妹に婚約者を奪われました

おこめ

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妹に婚約者を奪われました

妹視点2

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あれよあれよと式が終わり、案内された新居の一室に案内された瞬間、私は言葉を失った。

「なに、これ……」
「気に入ったかい?」
「……っ」

部屋には大きなベッドがひとつ。
そしてその壁には全面、私の写真がびっしりと飾られており、飾り棚にはなくしたとばかり思っていた私の私物達が並んでいた。
どれもこれも私の使いかけ。
私が捨てたはずの物まである。

「やっと、君を僕だけのものに出来る」

あの手紙に毎回と言って良いほど書かれていたセリフと重なる。

まさか、そんなバカな、嘘でしょう?
そんな事ってある?
まさか彼が、嘘よね、嘘だと言って。

私の考えを肯定するように、視界の端に映る見覚えのある便箋達。

「っ、いや、いや……!」
「ああ、可愛いなあ」
「いやあああああああ!!!」

それからは泣こうが喚こうが叫ぼうが罵ろうが懇願しようが何をしようが彼は恍惚とした表情を浮かべるばかり。
可愛い、綺麗だ、愛してると囁かれながら私は彼に全てを奪われた。

どうして、どうしてこんな事に?
私は私が手に入れるべきものを手に入れただけ。
お姉様から分不相応な物を貰ってあげただけ。

それなのに私は今や夫になった男が傍にいないと与えられた部屋から出る事すら出来ない。
私の写真だらけの、私の私物が詰め込まれた私だけの牢獄。
窓もない、灯りは天井に付けられた間接照明のみ。
食事は毎食運ばれてきて、排泄と入浴は続きの部屋で。
逃げ出そうにも足首に巻かれた鎖がそれを許してくれない。

どうして?
どうして?
お姉様から何もかも奪ったのがいけない事?
だってお姉様の物なんだもの、お姉様のものは私の物でしょう?
なのにどうして?
どうして私は欲しくもないこんな人に何もかもを奪われてしまったの?

いいえ、待って、まだチャンスはあるわ。
彼が私を迎えに来てくれるもの。
例え結婚したって、彼も私を欲しがるはず。
彼が望んでくれれば私は助かる。
ここから逃げ出せる。

早く助けに来て。早く、早く。

そんな私の祈りが通じたのだろう。

「今日は外に行こうか。どうしても外せないパーティーがあるんだ」
「!」

ツキが巡ってきた。
この部屋から出られる!
どのパーティーか聞くと、それは彼の主催するパーティーだった。
彼と会うチャンスだわ!
彼に会ったら助けを請うの。
きっと彼はいつも傍にいた私がいなくなって疑問を感じているはず。
私に会う為に、私を助ける為にパーティーを開いてくれるんだわ。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
ああ、でも当日は夫の色で固められた夫の趣味のドレスを着せられる。
どうか誤解しないで、私の心は貴方にあるの。

どきどきしながら夫に腰を抱かれながら彼のパーティーへ参加する。
会場へ着くとすぐに主催の彼を見つけた。
当然のように挨拶をする夫に連れられ、私も傍に。
いよいよだわ。
いよいよ、彼が私を助け……

「……………………え?」

期待に胸を躍らせた私の目に入ってきたのは彼と、彼にエスコートされているお姉様の姿だった。

「あら」
「っ」

お姉様が私に気付きこちらを向いて微笑む。

「久しぶりね、元気そうで安心したわ」
「お、おね、ど、ど」

久しくまともな会話をしていなかった私は頭の中ではつらつらと質問を投げかけられるのに実際には吃るだけで意味をなさない音しか出せない。
私の質問に答えるかのように夫が口を開く。

「この度はおめでとうございます」

おめでとう?
何が?

「ありがとう。彼女と婚約出来るなんて夢のようだよ」
「!?!?!?!?!?」

彼のセリフに固まる。
婚約?
誰が?
誰と?
まさか、彼が、お姉様と?

「彼女は素晴らしい人ですからね、僕も自分の事のように嬉しいです」
「そういえば奥様との出会いは彼女が結んだものだとか?」
「ええそうなんです!僕が彼女の妹さんに恋をしてしまいまして。その恋心に気付いて、仲を取り持ってくれたんですよ。僕と彼女の婚約は名ばかりでしたから」

彼もお姉様達の婚約を知っていて、私と結婚した経緯も知っているのね。
名ばかりの婚約ってどういうこと?
二人は愛し合っていたのではなかったの?
だからあの時あんなにもあっさりと婚約破棄を受け入れたの?

「こちらがその妻です」

嬉しそうに私を押し出す夫。
嫌な紹介の仕方だったけれど、これで彼は私に気付ける。
私に声を掛けてくれる。
私を助けてくれる。
早く、早く私を助けて!

「初めまして」
「……え?」

貼り付けたような笑みを浮かべて言われたセリフに固まってしまった。


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