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第2章

ヒナセの役目(1)

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「陛下、それは……お戯れが過ぎるかと」
 
 
 どこで誰が聞いているかわからないような場で、誰もが狙う後継者の座に関わってくるような事を他国の者に軽口で言ってしまうなど、余計暗殺を目論んでいる者達を煽り逆鱗に触れ王の命が狙われかねない。
 そんな気持ちを込め冗談で納めたいアランだったが、王はわざとらしくその意図を組んでくれようとしなかった。
 
 
「そうか?我は結構満更でもないぞ?お前みたいに忖度なしに自分の意思をぶつけてくる奴はなかなか居ない。かつての王妃みたいにな」
「……え、それってつまり……団長を次の王妃様候補にって事っすか」
 
 
 ハッ気付いしまった、とでも言うかのように口元に手を当てそう洩らすルイの頭を手が届くことなら思いっきり叩いてしまいたかったが、残念ながらそれは叶わず「アホか…」と呆れて呟いていると、代わりに王がしっかりめに釘をさしていた。
 
 
「気色悪い想像をするな不敬罪で首をはねるぞ」
「ひぃぃぃっ」
 
 
 すぐさまごめんなさいすみませんと謝るルイにフッと一瞥を送る王は不意に終始黙っているヒナセへ視線を向ける。とうとう自分へ矛先が回ってくると感じたヒナセの肩がピクっと小さく揺れた。
 
 
「まぁ、この件はまたにするとしよう。
 ……なぁ、ヒナセよ、ずっと黙っているがいい機会だ今後のことについて話し合おうじゃないか。当事者のお前の意見を聞かせてくれ。お前はどう思っている?」
 
「……ぼ、僕……は―――」
 
 
 アランもヒナセが今何を思っているのか気になっていた。
 声を上げたのはヒナセの為とは言え、自分の長年の行為を否定され、何も思わないはずがない。だが、アランとしては「毒味は嫌だ、もうやりたくない」そう言ってくれる事、そう思っている事を心の底から強く願い、俯くヒナセの言葉を待った。
 
 テーブルに肘をつきオロオロするヒナセをじっと見据える王。思えば長年共に過ごしてきた割に自分の意思をハッキリ口にしてこなかったヒナセの本心を今ここでなら聞けるのではないか、そんな気がしてもう一度「ヒナセ」と名を呼んだ。そばに居るのならそれ以外はなんだってヒナセのしたいようにさせるのだ、という思いを込めて―――
 
 そんな王の呼び掛けにヒナセも決意を固めたのか、一度グッと唇を噛んでから力強く顔を上げると王を見据え、口を開いた。
 
 
「僕……は、僕の力で救える命があるのなら、役立てたい…もう、さよならは、イヤだから…」
 
 
 小さい声ながらも、しっかりとしたヒナセの言葉。
 ヒナセの中での意思は強かった。
 
 
「だから、僕は―――っ、?ゴホッ…」
「?ヒナセ…?」
「「雛ちゃん?」」
 
 
 そんな刹那、言葉を最後まで紡ぐ事無く突然口を抑えるヒナセは数回噎せた後、見る見るうちに顔を青ざめさせ、そっと王へ視線を向ける。
 
 その表情は、まさに、絶望―――
 
 震える手を王の方へ伸ばすヒナセをすぐ隣で見ていたアランは尋常ではない何かがヒナセの身に起きている、そう察すると同時にヒナセの視線と手を追いかけるようにして王を見る。
 
 
「へ……か……」
「っぐ、」
 
 
 ヒナセが口にしたのは最初の毒味した飲み物のみ。そして……それと同じ物を、王は既に全て飲み干していた。
 
 
「ヒナセ……?陛下……?」
 
 
 ガシャンッ―――
 
 激しい音を立て、ヒナセも王も胸を抑え苦しそうに咳き込みながら上体がテーブルへ倒れていく光景を信じられない目で捉えたアラン達は一斉に立ち上がり、アランはヒナセをルイとカイは王へすぐさま駆け寄る。
 
 
「ヒナセ!?陛下!?誰か!衛兵はいないのか!?すぐに来てくれ!!!ルイカイ!お前らは口にしたか!?おそらく遅延性の毒だ!」
「してないっす!」
「僕もです!団長、王の呼吸が…っ」
「っ、医師はまだか!?」
 
 
 怒鳴るアランの声に慌ただしく駆け付ける衛兵や医師がバタバタと集まり優雅なお茶会は一瞬にして殺伐とした雰囲気に様変わりしてしまった。
 
 医師の指示の元、王とヒナセの身体がそれぞれ担架へ横たえられ運ばれていく。
 
 
「ヒナセ、陛下――っ」
 
 
 アランはそれを見送る事しかできなかった。
 
 
 
 
 
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