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第3章
負の根源(5)
しおりを挟む水差しから銀のスプーンに移し、口に持っていく、そのやり取りを何度か繰り返したのち、少しは楽になったのか顔色も僅かに良くなったように見える王はそれでもまだガサツく声で少しずつアランへ話をした。
「ここを使う、の…は…あい…つ、しかいない…」
「あいつ、ですか」
それは誰なのか、そんなアランの問いに答えは無く、代わりに自由に動かないだろう身体を無理やりにでも起こそうとする王。そんな王に手を貸し助けつつ無理はせずと宥めようとするが、何かに急き立てられる様子の王は仕切りに「ヒナセ」と口にする。
「ヒナセが、危険なのですか」
このアランの問いには反応を示し、ピタリと動きが止まる。そしてアランの目をじっと見据えると、やつれた表情の王はそれでも尚、重圧を感じる声音でアランにこう告げる。
「わ、れ…の寝室……連れ…ていけ…」
「ですがそのようなお身体では」
「ヒナセ…は、そこに……」
王を支えるために伸ばしていた腕を、その表情からは予想できないほどの力で握られ、咄嗟に言葉を失うアラン。そうこうしているうちにヒナセに危険が及んでいるのだと思うと考えている時間も惜しかった。
「ルイ、カイ」
「「はい」」
王を見据えたまま、背後に立つ二人を呼ぶ。
「王を支えてあの通路を行けるか」
「大丈夫です、いけます」
「王様、多少手荒になっても怒んないでくださいね~」
アランの背後左右からそれぞれ顔を出し、今ではすっかり隣国の王にも物怖じせず即答する頼もしい部下二人。
この二人になら安心して任すことが出来る。
「との事なので、陛下は二人と共に。私が先に行ってまいります」
「……頼んだぞ」
たとえ自分の身体が不調でも、王は王らしく威厳のある声音で命令を下す。
アランもまた、「はっ」と力強く返事を返し、いまだアランの腕を強く握る王の手を上から握り返した。
立ち上がり、部下二人へ向き直る。
「ルイ、カイ、決してご無理はさせないよう」
「わかっています。ですが、もしもの時はおぶってでもお連れします……ルイが」
「俺か~~っ」
この先に何が待ち、何が起きるかわからない。
そんな状況でも常にいつも通りの二人に自然ともれる苦笑。
思い返せばいままで何度も助けられてきた。
実力を認められず孤児出身と罵られ悔しい思いを数え切れないほど味わったことだろう。
それでも変わらずアランについてきてくれる。
だから、アランも誓った。
この二人が不当に扱われるのなら、代わりに何度でも声を上げる、認めさせる、彼らは自慢のわたしの部下だ、と。
お前たち自身も気をつけろ、そんな気持ちを込め、ルイとカイの肩をグッと強く引き寄せ両腕に抱く。
いつの間にか腕を回しても収まりきらないほどに成長した二人の力強い抱き返しを感じながら、「また後でな」そう残し、アランひとり走り出した。
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