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2【子育て日記】
2-28 社交界の花(9)
しおりを挟む詳しいことは何もわからないまま嵐のようにやってきて去っていった一柳一族。
呆然と立ち尽くしてしまう僕の肩を楓珠さんがポンと叩く。
「つかさくん、突然でびっくりしちゃったよね」
「いえ…少し圧倒されてしまって…」
「はは、あの一家は全員オーラあるもんね。長いこと彼らが日本にいなかったからこうして会うのは初めてだったと思うんだけど、一柳代表とその息子さんとは昔から交流があってね。特に楓真くんは海外留学に行っていた際にお世話になった人達なんだ。丁度歳が真樹彦くん、楓真くん、美樹彦くんで2歳ずつ離れているから、一人っ子の楓真くんにとって兄弟みたいな子達だよ」
「……そうなんですね」
わかりやすく的確に説明してくれる楓珠さんになるほどと頷いていると「ちょっと父さん」という楓真くんの声が割り込んでくる。
「俺の口から説明しようと思ってたんだけど」
「楓真くんに任せたらまたつかさくんがあらぬ誤解をしてぐるぐる考え込んじゃうでしょ。だからフォローは私がしたから、楓真くんはしっかりケアをしてあげなさい。それが番の役目だよ」
「……ぐ…はい」
息子の事をよくわかっている楓珠さんの言葉にぐうの音も出ないような楓真くんの表情につい笑ってしまうとそんな僕に気が付いたのか、ムスッとした顔で頬をつつかれる。そんな些細な触れ合いにさらにクスクス笑いがもれると気付けば楓真くんも一緒になって笑っていた。
「さ、おふたりさん。せっかく来たんだからパーティーを楽しみなさい。私はまだ挨拶が残っているけど一人で構わないから食事でも見てくるといいよ。楓真くん、絶対につかさくんを一人にしないようにね」
「わかってる」
ギュッと腰を抱かれ引き寄せられる光景を楓珠さんに優しく見守られ頬が熱くなるのを感じながらも、楓真くんの「行きましょ」という声に頷き、優しいエスコートに身を任せた。
*****
結論から言って、仕事以外で参加した初めてのパーティーは秘書時代よりも比べ物にならないほど多く声をかけられた。
「お疲れ様でしたつかささん」
「……楓真くんもお疲れ様」
自宅のリビングにたどり着いた途端、「ジャケット寄越してください」と手を伸ばす楓真くんの言葉に、本当だったら反対に僕がやらなくてはいけないことだと思いながらも、もう今すぐにでもベットに横になりたい気持ちの僕は申し訳ないが甘えさせてもらった。
楓真くんのパートナーとして、恥ずかしくないよう張っていた緊張の糸が一気に緩んでいく。
「ごめんね、ありがとう」
「あは、本当に珍しくくたくたですね。ソファ座っててください暖かい飲み物いれます」
「ありがとうぅぅ…」
疲れた体に楓真くんの優しさが染み渡る。
ジャケットを脱いだだけの中途半端な格好でよろよろソファへ向かうと、そのままずんと沈み込む。そんな僕の姿にクスッと笑う楓真くんは律儀にも大きな手で頭をひと撫でしてからクローゼットへ向かう。
楓真くんの手の感触の余韻に浸りながらその後ろ姿を見送った。
テレビも付けないリビングは遠くからカチャカチャ聞こえてくる以外何も音はせず、シーンと静まり返っている。
こんなにも静かな夜は久しぶり。
というのも、今夜はそのまま楓珠さん宅で双子を預かってくださることになった。
日付が変わる前にはパーティーを後にすると、行き同様送迎してくださる車の中で、トヨさんから遊び疲れてぐっすり眠っているという写真付きのメッセージが入ってきた。それを見た楓珠さんが、明日の朝迎えにおいで、と提案してくださった事により、今夜は久しぶりに二人だけで夜を過ごす。
明日、おりこうにお留守番できた二人をたっぷり褒めてあげなきゃ…そう思いながらそっと目を瞑っているといつの間にかリビングに戻ってきた楓真くんに「つかささん?」と声をかけられる。
そっと目を開けると両手にマグカップを持ち、同じくジャケットを脱いだだけの姿の楓真くんが気遣うような視線で僕を見つめていた。
「もう寝ます?」
「んーん、まだ大丈夫…飲み物ありがと」
差し出される暖かいマグカップを受け取りながら楓真くんが座れるよう少し横にズレ、二人並んでソファへ腰を落ち着かせた。
すぐ隣に感じる暖かい体温と落ち着くフェロモン。
気付けば自然とその肩に頭を預けていた。
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