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2【子育て日記】
2-19 寒い日
しおりを挟む「つかささん、待って、マフラー」
「え、あ……」
いつも通り家族四人揃って近所の公園へ出かけようと子供たちを先頭に玄関を出る寸前のつかささんの後ろ姿についそう声をかけていた。
11月に突入し、いつもであれば季節はもうすぐ真冬を迎え始めるという頃。
しかし今年は例年に比べ暖かい日が続き、街ゆく人のインタビューで服装をどうしたらいいのかわからないという戸惑いの声がよくニュースから流れているのを目にしていた。
それが一変、今朝のニュースでは気温がぐっと下がると言うのをつかささんと二人で眺めては「急に寒くなるんだねぇ」と話していたのは、数時間も経ってないついさっきのでき事。
出掛ける子供たちにはまるで雪だるまかと言うほど、お揃いのモコモコポンチョに耳の付いたニット帽、色違いのマフラーと手袋まで、完璧な防寒対策の格好をさせ暖かい通り越して走り回ればすぐに暑くなりそうだと思えるのに対し、そばに立つつかささんは緩いフワフワのセーターを羽織っただけの無防備すぎる格好をしていた。
そんな格好なものだから当然のように見える
―――襟足から覗く一生消えない首元の噛み跡。
体の面積に対してそれはほんの僅かな跡。
しかし、それがこの美しいオメガには既に番の存在がいるのだと強烈にアピールする印となり、後ろからチラッと覗く度にひそかに俺は優越感に浸っていた。
そんな箇所を、今日はフワリとマフラーで覆い隠してしまう。
されるがまま首を差し出すつかささんにフッと笑いながら緩く巻いて整え、ついでに乱れてしまった髪もサッと直してあげる。
「子供たちだけじゃなくて、つかささんもしっかり暖かい格好してください。あとは寒くない?もう少し分厚めのコート取って来ましょうか?」
「ありがとう、楓真くん。んー…これで大丈夫そうかな」
俺が巻いたマフラーをそっと口元まで上げ、フワリと微笑むつかささん。
その姿があまりにも愛おしく、心臓直結でギュンっと刺さる衝動にんんんっと悶えたのち、我慢しきれずぎゅっと抱き締めていると不意に足元にぼふんっと感じる二つの衝撃。
つかささんを抱き締めたまま、ん?と衝撃の発信源であるだいぶ下に視線を下げれば、小さな雪だるまが二人、俺の膝裏にしがみついていた。
「ふぅくんも、ふぅくんもーー!」
「つぅくんもぎゅうちてーーー」
「「わぁ…」」
途端、ぎゃあぎゃあ騒ぐ双子たち。
二人が嵌めるミトンの手袋の構造上、親指とその他の指という掴みにくい二つで必死な姿がさらに可愛さを増していた。
そんな姿を、いまだ腕の中に閉じ込めていたつかささんと心ゆくまで鑑賞したのち、密着する空間に隙間を空け「おいで~」と中に楓莉とつくしを招き入れる。
仲間に入れてもらえるのだと分かると、「「きゃあっ」」と声を上げ、嬉々としてどたどた狭い空間に入ってきた双子をつかささんと二人でサンドして閉じ込め、当然の流れでどちらともなく目線の高さに合わせるようしゃがみ込む。
すると、近くなった親の顔に嬉しくなったのか、すぐさま満面の笑みでそれぞれ楓莉はつかささんの首へ、つくしが俺の首にぎゅうと抱きついてくるのをしっかり抱きとめた。
優しい子供体温がじわりと全身に伝わってくる。
それはどうやらつかささんも同様だったらしい。フハッとこぼれる笑い声が聞こえてきた。
「ふぅくんもっこもこだね~暖かい」
「ふぅくんもこもこぉ~」
そんな後ろの二人に負けじとつくしもさらにぎゅぅぅと俺に抱きついてくる。
「ぱぁぱ、つぅくんがあためるぅ」
「―――っ!一生離さない!!」
小さな身体をガバッと全力で抱きしめる寸劇まで披露し、また笑いがどっと上がる。
これはまだ出発もしていない玄関先での光景。
これから先、さらに寒い日が来ようとも、この温かい家族で過ごす日常は、物理的にも精神的にも温かいものに包まれ幸せに違いない、そう感じながら三人まとめて腕の中へ抱きしめるのだった―――
《寒い日》-END-
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