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2【子育て日記】
2-3 忘れ物(1)
しおりを挟むある日の午前中。
毎朝の恒例行事となりつつある出勤前の楓真くんと双子の今生の別れのような寸劇を「早く行かないと遅れるよー」となんとか無理やり送り出し、子供たちのご飯も食べさせ終え、やっとひと息付きながら三人でカーペットに座りテレビを見てひと休みをしていると、ふと楓莉くんが背中を向け熱心に何かで遊んでいるのが目に入る。
「ふぅくん~?何で遊んでるの~?」
「んっんっ!」
背中を向けどでんと座るかわいい後ろ姿に声をかけると、しっかり反応して顔をのけ反らせながら振り返ってくれる。まではよかったのだが、そのまま頭から後ろに倒れてくるのを慌ててギリギリのところで受け止めホッとしていると、遊んでいると誤解したのかつくしくんまでハイハイ近寄り楓莉くんを支えている僕の腕にのしっと乗っかってくる。
「つぅくん重いよ~~」
しばらく三人できゃっきゃ戯れていると、ふと、楓莉くんがお腹の上に載せている四角い物体が目に入った。途端、ピタッと時が止まったかのように動かなくなる僕を真似して双子までピタッと止まり、表情も作っているのがかわいい……じゃなくて。
「ふ、ふぅくん……?それ…」
「んぁ?」
長方形の薄い液晶画面。小さい手がぱしっと画面を叩くと浮き上がる最近撮った家族写真。
それは紛れもなく、つい先程仕事に行った楓真くんのスマートフォンだった。
楓莉くんが遊んでいたのはコレか!と驚き慌てて連絡しようにも、いやいやここにあるんじゃん!と華麗に一人ツッコミを披露し、ドタバタする僕を双子がぽかぁんと眺めている。ふと我に返り、うるさくしてごめんね、ととりあえず楓莉くんからスマホを回収し、さてどうしたものかと悩んでいるとそのスマホが着信で震え出す。
「わっ……楓珠さん…?」
液晶に浮かぶ『父さん』の表記に楓珠さんからの着信だと気付くと事情を説明すべく通話のボタンを押した。
「はい、つかさです」
『あ、つかささん!よかった、俺のスマホ家にありましたか』
「楓真くん!」
楓珠さんだと思って出た電話の相手は、楓珠さんのスマホを借りた楓真くん自身だった。そんな電話口からの声が聞こえたのか、双子が一斉に反応し、我先にと僕の手目がけてよじ登ってくる。
「ぱっ、ぱぁー」
「あーーんぁーー」
「二人とも、ちょっ重い重いっ」
それはもう一生懸命、短い手をスマホに伸ばすものだからちょっと待ってね、と通話をスピーカーモードに切り替え双子の間に下ろしてあげる。途端、楓真くんの声が鮮明に聞こえてきた。
『楓莉くんつくしくん~~パパだよ~』
「「ぱぁーーっ!!」」
『ちょっと楓真くん、キミだけズルいぞ。孫たち~じぃじもいるよ~』
「「じっじーーーー」」
テレビ通話にはしていない為、向こう側は見えないはずなのに双子は液晶に向け楽しそうに手を振っている。その光景がかわいいのなんの、そそくさと自分のスマホを取り出すと寸分の狂いもなく撮影開始を押していた。
双子が一通り楽しんだ頃を見計らい、「ちょっとパパとお話するから一回ないないね~」と声をかけスピーカーモードを解除すると耳元へスマホを持っていく。
「楓真くんお疲れ様。で、スマホここにあるねぇ、どうする?必要だよね」
『すみません…朝から双子撮ってたら完全に忘れました…』
「……おばか。いいよ散歩がてら届けに行くね」
『でも、双子連れてとなると大変ですよね…』
んー…と一瞬考え、まぁ大丈夫だろうという結論に至る。
「タクシー呼ぶし、大丈夫だよ。昼前には着けると思うから、もう少し待っててね」
『すみません…ありがとうございます助かります…つかささん大好きです』
「はいはい、お仕事頑張ってね」
はーい、と通話を切り、さて…と双子に目を向けると既に楽しい何かを察したのか目を輝かせた双子がいい子で僕を見上げてくる。そんな素直な二人にふはっと笑いをもらしながら、「楓莉くん、つくしくん」と呼びかける。
「今からパパの所にお出かけするよ」
「「ぱぁ!!!」」
見るからに張り切る二人の頭を撫でながらお出かけの準備をするべく立ち上がった。
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