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しおりを挟む「あれはダメだ、どちらも相応しくない」
「そうかしら?そばかすの彼は巻き毛がお揃いだし、もう一人の彼はとてもお金持ちそうだもの、魔法使いさんに苦労させなさそうじゃない?」
「確かに二人とも家柄は申し分ないが……どうせならあっちの彼の方が良いんじゃないか?」
「あの方だとライバルが多そうじゃない?魔法使いさんに余計な気苦労かけさせたくないわ」
ダメだと拒否する王子と天然を装ってきょとんと返す彼女。
そしてそこそこ良い人が選ばれたのに対するそのセリフ、気苦労させたくないと言いながら私に良い男を紹介したくないという裏がありありと浮かんでいる。
いやもうお揃いとかお金持ちとか家柄とか気苦労とかどうでも良い。
私の意思を無視して話を進めないでくれないかな。
「あのさ……」
申し訳ないんだけど私は結婚する気なんてないんだ。
そう告げようとした時。
「それなら俺が立候補しようかな」
「へ?」
突然背後から肩に腕を回され、ぐいっと引き寄せられた。
背に当たる逞しい身体。
驚き振り向いた先にあったのは緩くウェーブのかかった真っ黒な髪色が妙な色気を醸し出している黄金の瞳を持った美丈夫だった。
(え、だ、誰!?)
見知らぬ男に肩を抱かれている現状に軽くパニックになる。
え?知り合い?
知り合いじゃないよね?
途端にこちらを物凄い目で睨む女性達。
こんなちんちくりんが構われているのが気に食わないのだろう。
なんともわかりやすい悪意だが、わかりやすいところがむしろ良い。
タチが悪いのは目の前でこの美丈夫に見惚れつつも笑みを崩さず、どす黒いオーラを垂れ流している彼女の方だ。
王子も王子で美丈夫の登場に驚き、そして何故か視線を険しいものに変えた。
「王太子殿下、彼女と知り合いで?」
「うん?ああ、なんだまだ言ってなかったのか」
「え?」
この人王太子殿下なのか。
王子が少し緊張しつつも強気な態度に出られない所を見ると、大隣国の王太子殿下かな?
この国は大陸に面してはいるものの小さい小さい国だから立場低いものね。
対して隣国はかなりの大国だ。
そして王太子殿下の逸話は色々とこの国でも語られている。
物語の中の主人公のような人物がこの人なのか。
有名人に会った気分になるがちょっと待って。
何を?言ってなかったと??
「実は彼女は俺が口説いている最中なんだ。だから紹介は必要ないけど、彼女の夫、いやまずは婚約者に立候補したいな」
「!?!?!?!?!?」
「え!?」
「う、嘘……!?」
王太子殿下の爆弾発言に驚きすぎて顎が外れそうな私と愕然とする目の前の二人。
待って待ってどういう展開?
ついていけないんですけど?
「っ、ま、待って下さい、どういう事ですか?どうして王太子殿下が魔法使いさんと……?」
「どうして?ははっ、君に説明する必要があるかな?」
「……っ、それは、だって、私は魔法使いさんが心配だから……!」
またまた嘘ばっかり。
本当は王子よりも明らかにハイスペックな男がどうして私なんかって言いたいんでしょう?
心配なのは、王子を取られて惨めな私が自分よりも幸せになるかもしれない事だよね?
実際にはこの王太子殿下に口説かれるどころか初対面なんだからそんな心配いらないっていうのに。
「心配、ねえ」
「……っ」
くっ、と含み笑いをして彼女を愉快そうに見つめる王太子殿下。
何だろう、こちらからも何か禍々しいオーラを感じる。
表すなら『嘘も大概にしろよ』というところだろうか。
「本当に心配しているのならあんな二人よりも俺が相手の方が心配事は減るんじゃないかな?」
「そんな、王太子殿下の方が心配だらけです!」
「ほう、何故?」
「だ、だって、今だって色んな人の視線が突き刺さってます!王太子殿下と懇意になりたい人はたくさんいるから、だから、もっと王太子殿下に相応しい相手が……だから別に魔法使いさんじゃなくても……」
「相応しい人ねえ?それって例えば君みたいな?」
「え?」
いや、え?じゃないよ。
何期待して頬染めてんの?
貴女さっき結婚式挙げたばっかりだよね?
王子と永遠の愛を誓ったばかりだよね?
それにしても王太子殿下と話して少し猫が剥がれてるの面白い。
そんな場合じゃないけど。
「ははっ、なんてね。まあ確かにライバルは多いだろうね、これでも王太子だし。彼女を害しようとする輩も現れるだろう。君が心配する気持ちもわかる」
「それなら……!」
「でも残念、俺はこの彼女が良いんだ。彼女以外目に入らなくてね」
「!!!!!」
き、き、き、き、きき、き、キスされた!?!?!?!?!?
こめかみにだけどキスされた!!!!!
誰かにこんなことされるのは生まれて初めてだ。
両親からもこんなことされた事ないのに。
「そういう訳だから、彼女を少し借りていくよ」
「!お待ち下さい、王太子殿下!」
「君はもうそこの彼女の夫なんだから、この子のことはもう俺に任せた方が良いんじゃない?」
「……っ」
「全く、結婚までしておいて自覚がないのも困りものだね」
「?」
(自覚?)
ぼそりと呟かれた最後のセリフに首を傾げつつ、私は結局一言も発する事がないまま王太子殿下に促されその場を後にした。
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