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3【招待という名の呼び出し】

3-29混じり合い(1)

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 何故、こんな事になってしまったのか―――
 
 
 
 自分でも自分の体がわからない。
 
 
 
 ただ、朦朧とする意識の中、ドクドク暴れる心臓をはじめ気だるい全身ごと優しいフェロモンがずっと包み込んでくれていたのだけは覚えてる。
 
 
 
 自分の意思に反して勝手に溢れでてしまうフェロモンがうまく中和される感覚。
 
 
 
 それがとても心地よくて心強かった。
 
 
 
 
 
 *****
 
 
 
「つかささん大丈夫?下ろすよ?」
「……ん」
 
 
 ふわふわとした浮遊感。
 
 力強い腕に抱かれベッドと思われる場所にそっと下ろされるとすぐさま嗅ぎなれたフェロモンがふわりと鼻腔をくすぐる。
 そこではじめて自宅の寝室に戻ってきたのだと悟った。
 
 寝かされたベッドから起き上がろうにも上手く力が入らず、んんんと唸り奮闘するが最終的には諦めだらりと横たわる。
 そんな僕をくすりと笑う声が近くから聞こえた。
 
 
「ふ……ま…くん…?」
「はい」
 
 
 薄ら開いた視界にぼんやりうつる人影。
 はっきり見えなくとも雰囲気から楓真くんだとすぐにわかるし、きっといつもみたいに優しい笑みを携えながらそばに居てくれてるのだろう。
 
 だけど、昨日に引き続き今日もたくさん迷惑をかけてしまった……。
 
 御門ホールディングスの社員は多忙だ。それが役員、社長クラスともなればその比ではない。
 会議や資料チェックなど楓真くんがこなすべきタスクは多岐にわたり、本来であれば今もそれに時間を割いている頃。それなのに僕のせいで……
 
 
「つかささん?泣きそうな顔してどうしたの?」
「っ、」
 
 
 改めて思う。楓真くんに隠し事は不可能だ。
 すぐに僕の感情の機微に気付いてしまう。
 
 
「……ごめん、なさい」
 
 
 上手く言葉に出来ず、やっとの事で口から出たのは消え入りそうなそんな一言だった。
 
 突然謝られても楓真くんを困らせてしまうだけ。
 正常な判断ができていればすぐにわかることなのに、どうしても頭が回らない。
 
 虚をつかれたように目を丸くする楓真くんからは、はぁ…と洩れる小さなため息。
 
 
「なんで謝るの、つかささんが謝ることなんて何一つないですよ」
「でも……」
「でもじゃありませ~ん。そんな顔しないで、ね」
 
 
 頭を優しく撫でられ、そのままおりてくる大きな手に頬を包まれる。行き場のない謝罪は消化不良としてもやもやと腹の底にぽとりぽとりと落ちていく。
 そんな僕を見越してか、「つかささん、こっち見て」と横たわった僕の頭上から呼ぶと頬に添えられていた温かい手が反対側にも増え顔をあげられる。
 
 
 不意にちゅっ、と聞こえたリップ音。

 唇を掠めた一瞬の接触に完全に反応が遅れた。
 
 
 ぱちくり、と離れていく楓真くんの顔を凝視する。
 
 
「……」
「そんな見つめられると楓真くん穴あいちゃう」
「……見て、って自分で言ったくせに」
 
 
 ふふっとゆるくおどけた雰囲気が漂う。
 
 
「苦しくない?ネクタイ緩めようか?」
「……ん」
 
 
「水飲む?」
「……大丈夫」
 
 
「……キスしていい?」
「して」
 
 
 
 答えると同時に薄く口を開け迎え入れる唇は心地いいほどぴったり重なり、フェロモンごと全てを混じ合わせるような濃いキス―――
 


 ギシッと軋むベッドの音が鮮明に聞こえた。
 
 
 
 
 
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