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1【妊娠】

1-14 ストレス

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 再び目を覚ました時、一番に視界にうつるのは僕を見つめる楓真くん。そのため、階段での出来事は全て夢で、今はじめて点滴から目が覚めたのかと一瞬錯覚してしまうほど、デジャブな光景。
 だけど、ぼぉっと見上げる楓真くんの頭に白い包帯が巻かれている事を見付けると、すぐさま現実へ引き戻される。
 
 
「楓真く――っぁ、」
「つかささん!いきなり起きると危ないです」
 
 
 慌てて身体を起こした瞬間、襲う目眩に頭を押さえ目を瞑って耐えるとすかさず楓真くんの腕に支えられる。その腕にぎゅっと縋りながら楓真くんの無事をこの目で確認する。
 
 
「楓真くん……大丈夫なの…?」
「ビックリさせちゃいましたよねごめんなさい、さすがに一瞬意識飛んじゃったんですけど、俺基本丈夫なんで」
 
 
 包帯の辺りを擦りながらピンピンしてますと笑う楓真くん。その様子は嘘をついているようには見えず、一気に緩んだ緊張が涙腺までを巻き込み崩壊させた。
 
 
「よ、よかったふまくんが無事で、よかったぁ…」
「あぁ、ごめんなさいごめんなさい怖い思いをさせてしまいましたよね」
 
 
 泣かないでぇ~と抱きしめ頭を撫でてくれる楓真くんの背中にしっかり腕を回しその存在を実感する。その抱擁は僕が泣き止み落ち着くまで続いた。
 
 


 
「事故の原因は子供たちが前を見ずに遊んでて突進してきたって感じです。保護者の方には俺が会いました。危ないから気をつけるようしっかり言ってもらう約束をして大事にせず終わらせましたが、それでよかったですよね」
「うん……それで大丈夫、対応任せちゃってごめんね」
 
 
 階段から落ちる瞬間、その衝撃はとても低いところからやってきた。そのせいでバランスを崩し、真っ逆さまに落ちていったのだが、悪意があった訳ではない子供たちにこれ以上恐怖を与えたくなかった。
 その点では楓真くんの対応は僕と同じ考えで安心した。
 
 
「でも……今回俺が間に合ったからよかったけど、もし、あのままつかささんが落ちていたら、俺……正直子供相手でも容赦できません」
「……楓真くん」
「これだけは、譲れません。今後も、俺は同じ考えです。つかささんが一番です」
 
 
 ―――この楓真くんの優しい想いと言葉が、大きな障壁となるのはもう少しあとの出来事。
 
 
「……ありがとう。そんな事にならないように気を付けるね」
「そうしてください」
「楓真くんも、無理はしないで。まだ心配だよ…」
 
 
 包帯が巻かれた頭にそっと手を伸ばす。触れてしまわないよう、ギリギリのところを彷徨う僕の手を優しく握り頭に添えてくれる。
 
 
「ほんと意識を飛ばしてたのはほんの数分で、包帯巻かれてる間に目を覚ましてました。痛みも今はひいて大丈夫。だから俺よりも、なかなか目を覚まさないつかささんの方が心配で…」
「ごめんね…体を張って守ってもらいながら無傷の僕の方が長く寝てたなんて…」
 
 
 聞けば3時間程目を覚まさなかったらしい……
 
 
「ストレスは母体に影響を与えやすいって医師が言ってました。俺のせいで相当なショックを与えてしまったんですよね…」
 
 
 楓真くんがあのまま動かなくなってしまうんじゃないか、と思った時の恐怖……頭から血を流し倒れる楓真くんの姿……それが不意に脳裏にフラッシュバックすると心臓がバクバク騒ぎ出し、次第にそれは身体全体に浸透し、お腹がキリキリしてくる。
 
 それが気の所為で終わればよかったが―――
 
 
「……?つかささん?」
「ぁ、ごめ…なんか……お腹…痛い」
「ちょっ、つかささん!!」
 
 
 すぐさまナースコールを押す楓真くんは、ベッドの上でお腹を抱え縮こまる僕の背中を摩ってくれる。それでもキリキリ痛みを訴える波は収まらない。
 
 
 その間、微弱に流れる楓真くんのフェロモンが唯一の救いだった。
 
 
 

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