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第1章
騎士の初恋(3)
しおりを挟むそう、思っていたのに……出会いは案外すぐのことだった。
*****
ひとり一部屋ずつ、それぞれに割り当てられた客室へ戻ったあと、形式上身につけていた重い甲冑を脱ぎ捨て常に持ち歩く相棒の剣を1本腰から下げただけの軽装備になると、すぐさまひとり王宮内を許される範囲で散策に出かけた。
自国とはまるで違うこの国独自の風景を眺めながらしばらく歩いた末、たまたま見つけたのは手入れの行き届いた立派な庭園。
そのあまりの素晴らしさに心を奪われたのだった。
「これは…素晴らしい……」
人間にはまるっきり興味は無いが、綺麗なモノや花には簡単に心が動くアラン。
というのも彼自身、貴族出身の高貴な出であり、幼少期からいいものを見て育ってきているため、色とりどりの花が咲く綺麗な空間に誘われるかのように足を踏み入れつい楽しく見物してしまった。
そして、気付いた時にはかなり奥の方まで入り込んでしまっていた。
さすがにまずいか――と我に返り、来た道を引き返そうと踵を返したその時、ガサリという音とともに、ヒラヒラ舞う薄い衣が視界をよぎった、瞬間。
「――っ、は…」
条件反射で腰の剣へ手をかけるも、鞘から抜くまでもなくその正体がわかると、らしくもなく呆気に取られた表情を浮かべてしまう。
目の前に現れたのは、件の少年だった。
玉座を見上げ、下から眺めていた時となんら変わらない格好で現れた少年。
その装いは、太ももの際どい位置までスリットが入った袖のないワンピースタイプの薄い布をシャラシャラ鳴る飾りがついたベルトで締め、細い腰と形のいい尻が強調されている。
なにより、190あるアランが近くで見た実物の少年は、より儚く、想像よりもさらに小さかった。
何か探し物をしているのか、周りをキョロキョロ見回しながらのゆっくりな進み。
歩幅の広いアランはあっという間にすぐ後ろまで追いついてしまった。
後ろに立つアランに気付く様子もなく地べたに膝をつき熱心に木の影、草の合間を掻き分ける少年。
どうしようか…声をかけてもいいものなのか…
そう一瞬悩んだアランの性格上、明らかに困っている人を目の前にこのままスルーすることも出来ず、結局声をかけることにした。
……というのは建前で、この機会を逃すと次いつふたりきりになれるかわからない、チャンスを逃したくないというのが正直なところではあった。
「なにかお探しですか?」
「ぴゃっ!?」
探すことに必死なあまり後ろの気配に全く気づいていなかった少年は、アランが声をかけた瞬間裏返った甲高い声を上げ、すごい勢いで飛び上がっていた。
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