45 / 58
第2章
ヒナセの役目(1)
しおりを挟む「陛下、それは……お戯れが過ぎるかと」
どこで誰が聞いているかわからないような場で、誰もが狙う後継者の座に関わってくるような事を他国の者に軽口で言ってしまうなど、余計暗殺を目論んでいる者達を煽り逆鱗に触れ王の命が狙われかねない。
そんな気持ちを込め冗談で納めたいアランだったが、王はわざとらしくその意図を組んでくれようとしなかった。
「そうか?我は結構満更でもないぞ?お前みたいに忖度なしに自分の意思をぶつけてくる奴はなかなか居ない。かつての王妃みたいにな」
「……え、それってつまり……団長を次の王妃様候補にって事っすか」
ハッ気付いしまった、とでも言うかのように口元に手を当てそう洩らすルイの頭を手が届くことなら思いっきり叩いてしまいたかったが、残念ながらそれは叶わず「アホか…」と呆れて呟いていると、代わりに王がしっかりめに釘をさしていた。
「気色悪い想像をするな不敬罪で首をはねるぞ」
「ひぃぃぃっ」
すぐさまごめんなさいすみませんと謝るルイにフッと一瞥を送る王は不意に終始黙っているヒナセへ視線を向ける。とうとう自分へ矛先が回ってくると感じたヒナセの肩がピクっと小さく揺れた。
「まぁ、この件はまたにするとしよう。
……なぁ、ヒナセよ、ずっと黙っているがいい機会だ今後のことについて話し合おうじゃないか。当事者のお前の意見を聞かせてくれ。お前はどう思っている?」
「……ぼ、僕……は―――」
アランもヒナセが今何を思っているのか気になっていた。
声を上げたのはヒナセの為とは言え、自分の長年の行為を否定され、何も思わないはずがない。だが、アランとしては「毒味は嫌だ、もうやりたくない」そう言ってくれる事、そう思っている事を心の底から強く願い、俯くヒナセの言葉を待った。
テーブルに肘をつきオロオロするヒナセをじっと見据える王。思えば長年共に過ごしてきた割に自分の意思をハッキリ口にしてこなかったヒナセの本心を今ここでなら聞けるのではないか、そんな気がしてもう一度「ヒナセ」と名を呼んだ。そばに居るのならそれ以外はなんだってヒナセのしたいようにさせるのだ、という思いを込めて―――
そんな王の呼び掛けにヒナセも決意を固めたのか、一度グッと唇を噛んでから力強く顔を上げると王を見据え、口を開いた。
「僕……は、僕の力で救える命があるのなら、役立てたい…もう、さよならは、イヤだから…」
小さい声ながらも、しっかりとしたヒナセの言葉。
ヒナセの中での意思は強かった。
「だから、僕は―――っ、?ゴホッ…」
「?ヒナセ…?」
「「雛ちゃん?」」
そんな刹那、言葉を最後まで紡ぐ事無く突然口を抑えるヒナセは数回噎せた後、見る見るうちに顔を青ざめさせ、そっと王へ視線を向ける。
その表情は、まさに、絶望―――
震える手を王の方へ伸ばすヒナセをすぐ隣で見ていたアランは尋常ではない何かがヒナセの身に起きている、そう察すると同時にヒナセの視線と手を追いかけるようにして王を見る。
「へ……か……」
「っぐ、」
ヒナセが口にしたのは最初の毒味した飲み物のみ。そして……それと同じ物を、王は既に全て飲み干していた。
「ヒナセ……?陛下……?」
ガシャンッ―――
激しい音を立て、ヒナセも王も胸を抑え苦しそうに咳き込みながら上体がテーブルへ倒れていく光景を信じられない目で捉えたアラン達は一斉に立ち上がり、アランはヒナセをルイとカイは王へすぐさま駆け寄る。
「ヒナセ!?陛下!?誰か!衛兵はいないのか!?すぐに来てくれ!!!ルイカイ!お前らは口にしたか!?おそらく遅延性の毒だ!」
「してないっす!」
「僕もです!団長、王の呼吸が…っ」
「っ、医師はまだか!?」
怒鳴るアランの声に慌ただしく駆け付ける衛兵や医師がバタバタと集まり優雅なお茶会は一瞬にして殺伐とした雰囲気に様変わりしてしまった。
医師の指示の元、王とヒナセの身体がそれぞれ担架へ横たえられ運ばれていく。
「ヒナセ、陛下――っ」
アランはそれを見送る事しかできなかった。
16
お気に入りに追加
334
あなたにおすすめの小説
喫茶つぐないは今日も甘噛み
木樫
BL
[マイペース更新]
ズルくて甘い大人ジャガー(49)×無口無表情バカ男前(19)で、顔面イカついコンビが異世界に喫茶店文化を広めつつのそのそ過ごす話。
■あらすじ
親なし学なし愛想なしで裏社会に片足を突っ込んだ日陰者・佐転一斉(19)はその日、死ぬことにした。
しかし通りすがりの罪なき善人をうっかり道連れにしてしまい、世界の管理者を名乗る謎の声から[異世界で喫茶店文化を布教する]というペナルティを与えられる。
そこで出会ったのは白く大きなジャガー獣人──ジェッゾ・ヤガー・ヤガー。
「イッサイ、毛繕いをしてやろう」
「…………。あぁ」
「なんだ、不服か? だが己はお主の飼い主で、お主は自分で毛を繕わぬ。イヤは通じぬよ。毛皮が薄い人間族とて毛繕いは嗜みだ。さぁわかったら大人しくここへ横たわれ」
「(いや、それは嬉しいけど……ベッドに寝そべる巨大ジャガーの腹んとこ、デカい男が子猫みてぇに収まる図を当たり前みてぇに誘われっと……なんつぅか……まぁ……、……照れるぜ)」
「イッサイ」
「……ん」
アウトロー育ちの元・ヤクザの飼い犬が〝不吉〟と恐れられる最強ジャガーに懐きつつ、飲食スキルを駆使して異世界に喫茶店を広めたいのんびりつぐないファンタジー。
□父性高めな孤高のおじさんジャガー×攻め至上主義ド一途クール年下男前
□長いので略「つぐ甘」
□のんびり更新
□シリアスそうで割とコメディ
高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】
きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。
オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。
そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。
アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。
そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。
二人の想いは無事通じ合うのか。
現在、スピンオフ作品の
ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話
【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】
孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。
しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。
その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。
組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。
失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。
鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。
★・★・★・★・★・★・★・★
無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。
感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
神様の胃袋は満たされない
叶 青天
BL
『神様の胃袋は満たされない』
幼なじみBL×執着×依存
神様とは 一体誰のこと?
二人は互いの胃を満たせるのだろうか
「私の知っている××××は、とても素直で、よく気がきいて…… 神様みたいないい子でした」
☆文学フリマにて頒布した本を掲載しております。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる