5 / 5
妹に婚約者を奪われました
妹視点3
しおりを挟む初めまして?
嘘よね?
初めましてなんかじゃないわ。
何度も何度も会っていたじゃない。
お話だってしたじゃない。
この私を忘れるなんてありえないわ。
そうか、お姉様がいるから取り繕っているのね。
そうよ、きっとそうに違いない。
そうに違いないはず、なのに。
「ねえ」
「ん?」
お姉様が彼に囁くと、彼がお姉様に顔を寄せる。
一言二言交わしてから微笑む彼の瞳は、私が夢見ていたふわりと優しい、ただ一人愛しい人にだけ向けられるもの。
私が向けられるはずだったものなのに、どうしてお姉様がその視線を受けているの?
彼にそんな目で見つめられるのは私のはずでしょう?
そこは私の場所でしょう?
私の場所であるべきだわ。
どうして?
どうしてお姉様なの?
ずるい、ずるいずるいずるい、いらない婚約者を私に押し付けて、自分は彼と婚約するなんて。
言葉を発せず震えていると、夫が腰を更に引き寄せ耳元で囁く。
「君が彼に恋をしているのは知っているよ。でも残念だったね、彼は君のお姉さんの方が良いみたいだ」
「う、う、うそよ、そんな……」
「現実を受け入れなよ。君はね、最初から彼の視界には入っていないんだよ」
「……っ」
「会ったのも、話をしたのも、君が一方的にしていた事だ。彼にはそういう相手が五万といる」
「いや、ちが……」
「違わないよ。いつも誰かしらに囲まれている人だからね。君は彼が助けてくれると思ったんだろうけど、そうだなあ、彼にとっての君はさしずめ通行人Aといったところだろうから難しいんじゃないかな?」
「つう、こう……?」
「セリフはあるけどその他大勢と変わらない、何者でもない人物だよ」
「……うそ、うそよ」
ぽろりと流れる涙。
周りもそれに気付くが、夫の行動の方が早かった。
「おやおや、妻は姉君の婚約に感激してしまったようです。さあ、こっちにおいで」
「っ、っ」
違う、違う違う違う違う!
助けて、私を助けて!
私を見て、この男から私を奪って!
強く願い彼を見る。
彼の視線が私に注がれる。
見てくれた、初めてまっすぐに私を……!
通行人Aなんて嘘よね?
私がその他大勢なんて、お姉様の方が良いなんてありえない。
彼は私を望まずにいられないはずよ。
だって同じ家紋の女ならお姉様よりも絶対私の方が良いもの。
そんな期待を込めて縋るように見上げたけど……
「良ければ部屋を用意してあるから二人でゆっくりと休むと良い。それともご自宅の方が寛げるかな?」
彼の瞳に、私は欠片も映っていなかった。
「ええ、そうですね、来て早々申し訳ありませんが妻が落ち着くまでに時間がかかりそうなので失礼します」
「いや、構わない。良いか?」
「ええ、大丈夫よ」
彼が答えつつ、お姉様にも同意を求める。
なんて事のない一場面だが、お姉様が尊重され大事にされているのが一目でわかる。
「ああ、でも少しだけお話しても良いかしら?」
お姉様は衝撃に震える私を見て一歩距離を詰める。
「ありがとう。貴女が彼を奪ってくれたおかげで、私にも素敵な出会いがあったの。全部貴女のおかげよ」
「……っ」
耳元で、私にだけ聞こえるように言われたセリフにハッとする。
まさか、最初から仕組まれていたの?
夫を誘惑する前から、私が『お姉様の婚約者』なら必ず奪いにくるとわかっていて、だから夫と婚約したの?
私は、まんまとお姉様の策略に溺れてしまったの?
(そんな、そんな……っ)
気付いたところでもう遅い。
こんなはずじゃなかった。
お姉様はいつも私に奪われて、誰にも見向きされず、傍に誰も居らず、惨めで憐れで可哀想な人だったはずでしょう?
なのにどうして?
どうして私が一番欲しいその場所によりにもよってお姉様が立っているの?
私のおかげ?
私が全部奪ったから?
だからお姉様がそこにいるの?
