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4【就任披露パーティ】
4-14誘拐(9)
しおりを挟むしばらく泣き続けていた美樹彦さんだったが次第に気持ちも落ち着いてきたのか、激しい泣き声はある時からピタリと収まり、小さな嗚咽も段々聞こえなくなってくると腹に埋めていた顔がもぞもぞと持ち上がる。
その様子を黙って眺めていると、チラッとこちらを見たかと思えば照れくさそうかつ気まずそうな表情で視線をそらされおろおろと辺りを泳ぐ視線。それが再びこちらを見上げ目が合った瞬間、すかさずふわりと微笑みを送ればぴゃっと跳ね上がる姿が猫のよう。
そんな姿もかわいらしいと思いながらくすくす笑っていると、そっと伸びる手が僕のお腹あたりのシャツを握る。
「……ごめんなさい、シャツ濡らしちゃった」
「ふふ、大丈夫ですよ。これくらいすぐ乾きます」
「ん……」
「さぁ涙はもうしまってください、二人で逃げ切るためにも体力は取っとかないと」
「……ッズ、うん」
涙の名残で赤くなってしまっているくりくりおめめにかかるふわふわな前髪をそっと払い、濡れた目尻を拭いとる。
その間、完全にされるがままの無防備な姿。
美樹彦さんに触れているこの手がいまだ振り払われない現実に内心感動しながらついでとばかりに頭を撫でているとその腕の裾をキュッと握られる。
「……つかさくん」
「?はい」
「あのね、聞いてほしいこと、あるんだけど…いい?」
「はい、聞かせてください」
「うん……」
自分から切り出したものの緊張しているのか、はぁー…と深呼吸する美樹彦さんを見守り、タイミングが整い話し出すまで黙って待った。
「ずっと……ずっと楓真の一番近くにいたのは僕だったから、楓真への想いに僕が負けたって認めたくなくて、受け入れられなくて……つまらない意地を張ってた。酷いこと、沢山してごめんなさい」
「っ、もう充分わかりましたから、そんな頭下げなくてもいいんですよ」
「……やっぱり、つかさくんはすごい。つかさくんに接してみてすぐわかった。あぁこの人は本当に心が綺麗な人なんだな、って」
「……」
「―――だから余計悔しかった。同じオメガ性でも、お金も地位も絶対僕の方が恵まれてるのに、それ以外の大きな点で勝てないってわかったから。何かわかる?」
「いえ…僕なんかが美樹彦さんより優れてる所なんて―――」
「あるの。たくさんある。もっと自信持ってよ。とりあえずその一番が、人間性。だって、どれだけ嫌な事をされても一番に気にするのは他人の心配、って……なにそれ普通自分が一番大事じゃん」
「っ、えっと……」
客観的に見た自分の長所をストレートに聞かされ、顔が熱くなっていくのを感じる。
これは楓真くんや僕がよく知る人から聞くのとは訳が違う。
ありのままの自分の評価。
「だからね、心の奥底ではとっくの昔に、楓真の横はつかさくんがお似合いだって、楓真が選んだ相手がつかさくんで良かった、って……思ってた」
「美樹彦さん……」
「以上、ご清聴ありがとうございました!!あっ、そうだ、今度もしよければ……僕も双子に、会いたい」
最後消え入るようなか細い声だったかと思えば、誤魔化すように大声で元気よく締め、かと思えばまたもやもじもじとこちらを伺いながらやっと口にした嬉しい提案。
「っ!……ぜひ、必ず、うちの子に会ってあげてください。絶対に喜びます」
その時を想像して、はしゃぎ回る子供たちが簡単に脳裏に浮かぶ。
いつかの楽しい未来のため、
その為にも二人一緒に、脱出―――
そう改めて強く認識したのだった。
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