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第1章
王の寵愛(1)
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「今すぐ雛鳥を呼べ」
静かな王の執務室に突如そんな命令がくだされた。
すぐに控えていた従者が退出すると、王は再びデスクへ戻り職務を再開した。
王は多忙だった。
齢58とは思えぬ見た目の若さと顔の良さ、何重にも着重なった服の上からでもわかる鍛え上げられた体躯。戦の腕もキレる頭脳も全てが有無をゆわさず、何十年もの間玉座に君臨し続けた完璧な王。
そんな王の採決を待つ臣下はあとを絶たず、常にスケジュールは分刻み。
可愛がっている雛鳥を一日中傍で構ってやることもできず、だからといって首輪をつけ閉じ込めておくのは可哀想だという王の慈悲により、広い王宮内は自由にさせていた。
その代わり、その日あったことを楽しく話す雛鳥の囀りを夜ベッドの中で聞くのが決まりだった。
大抵は、庭園の花が咲いていただとか、リスを見ただとか、窓際が気持ち良くてそのままお昼寝をしてしまっただとか、他愛もない自然界で出会うものとのこと。
だからこその自由があった。
そもそもこの王宮内で、王の雛鳥に手を出すどころか不用意に声をかける命知らずはいない。
雛鳥も、自分のせいで無意味な血が流れる事を恐れ、自ら声をかけたり触れさせたり、しなかった。
不用意な雛鳥への接触は死を意味する。
随分前から敷かれた王宮内での暗黙のルール。
だがそこに現れた暗黙を知らない他国の者。
王の執務室からは雛鳥の遊び場である広大な庭園が見渡せるようになっている。
すなわち───王は全てを見ていた。
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