お姉様の物ならなんだって奪えたのに。
夫なんていらない。
お洋服も髪飾りもアクセサリーも初恋の彼も友人もお気に入りの侍女もお父様もお母様もいらない。
いらないからその場所をちょうだいよ。
ちょうだい。
ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい。
「あら、ふふ」
物言いたげな私の視線に、お姉様は動じず笑う。
「ダメよ、彼はあげない」
これみよがしに彼の腕に絡みつくお姉様。
その微笑みと声は今まで見た中で一番綺麗で、一番美しく、一番穏やかで、一番優しくて、一番楽しそうだった。
*
その後どうやって屋敷に帰ってきたのかわからない。
目の前の夫は始終楽しそうで、部屋に入ってからは鼻歌まで歌っている。
「可哀想に、早く諦めれば楽になるのに」
それは彼の事?
お姉様の事?
貴方を受け入れたくないという私の心の事?
それともその全部?
「表情のない君もお人形のようで可愛いね。好きだよ、愛してる。さあ、今日もたくさん可愛がってあげるからね」
「……」
抵抗する気持ちはとうの昔に削がれ、今や彼にされる事全てを受け入れてしまっている。
彼の気持ちも受け入れればきっと私は幸せになれるのだろう。
欲しい物も与えられ、衣食住には困らず、むしろ実家にいた時よりも贅沢をしていられる。
夫が傍にいればどこにでも好きな所へ行ける。
ただ執着とも呼べる愛情を注がれ、自由がないだけ。
だけど……
(いつか、きっと……)
誰かが私をここから救ってくれる。
だって私は今までずっと願いを叶えてきたのだから。
いつになく優しいその手に触れられながら、そんな日が来る事は多分ないと知りつつもそんな望みを抱いてしまうのだった。
終わり
25
お気に入りに追加
314
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」
侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。
「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」
そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。
シナリオではヒロインと第一王子が引っ付くことになっているので、脇役の私はーー。
ちょこ
恋愛
婚約者はヒロインさんであるアリスを溺愛しているようです。
そもそもなぜゲームの悪役令嬢である私を婚約破棄したかというと、その原因はヒロインさんにあるようです。
詳しくは知りませんが、殿下たちの会話を盗み聞きした結果、そのように解釈できました。
では私がヒロインさんへ嫌がらせをしなければいいのではないでしょうか? ですが、彼女は事あるごとに私に噛みついてきています。
出会いがしらに「ちょっと顔がいいからって調子に乗るな」と怒鳴ったり、私への悪口を書いた紙をばら撒いていたりします。
当然ながらすべて回収、処分しております。
しかも彼女は自分が嫌がらせを受けていると吹聴して回っているようで、私への悪評はとどまるところを知りません。
まったく……困ったものですわ。
「アリス様っ」
私が登校していると、ヒロインさんが駆け寄ってきます。
「おはようございます」と私は挨拶をしましたが、彼女は私に恨みがましい視線を向けます。
「何の用ですか?」
「あんたって本当に性格悪いのね」
「意味が分かりませんわ」
何を根拠に私が性格が悪いと言っているのでしょうか。
「あんた、殿下たちに色目を使っているって本当なの?」
「色目も何も、私は王太子妃を目指しています。王太子殿下と親しくなるのは当然のことですわ」
「そんなものは愛じゃないわ! 男の愛っていうのはね、もっと情熱的なものなのよ!」
彼女の言葉に対して私は心の底から思います。
……何を言っているのでしょう?
「それはあなたの妄想でしょう?」
「違うわ! 本当はあんただって分かっているんでしょ!? 好きな人に振り向いて欲しくて意地悪をする。それが女の子なの! それを愛っていうのよ!」
「違いますわ」
「っ……!」
私は彼女を見つめます。
「あなたは人を愛するという言葉の意味をはき違えていますわ」
「……違うもん……あたしは間違ってないもん……」
ヒロインさんは涙を流し、走り去っていきました。
まったく……面倒な人だこと。
そんな面倒な人とは反対に、もう一人の攻略対象であるフレッド殿下は私にとても優しくしてくれます。
今日も学園への通学路を歩いていると、フレッド殿下が私を見つけて駆け寄ってきます。
「おはようアリス」
「おはようございます殿下」
フレッド殿下は私に手を伸ばします。
「学園までエスコートするよ」
「ありがとうございますわ」
私は彼の手を取り歩き出します。
こんな普通の女の子の日常を疑似体験できるなんて夢にも思いませんでしたわ。
このままずっと続けばいいのですが……どうやらそうはいかないみたいですわ。
私はある女子生徒を見ました。
彼女は私と目が合うと、逃げるように走り去ってしまいました。
ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。
ねお
恋愛
ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。
そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。
「そんなこと、私はしておりません!」
そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。
そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。
そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。
初恋の王子を奪われた魔法使いは隣国の王太子に攫われる
おこめ
恋愛
義母と義姉達に虐められている女の子を助けた魔法使いは、幼馴染の王子を彼女に奪われてしまう。
淡い初恋が敗れショックを受けていたが、そこへ隣の大国の王太子が自分を伴侶にと立候補してきた!?!?
