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2【子育て日記】

2-7 忘れ物(5)

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 昼休憩が終わり戻っていく秘書課チームを見送ってから僕たちもお暇しようと楓真くんへ声をかけると、午後の会議が終われば一度抜けることができるから家まで送ると言ってくれる。
 でも…と思い楓珠さんへ視線を向ければそうしなさい、と頷き許しが出た。
 
 
「じゃあ…お願いしようかな」
「はい!
 14時には終わるのでそれまで俺の部屋で――」
「残念だけど息子よ。かわいい孫たちはここが気に入ったみたいだ」
 
 
 にっこり笑顔で口を挟む楓珠さんの視線の先、ふかふかカーペットに大の字で寝転がる双子は、そう簡単には動きませんと頑なな態度を示していた。ガーンと目を見開きスーツ姿でカーペットに跪き双子へお伺いの視線を向ける楓真くん。
 
 
「ふ、ふぅくん、つぅくん…?パパの部屋も居心地いいよ?」
「んーん」
「や」

 
 二人してぷいっと顔を反対側に向けられ本格的にショックを受ける楓真くんに勝ち誇った顔の楓珠さんはわざとらしく肩をポンポンと叩く。そんな自分の父親を悔しそうに睨んだあとノロノロ立ち上がり情けない顔で僕の方へやってくる楓真くんを苦笑しながら自然と腕の中へ導いた。
 
 
「つかささん…双子が反抗期です…」
「はいはい、お仕事から戻ったらまた楓真くんの天使になってるよ」
「……」
 
 
 僕を抱きしめながらチラッと双子を見やると、やはりカーペットに夢中で仕事に行く父親を見向きもしない子供たちに再びショックを受け、キリがないそのやり取りに無理やり楓真くんの背中を押して扉の方へ導いた。
 
 
「子供たちとここで待ってるから」
「……早く終わらせます」
「はいはい頑張ってね行ってらっしゃい」
 
 
 名残惜しそうに出ていく楓真くんを見送り、扉を閉めるといつの間にかソファに腰掛けていた楓珠さんに笑顔で向かいを勧められる。双子をチラッと確認すると手を握り合い二人してぐっすり眠ってしまっていることに笑うとソファへ腰掛けた。
 
 
「赤ちゃんは自由気ままだね一瞬で眠ってしまったよ」
「お出かけと、大勢の人に愛想を振舞ってくれたので疲れてしまったんですかね」
「あの子達はすごいね全然人見知りをしないみたいだ」
 
 
 双子を褒められると僕までも嬉しくなる。
 
 
「こうしてつかさくんと二人きりになるのは久しぶりだね」
「いつも楓真くんがそばに居ますもんね」
「ガードの高い旦那だ」
 
 
 ふふと笑っていると、とても優しい目で見つめられている事に気づく。
 
 
「つかさくんには感謝してもしきれないね」
「そんな、それは僕のセリフです」
 
 
 いきなり何を言い出すのかと驚き全力で否定していると楓珠さんの優しい笑顔で自然と黙らされてしまう。
 
 
「私も楓真くんも、つかさくんにはたくさん救われた。寂しい私たちの家族になってくれて、更にはかわいい孫まで…本当に、本当に、大変な事がたくさんあったのに」
「……色々ありましたね。でも、僕はどの瞬間も今の幸せのための乗り越えなきゃ行けない試練だったのかな、って。全部に耐えて今があります。御門の本物の家族になれて、僕は本当に幸せです」
「つかさくん……」
 
 
 二人の間に沈黙が流れる。
 だけど、それは全く嫌じゃない、心地のいい沈黙だった。楓真くん以上に共に過ごしてきた年月がそうさせる、僕のもう一人の父親。
 
 
 しばらくその沈黙に浸かっていると、再び口を開いたのは楓珠さんだった。
 
 
「つかさくんは育休が明けたらまたここで働いてくれるのかな?」
「もちろんです!楓珠さんさえよければ…ですが」
「うんそうだね、その時は私の元じゃなくて――」
 
 
 え、と驚きで目を見開いてしまう。
 それはつまり楓珠さんの専属秘書を外されるという事かと、内心ショックもあり、だけど同時に楓珠さんの決定は絶対だ、と諦め受け入れる気持ちの整理を瞬時につける。
 再び目を開けた時、楓珠さんの表情はとても穏やかで今から自分をお払い箱にしようとするとは到底思えなかった。
 
 
「つかさくんは復帰後、楓真くんの専属秘書に任命します」
「え……それって…」
「新米ひよっこ社長を支えてあげてね」
 
 
 ウィンクと共にそう言われ、咄嗟に声をあげなかったことを褒めて欲しい。楓真くんの秘書になれる事も、楓真くんが認められ社長になることも全てが嬉しかった。
 
 
「まだこの事は楓真くんには伝えてないから、しばらくは内緒ね。サプライズです」
「ふふ…はい、わかりました」
「今後とも、御門ホールディングスをよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 
 
 二人して頭を下げ、目が合えば自然と笑いあっていた。
 
 
 半年後の育休明け、僕は楓真くんの専属秘書として働ける。いつかそうなるといいねと二人で語り合ったいくつもの将来の夢の内の一つ。
 
 早く教えてあげたいな…と思いつつ、その時楓真くんはどんな反応をしてくれるのか、楽しみで仕方なかった。
 
 
 
 
 
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