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第2章
変わる態度(3)
しおりを挟む再びアランと雛鳥の間で流れる無言の沈黙。
そんな空気を壊すのは、やはりこの二人だった。
「ねぇねぇなんで突然団長はお許しがでたの?」
「ぜひ僕らともお近付きになって欲しいな」
距離をとっていたとはいえ、聴覚が優れた二人の事だ、雛鳥の話は聞こえていただろうに、まるっきり無視した空気の読まなさ具合はある意味二人の長所なのかもしれない。
ニコニコ笑顔を携え、自分たちよりだいぶ小さな雛鳥を今度はしっかり両側から囲い込んでいる。正直話すきっかけができ助かったと思いながらも、その内容と行動には頭を抱えてしまうアランだった。
案の定、チラッと確認した雛鳥はまたもや顔を真っ青にして震えていた。
「お前ら…この子を困らせるな」
アランの後ろにいるせいで背中が壁となり、どこにも逃げ場のない雛鳥をジリジリ左右から追い詰めるルイとカイ。
「だって団長だけずるいじゃないですか」
「団長と俺ら一心同体だから、団長がOKなら俺らもOK!仲良くしてねっ」
「え、えっ」
あまりの強引さに戸惑う雛鳥はおろおろとアランに助けの視線を送るがこうなった双子を止めるすべは無いに等しい。
「はぁ…ごめんね、こいつら猪突猛進でなかなか言う事聞かないんだ…。事が起きる前に機会をみて俺から王に話してみるから、とりあえずこいつらの気が済むよう少しずつでも仲良くしてあげて?もしそれでも本当に万が一消されるような事があってもこいつらの自己責任。キミが気にすることじゃないよ」
「……でも、」
なかなか縦に首をふりにくい事は重々承知でアランなりのフォローを飛ばす。すかさず双子の顔がパァっと輝いた。
「さっすが団長ぉ!」
「そういう事だから、僕たちの事は大丈夫、安心して?自分たちの身は自分たちで守るから」
逃げ足だけは自信があるよ、と笑うカイは「あ」と何かを思いついたかのように「ルイ」と呼ぶ。
「僕たちまだ名乗ってすらなくない?仲良くなるにはまず挨拶しなきゃ」
「確かに!いけねいけね肝心なの忘れてた」
前髪の分け目が左右対称わかりやすいよう横並びに並んだルイとカイはニッと笑うと人懐っこい笑みを浮かべそれぞれ雛鳥の手をなかば強引にとりながら口を開く。
「俺ルイ。俺ら同じ顔だけど一応俺が双子の弟の方!雛ちゃんって呼んでいい?」
「そして、僕が兄のカイです。よろしくね雛ちゃん」
「っ、え、あ……う」
よろしく~と繋いだ手をブンブン振り回す双子は戸惑う雛鳥などお構い無しに完全に自分たちのペースに持っていき、もはやアランまでも感心してしまう程だった。
そんな三人を眺めながらふと思った。
自分ももう一度、挨拶からやり直したい、と。
庭園で出会った時の、よそよそしさ満天の目の合わない雛鳥との挨拶ではなく、今、もう一度。
そう思い立てばいざ行動に移すのが早いのはアランも一緒だった。
「ついでに俺もいいかな。改めまして、アランです、よろしくね」
雛鳥の両の手は既に塞がっていたため、代わりに胸の辺りにある頭へポンッと触れた。瞬間、目を見開く雛鳥へ苦笑に近い笑みを送るも、すかさず騒ぎ出す双子たちのせいでその空気は破られた。
「えぇっ団長まだ挨拶してなかったんすか!」「僕たちよりだいぶ順番間違えてる…」「うるさい!」そんないつも通りやんや賑やかなやり取りをしていると、不意にくすくす聞こえてくる小さな笑い声。
え、と三人揃って声の出処へ注目すると、両手はルイとカイに、頭はアランに撫でられたままの雛鳥が確かに小さく笑っていた。
「……笑った」
「……団長、やっぱこのかわいいの保護対象っす」
「……そうだな」
アランまで一緒になり真面目な表情でボソリと呟く。三対の目からじぃっと見つめられていることに気付いてしまった雛鳥はぴゃっと笑いをおさめ俯くも、前髪の隙間から僅かに見える頬を赤く染めながら絞り出すような小さな声で確かにこう言った。
「ヒナセ、です」
常日頃、朝早くに城門の前を行き来する業者や通行人が今日もいつも通りその道を通ろうとした所、揃って城内から響く「かわいぃぃぃっ」という奇声に近い叫び声に驚き、城で何かが行われているのでは、と一瞬で城下町に噂が出回り、当の本人たちが回収してくる事になるのはまた数時間後の話だった。
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