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第一章【新生活】

1-9 オリエンテーション(3)

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「今ここには新入生全員が集まっていますが、明日以降の授業は半分に分けた2クラス単位で動いていきます。その分け方は――」
 
 
 再びフイッと杖を振り一度黒板がリセットされるとすぐに2つの固まりで分かれた名前の羅列が現れる。
 青枠で囲われたグループの見出しには【セント寮】、赤枠で囲われた見出しには【アール寮】と書かれていた。
 
 
「既に入寮済みの方々はおわかりかと思いますが、今ご覧になっていただいてるこれが4年間過ごす寮の振分けです。この寮単位で授業や、寮対抗魔術祭など様々な行事が行われていくので切磋琢磨力を合わせて頑張ってくださいね」
 
 
 まだ自分の寮を把握していなかったラウルは必死にラウル・ラポワントの名前を探した。そしてついに赤枠に囲われた【アール寮】に自分の名前を見つけ、その少し下にレオンハルト・プルーストも見つけると「レオくん!」と嬉しそうな声を上げていた。
 
 
「ん、一緒の寮だな。改めて4年間よろしく」
「はい!」
 
 
 正直これから4年間、知らない人達の中で生活していく事に不安と緊張でドキドキしていたラウルは知ってる人と一緒というだけでもう安心し、レオンハルトについて行けば大丈夫だと大船に乗った気持ちで緊張を解いていていた。
 
 
「この後各寮に移動し、入寮式があります。今日から入寮の生徒の荷物は既に部屋に運び込まれているのでそこで確認してください。それでは今日は以上になります改めまして優秀な魔法士になれるよう皆さん頑張りましょうね」
 
 
 そう締めくくるとシリルは優しい笑顔を残し元きた扉から出ていった。
 パタンと扉が閉まると、講義室内は一斉にざわめきだす。早々に講義室から出ていく者、まだその場に留まり話す者といる中、「行くぞ」というレオンハルトの声に慌てて立ち上がったラウルは通路に出て待つレオンハルトにはい、と手を差し出す。
 
 
「え……」
「え……?」
 
 
 お互いに手と顔を行き交う視線。そしてラウルの視線の先には人が溢れた出入口。
 折れたのは―――レオンハルトだった。
 
 
 
 しっかり握った手にピッタリ身を委ね、目を瞑って意気揚々と廊下を歩くラウル。レオンハルトは行き同様、なるべく観衆から自分の顔が見られぬよう口元に当てた手を離す事ができなかった。
 
 
「こんな所をリカルド先輩に見られようものなら俺が殺されるから、頼むから早く慣れてくれよ…」
「リカ様そんな事しないです……」
「おま……」
 
 
 目を瞑ったままむぅ、と頬をふくらませるラウルのふっくら頬っぺを全力で潰してやりたい衝動と必死に戦いながら、お前の知ってるリカルドは何重にも猫を被ったまやかしだ、と心のなかで叫ぶレオンハルトだった。
 
 
 今いる教室棟の校舎から寮まではゆっくり歩いて約10分程の距離。
 外に出るとさすがに人もバラけ、ラウルでも目を開け歩く事ができるようになった。離れていくレオンハルトの手を少し寂しく思いながらも辺りを見回しながら各校舎の説明を聞いていると、突然ふと今から向かうのは4学年が集う寮だと気付く。
 
 
「あの、レオくん…ちなみにリカ様はどちらの寮か知ってますか?」
「……すぐわかるから、ドキドキして待て」
「え!?なんですかその天国と地獄の判決を待つ罪人みたいな気持ち」
「そんな大袈裟に例えんでも」
「大袈裟なんかじゃないです!リカ様と同じ屋根の下は天国!それ以外は地獄と一緒です。俺はこの2年間ずっと地獄で生きてきました…もうそれはイヤです」
 
 
 シュンと肩を落とし元々小さい身体をさらに小さく縮こませちまちま歩くその姿はエサをお預けくらうポメラニアンそのままだった。あまりにも哀れな様子に多少の罪悪感を感じたレオンハルトはガバッと肩を抱き込むと無駄に明るい声を出し元気付ける。
 
 
「はいはいはい!落ち込むな落ち込むな!お前の大好きなリカルド様が寮で待ってるぞ」
「……今から行く寮にですか?」
「今から行くアール寮にです。そこの副寮長がリカルド先輩だ」
「!!」
 
 
 一気に目を輝かせるラウル。だが、続くレオンハルトの言葉に一気に肩を落とすラウルだった。
 
 
「ちなみに、寮長はアルフレッド兄さんな」
「……その人は苦手です」
 

 ぐえぇ…と全力でイヤな顔をするラウルに笑いながら「さっ着いたぞ」と見上げる先に【アール寮】と書かれたアーチ状のお洒落な鉄格子の門が口を開けて二人を出迎えた。
 
 
 
 
 
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