妹に婚約者を奪われました

おこめ

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妹に婚約者を奪われました

妹視点3

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初めまして?
嘘よね?
初めましてなんかじゃないわ。
何度も何度も会っていたじゃない。
お話だってしたじゃない。
この私を忘れるなんてありえないわ。
そうか、お姉様がいるから取り繕っているのね。
そうよ、きっとそうに違いない。
そうに違いないはず、なのに。

「ねえ」
「ん?」

お姉様が彼に囁くと、彼がお姉様に顔を寄せる。
一言二言交わしてから微笑む彼の瞳は、私が夢見ていたふわりと優しい、ただ一人愛しい人にだけ向けられるもの。
私が向けられるはずだったものなのに、どうしてお姉様がその視線を受けているの?
彼にそんな目で見つめられるのは私のはずでしょう?
そこは私の場所でしょう?
私の場所であるべきだわ。
どうして?
どうしてお姉様なの?
ずるい、ずるいずるいずるい、いらない婚約者を私に押し付けて、自分は彼と婚約するなんて。

言葉を発せず震えていると、夫が腰を更に引き寄せ耳元で囁く。

「君が彼に恋をしているのは知っているよ。でも残念だったね、彼は君のお姉さんの方が良いみたいだ」
「う、う、うそよ、そんな……」
「現実を受け入れなよ。君はね、最初から彼の視界には入っていないんだよ」
「……っ」
「会ったのも、話をしたのも、君が一方的にしていた事だ。彼にはそういう相手が五万といる」
「いや、ちが……」
「違わないよ。いつも誰かしらに囲まれている人だからね。君は彼が助けてくれると思ったんだろうけど、そうだなあ、彼にとっての君はさしずめ通行人Aといったところだろうから難しいんじゃないかな?」
「つう、こう……?」
「セリフはあるけどその他大勢と変わらない、何者でもない人物だよ」
「……うそ、うそよ」

ぽろりと流れる涙。
周りもそれに気付くが、夫の行動の方が早かった。

「おやおや、妻は姉君の婚約に感激してしまったようです。さあ、こっちにおいで」
「っ、っ」

違う、違う違う違う違う!
助けて、私を助けて!
私を見て、この男から私を奪って!

強く願い彼を見る。
彼の視線が私に注がれる。
見てくれた、初めてまっすぐに私を……!

通行人Aなんて嘘よね?
私がその他大勢なんて、お姉様の方が良いなんてありえない。
彼は私を望まずにいられないはずよ。
だって同じ家紋の女ならお姉様よりも絶対私の方が良いもの。

そんな期待を込めて縋るように見上げたけど……

「良ければ部屋を用意してあるから二人でゆっくりと休むと良い。それともご自宅の方が寛げるかな?」

彼の瞳に、私は欠片も映っていなかった。

「ええ、そうですね、来て早々申し訳ありませんが妻が落ち着くまでに時間がかかりそうなので失礼します」
「いや、構わない。良いか?」
「ええ、大丈夫よ」

彼が答えつつ、お姉様にも同意を求める。
なんて事のない一場面だが、お姉様が尊重され大事にされているのが一目でわかる。

「ああ、でも少しだけお話しても良いかしら?」

お姉様は衝撃に震える私を見て一歩距離を詰める。

「ありがとう。貴女が彼を奪ってくれたおかげで、私にも素敵な出会いがあったの。全部貴女のおかげよ」
「……っ」

耳元で、私にだけ聞こえるように言われたセリフにハッとする。
まさか、最初から仕組まれていたの?
夫を誘惑する前から、私が『お姉様の婚約者』なら必ず奪いにくるとわかっていて、だから夫と婚約したの?
私は、まんまとお姉様の策略に溺れてしまったの?

