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第一章【新生活】

1-3 入学式(3)

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 ついため息が出てしまうくらい優雅な所作で壇上から降り席に着くまでを見届けリカルドの出番が完全に終わった途端、この式自体への興味をなくしたラウルは席へ戻ったリカルドの背中を再び熱心に見つめながら式が終わるのを今か今かと待ち望みソワソワしていた。
 
 
 
『――以上をもちまして王立セントアール魔法学院入学式を閉会いたします』
 
 
 アナウンスの合図とともに一気に緊張感が解かれた講堂内は波のようにざわめきが広がり出す。
 そんな中ずっとリカルドの背中だけを見つめていたラウルは彼が隣の人と話しながら立ち上がるのを追いかけるべく焦って立ち上がった。が、真ん中辺りに座っていたため左右どちらも混雑していてすぐには抜け出せない。
 そんなラウルと違って、リカルドともう一人顔はよく見えないが背の高い黒髪の人が並んで歩く道は自然と生徒たちが譲り開けていき難なく進んでいってしまう。こちらを振り返ることなく扉から出ていくリカルドの背中をラウルは泣きそうな目で見送った。
 
 
「リカ様ぁ……」
 
 
 しょぼんと項垂れていると突然後ろからくっくっと笑いを堪えるような声が聞こえてくる。それがあまりにも近くから聞こえてくるものだから何だろう…と訝しげに顔だけを声のした方へ向けると165cmのラウルが見上げてしまうくらい高い位置に黒髪短髪の爽やかなイケメンが顔に手を当て笑いを堪えていた。
 
 
「……なんですか」
 
 
 基本ラウルは人見知りだ。リカルド以外に興味が無いのもあるが自分から誰かに話しかけにいったり誰かと親しくなるなんて事をあまりしてこなかった。する機会がなかったというのが正しいかもしれない。いつもリカルドと共に過ごしてきたうえにとある事情からラポワントの家から出る機会もそうなかったのだ。
 その為、リカルドと共に過ごせる学院生活と胸を躍らせていたが、その反面、こんなにも知らない人が溢れる空間でこれから自分はやっていけるのかと内心不安で仕方なかった。
 
 そして今、この世界にきて初めて他人と目を合わせて話をしている。
 
 
「いや、ごめんごめんつい面白くて。笑ってごめんな。式中ずっと隣で見てたんだけどキミ、リカルド様親衛隊のメンバー?」
「へ……?リカルド様…親衛隊…?」
「ん?違ったか?リカルド先輩の時だけ熱心に拍手して、出番が終わってからは他の人への拍手全スルーでずっと先輩の後ろ姿を見つめ続けてたから、てっきりそうなのかと」
 
 
 目の前の人が話し続けているにも関わらずラウルの頭の中はリカルド様親衛隊……リカルド様親衛隊……と初めて知った存在で埋め尽くされていた。
 
 
「なあ、話聞いてる?」
「そんっな素晴らしい集まりがあるんですか!?」
「わっビックリした…!」
 
 
 突然現実に戻ってきたラウルの目はキラキラ輝き勢いよく黒髪の青年に詰め寄る。さっきまでの警戒心が嘘のようにほぼゼロ距離で自分より頭一つ低い位置から見上げられるなんとも言えない感覚に青年がドキドキしていると、我に返ったラウルは「あ、ごめんなさい」と一歩後ろに下がり頭を下げた。
 
 
「や、えと、親衛隊っていうのは人気のある生徒に有志で集まって陰ながら色々サポートするファンクラブのようなもので、リカルド先輩のとこは学院内じゃ五本の指に入る規模らしい」
「さすがリカ様……」
「キミ…リカルド先輩の何…?ストーカー?」
 
 
 話をするからに親衛隊の存在は知らず、入学当初からここまで熱心にしている姿に若干引き気味の青年。そんな態度にムッとしたラウルはふんっと鼻息荒く胸を張り自己紹介をする。
 
 
「俺は、ラウル・ラポワントです。ストーカーなんかじゃありません!」
「ラポワント……ってことはキミがラポワント家の秘蔵っ子か」
「?ちょっとよくわかりませんが、俺はリカ様のストーカーじゃなくて、崇拝してる信者です!」
「……いや、意味かわらなくね?」
 
 
 咄嗟にでたツッコミにお互い、え?と左右にこてんと頭を傾けながら沈黙する事数秒。
 
 
「ふはっ、ほんと面白いなぁ!ラウルね、俺はレオンハルト・プルースト、レオって呼んで。同じ新入生同士仲良くしてくれよ」
「え、えと、レオ……くん」
「ん、よろしく!ラウル」
 
 
 なかば強引に握手をされながらその繋がった手をパチパチ瞬きを繰り返す目で見つめる。いまだ繋いだ手とレオンハルトの顔、その二つをこぼれ落ちそうなほど大きく見開いた目で交互に見比べながら、人生で初めてオトモダチができた瞬間にラウルはパァっと遅れて心が踊り出す。
 
 
「レオくん!俺オトモダチ、初めて!わぁよろしくお願いします!」
「――っ、かわ…」
 
 
 ラウル特有にっこにこお日様笑顔が大炸裂し、それを直接真正面から浴びたレオンハルトは何故だか心が浄化されていくようなそんな気分になりながら眩しく受け止めた。
 
 
 
 
 
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