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第1章

雛鳥の役目(4)

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 目の前で行われる毒味という行為。
 
 
 察したその事実に衝撃を受け、大きく目を見開くアランは震えそうになる拳をテーブルの下で抑えるのに必死だった。
 
 
 あんな、少年に……なんて事を……。
 
 
 アランの国でも王族貴族が物を口にする際、毒味は欠かせない必要不可欠な行為だった。失敗も許されない。だからこそ、人間がやるのではなく、発達した科学により発明された機械を使用していた。
 
 
 雛鳥は、決して可愛がられるだけの観賞用ではなく、王の毒味役として常にその身を危険に晒し、傍に置かれているカナリアだったのか――。
 
 
「如何した、騎士殿。口に合わぬか?」
「っ、」
 
 
 衝撃を受け一切食事に手をつけていなかったアラン達一行に王はそう声をかけてから見せつけるかのように最後の一口を食べ終えた。
 すかさず腕をのばしナプキンで王の口を拭う雛鳥。
 
 その一連の動作があまりにも自然で、これが常日頃の光景であり、もはや余所者が口を出してはいけない領域なのだと頭では理解しても、心が納得することは出来そうになかった。
 それでも、アランの国の王が長年同盟を望んでいた強国とのやっと実現した待望の同盟。要らぬ争いを生まないためグッとアラン個人の気持ちは封印し、同盟国からの使者としてよそ行きの笑みを貼り付ける。
 
 
「……いえ、頂戴いたします」
 
 
 ルイとカイにも目配せをし、静かに食事へと手をつけた。
 
 
 
 
 一切会話がないまま、クラシックの音楽をBGMにカトラリーと皿がぶつかる些細な音のみがホール内に響いていた。
 それも音の発信源は緊張で顔が真っ青になっているルイからのみだ。
 
 
「ルイ……大丈夫?」
「やばいカイ…味がわからん…」

 
 そんな双子のコソコソしたやり取りをアランは内心で笑いつつ、澄まし顔の綺麗な動作で前菜の最後の一口を口へと運ぶ。
 ルイほどではないが、まだまだ2品目で序盤中の序盤だというのに気持ちはやっと前菜が終わった、という疲労を感じていた。
 
 
 皿が下げられると同時にスープが運ばれてくる。
 
 もはや習慣のようにちらっと王へ視線を向けると、王の目前にも同様にスープが運ばれ、同じ流れで最初の一口は王自ら雛鳥の口へ運ぶ。
 そして雛鳥が頷き、王が口をつけ始める、という流れ―――が、今回は違った。
 
 
「っ、こほっ」
 
 
 はじまりは雛鳥の小さな咳。
 

 咳まで小さく可愛らしい、スープで噎せてしまったのか…なんて、自分のスープに視線を落としたままホッコリしかけたのも束の間、段々と聞こえてくる咳の激しさが増していき、なかなかおさまらない。


 さすがにおかしいとアランが顔を上げた瞬間、雛鳥から聞こえる呼吸がヒュっと変な音を立て、それと同時にガシャンッと凄まじい音を立てテーブルの上のものが床へ落ちていく。
 
 
 何が起きているのか、一瞬理解が遅れてしまった。
 
 
 条件反射で椅子から立ち上がったアランがそちら側へ駆け寄ろうとするよりも、雛鳥の一番近くにいる王が動くのが早かった。
 
 僅かながらもさすがに表情を変え雛鳥を強く抱きながらその顔を覗き込む。王に支えられなんとか崩れ落ちるのを免れている状態の雛鳥は苦しそうに胸元と喉を抑え、何かを吐き出すかのようにゴホッと一際大きく咳き込んだ拍子に―――口元と胸元が赤く染まっていた。
 
 
「っ―――!ルイ、カイ!スープに口をつけるな!」
 
 
 
 
 このような場で王のスープに毒が盛られていた。
 
 
 
 
「……これを運んだ者とこれを作った者――いや、今宵関わった者全てを捕らえよ。吐くまで殺すな」
「はっ!」
 
 
 バタバタと現れた衛兵に短く命令を下しさがらせると、雛鳥を抱く腕に力を込め横抱きで持ち上げる。
 
 
「隣国の者よ、見苦しいものを見せた詫びはまた。途中だが今宵はこれで失礼する」
「……彼は、大丈夫なんですか」
「騎士殿には関係ない事だ」
「っ、」
 
 
 これ以上無駄に引き留め、雛鳥の命が助かる可能性を潰す訳にも行かず、グッと押し黙ると、マントを翻し幕の奥へ去っていく王の後ろ姿を無力にも黙って見送る事しかできなかった。
 
 
 
 
 
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