(そんな、そんな……っ)

気付いたところでもう遅い。

こんなはずじゃなかった。
お姉様はいつも私に奪われて、誰にも見向きされず、傍に誰も居らず、惨めで憐れで可哀想な人だったはずでしょう?
なのにどうして?
どうして私が一番欲しいその場所によりにもよってお姉様が立っているの?
私のおかげ?
私が全部奪ったから?
だからお姉様がそこにいるの?
お姉様の物ならなんだって奪えたのに。
夫なんていらない。
お洋服も髪飾りもアクセサリーも初恋の彼も友人もお気に入りの侍女もお父様もお母様もいらない。
いらないからその場所をちょうだいよ。
ちょうだい。
ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい。

「あら、ふふ」

物言いたげな私の視線に、お姉様は動じず笑う。

「ダメよ、彼はあげない」

これみよがしに彼の腕に絡みつくお姉様。
その微笑みと声は今まで見た中で一番綺麗で、一番美しく、一番穏やかで、一番優しくて、一番楽しそうだった。











その後どうやって屋敷に帰ってきたのかわからない。
目の前の夫は始終楽しそうで、部屋に入ってからは鼻歌まで歌っている。

「可哀想に、早く諦めれば楽になるのに」

それは彼の事?
お姉様の事?
貴方を受け入れたくないという私の心の事?
それともその全部?

「表情のない君もお人形のようで可愛いね。好きだよ、愛してる。さあ、今日もたくさん可愛がってあげるからね」
「……」

抵抗する気持ちはとうの昔に削がれ、今や彼にされる事全てを受け入れてしまっている。

彼の気持ちも受け入れればきっと私は幸せになれるのだろう。
欲しい物も与えられ、衣食住には困らず、むしろ実家にいた時よりも贅沢をしていられる。
夫が傍にいればどこにでも好きな所へ行ける。
ただ執着とも呼べる愛情を注がれ、自由がないだけ。

だけど……

(いつか、きっと……)

誰かが私をここから救ってくれる。
だって私は今までずっと願いを叶えてきたのだから。

いつになく優しいその手に触れられながら、そんな日が来る事は多分ないと知りつつもそんな望みを抱いてしまうのだった。






終わり
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みんなの感想(3件)

Vitch
2023.07.14 Vitch

【妄想QA】
Q この『夫』、ここまで狂ってると知ってるなら、ご両親は跡継ぎに添えないと思うんですが、マトモなら……

A 直系である侯爵は事故で子を成せない体になってます。なので、孫に期待しています。この『男』、外面はマトモなんですよ、外面は。

おこめ
2023.07.14 おこめ

A 夫は後継者でないので子供が出来ても出来なくても問題なしです。両親は孫が出来たら嬉しいけど、他にも子供がいるのでどちらでも構わない感じですね。

解除
rickdius
2023.07.06 rickdius

 やるだけやっておいて子供ができたら「愛情が奪われるから」という理由で中絶して死産だったと公式には発表しそう…。 子供が埋めないけどその妻を誰より愛する(ある意味間違ってはいない)夫の仮面をつけて。

おこめ
2023.07.06 おこめ

その前に子供が出来ないよう薬を使っていると思います。
万が一出来たとしてもひとまず産ませて妹そっくりなら可愛がりそれ以外なら乳母に任せっきりになるかな??と思います。
誰よりも妻を大事にする仮面被ってるのは間違いないです笑
感想ありがとうございました!

解除
黑媛( * ॑꒳ ॑*)♡


|ूoωo。)💦


いつも、妹に大切な物を、真新しい物を、奪われその苦しみを嘲笑われて来た姉の、

これはザマァや復讐になるの? 被害が外に及ばないように、今後自分も平穏に生きていく為の自衛なの?

これが罷り通ってきた妹は、社交デビューして、外に出たら、姉以外の下に見る女性達からもうまく物を奪い続けるような気がしてならないから、問題を起こす前に身柄を確保というか、この婚約者とその家の中という囲いの中に閉じ込めてしまうのは、いい考えなのかもしれない
けど、因果応報というか自業自得というか、妹が見ようによっては不憫
でも、同情はしな〜い😅

この文字数できれいに纏まっていて、読後感も悪くなくて、きれいに落とし込んであったので、楽しめました

また、別の作品でも楽しませてもらえると心待ちにしています

( ⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)⁾⁾

おこめ
2023.07.06 おこめ

復讐でもあり、自衛でもあります。
妹は姉の物を奪うのが大好きで、というか姉の物は私の物とナチュラルに思っているタイプなので、他の人の物にはあまり興味がない子ではあります。
見ようによっては可哀想かもしれませんが、自分から粉かけてますから完全に自業自得ですね笑

ありがとうございます、別の作品でも楽しんでいただけると嬉しいです!😆

解除

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