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4【就任披露パーティ】
4-8誘拐(3)
しおりを挟む「あっれ、起きてんじゃ~ん」
「薬の効きが悪かったか…」
現れたのは、シンプルなブラックスーツ姿にサングラスで目元を隠した陰陽対称的な二人組。
声で予想していた通り歳は二十代後半と予想でき、僕や美樹彦さんより断然体格が良さそうな、若さ溢れるエネルギッシュさを感じた。
そんな彼らは僕たちに気付くなり面倒くさそうに顔を見合わせるが、そのままズカズカ部屋に入り込んでくると問答無用で扉を閉めてしまう。
「……」
そう広くもない空間で無言の二人に上から品定めするかのように見下ろされる感覚は、より強い圧迫感を覚え緊張感が辺りに充満する。
なりを潜めていた恐怖と不安がふつふつと込み上げかけていた。
これは、まずい――……
この感覚に呑まれてしまったら、終わりだ。
美樹彦さんを気にかけるどころか、自分のこともままらなくなる。
トクトクトクと鼓動する心臓は少しずつ確実にスピードを上げていた。
その時―――
左腕を美樹彦さんに強く握られる感覚に、ハッと意識が浮上する。
「っ、美樹彦さん…?」
「しっかりしてよ、あんたがそんな調子じゃ楓真が助けに来る前に相手の良いようにされちゃうでしょ!何でそんなビビってんの?見た感じ、あいつら全然若いじゃん丸腰じゃん。クマみたいなヤクザだったらどうしようって思ってたけど、拍子抜けした」
「ちょ、美樹彦さんっ相手に聞こえます」
何を思ってか完全に舐めた態度を見せる美樹彦さんを慌てて宥めようにもこんな狭い空間で聞こえないはずがなかった。
一歩前に出る相手の足音がやけに大きく聞こえた。
「うんうん、しっかり聞こえてるよね~。言ってくれるじゃん、さすがジャジャ馬お姫様」
「誰がジャジャ馬だってぇ??」
「美樹彦さんっ」
さっきまで怯えて震えていた姿が嘘のように、相手に噛み付く美樹彦さんの姿に勘弁してくれと内心泣きそうになる。
今度は違う意味で心臓が飛び跳ねていた。
掴まれていた腕を気付けば逆に僕が掴み制止する形になっていたが、美樹彦さんの勢いは止まらない。
「あんた達の目的は何!?僕をこんな目に遭わせてタダで済むと思うなよ!?」
「キーキーうるっさ……少しはそっちの綺麗なお兄さん見習えよ」
「もう一度眠らせとくか」
「はぁぁ!?なんで僕がジャジャ馬でこっちは綺麗なお兄さん扱いなわけ!?」
「美樹彦さんっ一旦落ち着きましょう、ね!?」
相手に掴みかかる勢いで腰を浮かせ立ち上がりかける美樹彦さんに慌てて抱きつく形で引き止め、どうどうと落ち着かせる。
そんな美樹彦さんに、心底げんなりした表情を向けているのがサングラス越しでも伝わってきた。
「はぁ…ボスもどうしてこんなジャジャ馬なんかを…」
「ジャジャ馬言うな!」
「美樹彦さんっ、―――あの、あなた方の目的は一体」
これ以上話がややこしくなる前に本題を切り出す。
彼らの目的は何なのか―――
想像通りであれば、おそらく……
「一柳でも御門でもなく、あなた方のターゲットは美樹彦さんですか…?」
僕の問いかけに、場はしん、と静まり返る。
やはり答えてもらえないか、と諦めかけたその時、無言で目配せし合った二人組は肩を竦めるとそのままよく喋る方が渋々と口を開いた。
「……そ。俺らのミッションはそのお姫様を海を渡った先のボスの元まで連れ帰ること」
「うみ……かい…がい…?」
「そういうこと」
「痛い目みたくなければ大人しくしてな」
わかってはいたがこの時改めて、誘拐されかけている現実を突きつけられた。
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