シンデレラパロです。
姉の引き立て役として生きて来た私でしたが、本当は逆だったのですね
麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
伯爵家の長女のメルディナは美しいが考えが浅く、彼女をあがめる取り巻きの男に対しても残忍なワガママなところがあった。
妹のクレアはそんなメルディナのフォローをしていたが、周囲からは煙たがられて嫌われがちであった。
美しい姉と引き立て役の妹として過ごしてきた幼少期だったが、大人になったらその立場が逆転して――。
3話完結
【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです
菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。
自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。
生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。
しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。
そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。
この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。
婚約者はメイドに一目惚れしたようです~悪役になる決意をしたら幼馴染に異変アリ~
たんぽぽ
恋愛
両家の話し合いは円満に終わり、酒を交わし互いの家の繁栄を祈ろうとしていた矢先の出来事。
酒を運んできたメイドを見て小さく息を飲んだのは、たった今婚約が決まった男。
不運なことに、婚約者が一目惚れする瞬間を見てしまったカーテルチアはある日、幼馴染に「わたくし、立派な悪役になります」と宣言した。
【完結】妹に振り回された挙句、幸せを掴んだ私
横居花琉
恋愛
ゴードンという婚約者ができたアマンダに、妹のリンダはズルいと言い婚約者が欲しいと言い出した。
まだ早いと親に諫められたリンダはゴードンを奪うことで婚約者を得ようと考えた。
リンダはゴードンにアマンダの悪口を吹き込んだ。
二人の関係を破綻させ、自分がゴードンの婚約者になれると信じていた。
自分にとって都合のいい現実になるはずもないのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
【妄想QA】
Q この『夫』、ここまで狂ってると知ってるなら、ご両親は跡継ぎに添えないと思うんですが、マトモなら……
A 直系である侯爵は事故で子を成せない体になってます。なので、孫に期待しています。この『男』、外面はマトモなんですよ、外面は。
A 夫は後継者でないので子供が出来ても出来なくても問題なしです。両親は孫が出来たら嬉しいけど、他にも子供がいるのでどちらでも構わない感じですね。
やるだけやっておいて子供ができたら「愛情が奪われるから」という理由で中絶して死産だったと公式には発表しそう…。 子供が埋めないけどその妻を誰より愛する(ある意味間違ってはいない)夫の仮面をつけて。
その前に子供が出来ないよう薬を使っていると思います。
万が一出来たとしてもひとまず産ませて妹そっくりなら可愛がりそれ以外なら乳母に任せっきりになるかな??と思います。
誰よりも妻を大事にする仮面被ってるのは間違いないです笑
感想ありがとうございました!
|ूoωo。)💦
いつも、妹に大切な物を、真新しい物を、奪われその苦しみを嘲笑われて来た姉の、
これはザマァや復讐になるの? 被害が外に及ばないように、今後自分も平穏に生きていく為の自衛なの?
これが罷り通ってきた妹は、社交デビューして、外に出たら、姉以外の下に見る女性達からもうまく物を奪い続けるような気がしてならないから、問題を起こす前に身柄を確保というか、この婚約者とその家の中という囲いの中に閉じ込めてしまうのは、いい考えなのかもしれない
けど、因果応報というか自業自得というか、妹が見ようによっては不憫
でも、同情はしな〜い😅
この文字数できれいに纏まっていて、読後感も悪くなくて、きれいに落とし込んであったので、楽しめました
また、別の作品でも楽しませてもらえると心待ちにしています
( ⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)⁾⁾
復讐でもあり、自衛でもあります。
妹は姉の物を奪うのが大好きで、というか姉の物は私の物とナチュラルに思っているタイプなので、他の人の物にはあまり興味がない子ではあります。
見ようによっては可哀想かもしれませんが、自分から粉かけてますから完全に自業自得ですね笑
ありがとうございます、別の作品でも楽しんでいただけると嬉しいです!😆