は…かけてない…と思う…。
主人公は夫の仕事仲間が、夫の寵愛を得たと言い振り回してるのがストレスでとうとうはっちゃける。良い妻として、夫を支え、子供を愛し、そしてたまに息抜きに実家に戻り…養老院へ、通った。
小説家になろう様でも投稿しています!
王太子になる兄から断罪される予定の悪役姫様、弟を王太子に挿げ替えちゃえばいいじゃないとはっちゃける
下菊みこと
恋愛
悪役姫様、未来を変える。
主人公は処刑されたはずだった。しかし、気付けば幼い日まで戻ってきていた。自分を断罪した兄を王太子にさせず、自分に都合のいい弟を王太子にしてしまおうと彼女は考える。果たして彼女の運命は?
小説家になろう様でも投稿しています。
厄介払いで英雄に嫁がされることになった姫君、英雄に捨てられる。そして拾われた相手は英雄が殺したはずの魔王様だった。
下菊みこと
恋愛
英雄に捨てられて魔王に拾われたお人好しな姫君のお話。
スノーホワイトは英雄の妻になってすぐ、英雄に捨てられて財産を持ち逃げされた。英雄は将来を誓った幼馴染と駆け落ちしたのだ。路頭に迷っていながらも痩せ細った野良犬を助けたスノーホワイト。その野良犬は実は体力回復中の魔王で、すっかり元気になった彼はお金持ちの人間に扮してスノーホワイトを助けた。
小説家になろう様でも投稿しています。
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。
櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。
兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。
ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。
私も脳筋ってこと!?
それはイヤ!!
前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。
ゆるく軽いラブコメ目指しています。
最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。
小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。
王太子に婚約破棄されたら、王に嫁ぐことになった
七瀬ゆゆ
恋愛
王宮で開催されている今宵の夜会は、この国の王太子であるアンデルセン・ヘリカルムと公爵令嬢であるシュワリナ・ルーデンベルグの結婚式の日取りが発表されるはずだった。
「シュワリナ!貴様との婚約を破棄させてもらう!!!」
「ごきげんよう、アンデルセン様。挨拶もなく、急に何のお話でしょう?」
「言葉通りの意味だ。常に傲慢な態度な貴様にはわからぬか?」
どうやら、挨拶もせずに不躾で教養がなってないようですわね。という嫌味は伝わらなかったようだ。傲慢な態度と婚約破棄の意味を理解できないことに、なんの繋がりがあるのかもわからない。
---
シュワリナが王太子に婚約破棄をされ、王様と結婚することになるまでのおはなし。
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
| ᐕ)⁾⁾
二話で、あれは駄目だって王子が言った時点で、あ、これアカンやつってすぐに察しました
しかし、灰かぶりさん腹の中のモノ隠しきれてませんよ? ってツッコんでしまいました🤭
一話〜最終話までどのお話も楽しめました♬
なんで、エール📣は一日三つしか送れないんだろうと悔しいです
連続投稿失礼します
|´-`)੭⁾⁾
二度もありがとうございます!
おまけにエールまで……!
感謝感謝です!!
あいつらはお察しの通りアカンやつです笑
|ूoωo。)♡
今までで一番好きかも♡
王太子、キャラがいい♬
きっと、すぐにでも陥落させるんやろなぁ♡
ちょっとその様子が見てみたかったです
でも、こそをサラッと終わらせるところが、妄想が捗って楽しいんだろうなぁと思うので、書き込まずにまとめる手腕は尊敬します✨
私なら、国に帰った後のやり取りも書いちゃう
(だから、短編詐欺長編続行になるんですが😩 いつもまとまりないダラダラ作なので、一度は短編完結やってみたい)
劣等感やいろんなあれからか自覚ないおバカさん王子もあざとく計算高いがそこまでじゃない灰かぶりも、ちょっとぷぷっってなりました
ꉂꉂ(๑˃ฅฅ˂๑)
短くサラッと読ませてくれるので、いつも楽しみです♬
また、次の作品でも楽しませてもらえると心待ちにしています💖
| *´◡`*)⁾⁾
わー!ありがとうございます(^^)
続きは番外編で書こうかとも思ったのですが、力尽きてああなりました笑
私もだらだら長く書いてしまう事もあります笑
書いているうちについついながーくなってしまうんですよね。
これはもう絶対短編で終わらせるぞ!と意気込んで書いたので無事収まりました笑
また次も読んでいただけると嬉しいです!
感想本当に嬉しいです、ありがとうございました(^^)