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1【妊娠】

1-27 出産(3)

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『―――かさ、つかさ』
 
 
 僕を呼ぶ声がする。
 
 それはどこか懐かしい声。
 
 だけど、今は眠くて目が開けられない。
 
 
『つかさくん、こら、いつまで寝てるのかな?』
 
 
 今度はハッキリ聞こえた声にパチッと目を覚ますとそこは一面真っ白で花に囲まれた幻想的な空間。
 
 
「……え、どこ、ここ…さっきまで…」
 
 
 呆然と当たりを見回しながら立ち上がり、さっきまで自分が何をしていたのか必死に思い出そうとして、あ…と動きが止まる。思い出した。僕は双子を妊娠していた。バッとお腹を見下ろすと上下真っ白な服を身につけた自分のそこはストンと平で、最近慣れ親しんだお腹の重み膨らみはどこにもいなかった。
 
 
「双子……双子は!?どうなったの…なんでこんな所に僕一人で……」
 
 
『つかさ』
『つかさくん』
 

 わけもわからず一番の最悪を想像し、パニックになりかけようとしたそんな時、不意に後ろから名前を呼ばれる。途端、ビクッと身体が反応してしまった。自分を「つかさ」と呼び捨てにする人は記憶上もういない……ずっと長いこと聞いていない、だけど忘れることのない懐かしい二人の声。
 
 恐る恐る振り返ったそこに、自分と同じ真っ白な服を身につけた、最後の記憶のまま20年の時を止めた僕の両親が立っていた。
 
 
「……父さん、たち?」
 
 
 ぼぉっと立ち尽くす僕に二人が歩み寄ってくる。
 
 
『大きくなったな…つかさ』
『もう僕達より年上なんじゃない?』
 
 
 くすくす笑う二人を呆然と見るだけの僕。やっと絞り出した言葉は「なんで…」なんて短い言葉。

 
『寂しい思いをさせてしまってごめんな…つかさ』
『たくさん大変だったよね…父さん達が守ってあげれなくてごめんね…つかさくん』
 
 
 本当の本当にこの二人は僕の両親だ、と実感するとじわぁと揺れる視界はあっという間に両の眼からポロポロと水滴を落としていった。
 
 
「あ、会いたかった……二人にずっと、会いたかったよ…」
 
 
 二人の腕に抱かれながら両手で顔を覆ってしまうほど号泣で泣き崩れてしまう。
 
 
『つかさは俺たちの宝だから』
『駆け落ちして頼るところもない僕達の間につかさくんがきてくれて僕達は本当に幸せだった』
『『愛してるよ』』
「っ、僕…も……二人の子供で良かった…」

 
 両親との再会に喜びながら、心のどこかで気付いていた事をポツリと呟く。
 
 
「二人に会えてるって事は……僕……」
『まだ間に合う』
「え……」
『ここはその境目。僕達はつかさくんを止めることもできるし一緒に連れて行ってあげることもできる』
『つかさは、どうしたい?』
 
「っ、僕、僕にもね運命の番がいたんだ、その人はね楓真くんっていって、すごく僕を大切にしてくれる」
 
 
 優しい微笑みを浮かべながら静かに聞いてくれる二人に今の僕の幸せな人生を伝えたかった。
 
 
「楓真くんとの間に子供もできたんだ、それが双子でね、お腹もすっごくパンパンに膨らんで……子供を身ごもるって大変だね父さんも大変だったのかな、双子……無事に産まれたのかな…会いたい……楓真くんと子供たちに…会いたい……」
 
 
 止まったと思った涙が気付けばまた溢れていた。
 
 
『それがお前の答えだな』
『じゃあ、いつまでも寝てちゃダメだよ。つかさくんを待ってる人がたくさんいるみたいだね』
「――え、」
 
 
 ―――ささん、つかささん
 
 
『ほら、呼んでる』
「楓真くんの声……」
『俺達はこれからもお前を見守ってる』
『まだ来ちゃダメだよ、幸せに長生きしてね』
「……うん、父さん達もいつまでも仲良く一緒にいてね」
 
 
 突然周囲が強く光り、次第に目を開けられないほどになっていく。最後に一目父さん達を見たいと必死に目をこらすがそれも叶わないくらい強い眩暈に襲われ光の渦に巻き込まれていく感覚に意識は薄れていった。
 
 
 

 
「………」
「っ!つかささん!!」
 
 
 霞む視界を埋め尽くす楓真くんのドアップが目覚め早々飛び込んできた。
 
 
 

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