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第二章【記憶】

2-21 それぞれの思い(7)

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 不覚にもリアムに乱され底まで落ちた機嫌をいつまでも落としておくわけにもいかず、しばらく目を閉じ気持ちを整えていたレオンハルト。
 何気ない拍子にチラッと隣を見ると、いまだぼぉっと立ちつくし、何か考えているのか百面相をしながら仕切りに手首を撫でるラウルにようやく気がつきハッと我に返ると、ひとまず座らせるべく意識して落ち着かせた声音で声をかけた。
 
 
「ラウル、立ってないで座りな」
「!あ、はいっ」
 
 
 突然声をかけられ飛び上がる勢いで大袈裟に反応したラウルはそそくさと隣に腰掛けてくる。
 機嫌が悪そうだったレオンハルトに声をかけてもらえたのが相当嬉しかったのか、にこにこ笑顔で身体ごと自分に向けて座るラウルの制服の袖からチラッと覗く赤く染った手首がレオンハルトは気になって仕方がなかった。
 
 
「悪い…それ、さっき掴んだ時の痕だよな…痛くないか?」
「?」
 
 
 きょとんとした表情でそれと指さすレオンハルトの指先を目で追うと、無意識に触っていた自分の手首にたどり着く。よく見えるよう顔の前まで上げた手首は、痛みは全くないのに反して見た目が痛々しくなっていることに改めて気が付いたと同時に、痕を付けたレオンハルトが罪悪感を抱いてしまっているのだ、とわかった途端、こりゃいけない!と全力で顔の前で手を振り回した。
 
 
「全然っ!全然全然痛くないです!ほら!元気!俺の手元気!」
「わかった、わかったから!そんな振り回さんくていい!手が吹っ飛びそうで見ててこわい」
「へへ…」
 
 
 ラウルの前のめりの勢いに押されながら、ふっと吹き出す不意のレオンハルトの苦笑に、レオくん笑ってくれた!と満面の笑みで感動するラウルは、自分が人を笑わせることができたというひとつの達成感を満足気に受け止め、それが背中を押すきっかけとなっていた。
 

「レオくん、俺決めました」
「ん?」
「強くて頼れるカッコイイ男に俺はなります!」
「……は?」
 
 
 鼻息荒く言い切る突然のラウルの宣言にレオンハルトの周りにはひっきりなしにはてなが飛び交うがそんなのお構い無しのラウルさん。自分の想い描く強い男像を次から次へと上げていく。
 
 当然のように土台はリカルド。
 「リカ様のような~」から始まる羅列が10を越えようかとしている頃、やっと見えた終わりの雰囲気に、2.3個目くらいから聞き流していた意識をそっと戻すのだった。
 
 
「――そんでもって、レオくんも守れるくらい頼れる男になるので大舟に乗ったつもりで俺に着いてきてくださいねっ」
「……」
 
 
 えっへんと胸を張るラウルに最初はポカンと呆気に取られながらも次第に苦笑が盛れてくる反面、荒んでいた心がじわじわ温かくなるのを感じていた。が、そんな事を素直に口にするはずもなく、緩みそうになる表情を誤魔化そうと、むふんとにやけているラウルの唇上下をぶにっとアヒルのように摘んだ。
 
 
「ふっ、どの口が言うか」
「んっ!?んむむむっ!」
 
 
 抗議しようにもレオンハルトに唇を摘まれているため話す事が出来ず、必死にもごもごするラウルを一通り見て笑い、パッと手を離す。
 
 
「ぶはっ、…はぁ、はぁ、レオくん酷いです…」
「ははっ」
「じゃなくて!確かに今はまだまだ未熟者ですけど!ちょっとずつです!俺の成長はこれからです!」
「はいはい、頑張ってください。明日からはラウルさんに道案内をお願いしましょうかね」
「……ちょっとそれは厳しい」
「なんだそれ」
 
 
 速攻のツッコミにどちらともなくぷっ、と吹き出し、あははっと笑い出す2人だけのテーブルは、元からチラチラ見られていた視線をさらに集めてしまっていた。そんなことも気にならないくらい、今はラウルのおかげで軽くなった気持ち。
 
 
「ラウル…ありがとな」
「?」
 
 
 きょとん、と首を傾げる表情は、突然告げられた感謝の意味をわかっていない。そんなラウルに、なんでもない、と笑うと頭を数回ぽんぽん叩き、そろそろ授業始まるぞ、と誤魔化した。
 
 
 いままで気にしないフリをしながらも、アルフレッドの影に隠れる霞んだ存在だったレオンハルトにとって、ラウルから一心に頼られるのは唯一自分の存在意義を認められている感覚だった。
 たとえその視線がリカルドにしか向いていなくても、こうして一緒にいる時はレオくん!と泣きついてくるその存在が、その笑顔が、レオンハルトの心を少しずつ少しずつ、埋めていた。
 
 
 
 
 
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