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2【動き出す思惑】
2-43穏やかな家族時間(4)
しおりを挟む「まだ22時前ですけどもうくたくたですね、本当にお疲れ様でした」
「楓真くんも。なんか、まだ復帰二日目なんだよね…色々ありすぎて」
「ほんとですよ…これから本格的にパーティの準備や本番が控えてますし、体調には気をつけてくれぐれも無理をせず」
「ん…ありがとう。楓真くんもね」
肩に回った手が髪の毛をさわさわ弄りながら優しく頭を撫でていく。
その感触に目を細め気持ちよく身を委ねていると不意に楓真くんの口から「美樹ですけど…」と言う言葉が聞こえてきた瞬間、あからさまにピクリと反応してしまい、それは接触部分から伝わったことだろう、変に誤魔化す事はせず預けていた頭をゆっくりもたげ楓真くんの顔を正面から見つめ続きを待つ。
しかしなかなかその先が出てこないのか、珍しく言葉を濁しながら何かを言おうとする様子に焦らず待つ姿勢を見せた。
「大丈夫、ゆっくりでいいよ」
「はー…すみません、うまく言葉纏まらないんですけど、今回の件、まず湖西はこれからまだ利用価値とかもありそうなので様子見するんですけど…美樹は…正直、年末のパーティで初めてつかささんと接触してからあいつがここまでして来ると思わず、俺の推測ミスでした……しかもここから今後関係を完全にゼロにする、っていうのは…すみません美樹が、というより一柳が関係して難しそうです…まじ不甲斐なさすぎて」
終始辛そうに顔を歪め俯いてしまった楓真くんの言いたい事はなんとなくわかった。
「楓真くん、顔上げて?そんな申し訳なさそうにしないでよ、付き合い上仕方ないことだから。わかってるよ。それにさ、会社に悪影響な事をされるのはまた別だけど、僕個人への事なら多少は――」
「それは良くないです」
「え……」
笑いながら大丈夫だよ、と言おうとした僕の言葉は一切の笑いなく真剣な表情で遮られてしまった。
「今回の件で改めて俺の中で考えが固まりました。いくら長い付き合いとはいえつかささんに手を出した時点で俺の敵です。つかささんと子供たちに害をなすやつに容赦しません」
「楓真くん…」
会社の関わり依然に、幼い頃から兄弟同然で過ごしてきた人物との関係を切るという事は気持ち的にもそう容易ではないのは、そこまで親しい相手がいない僕でもなんとなく想像はできる。それでも、僕たち家族を一番に考えてくれるという楓真くんの言葉とその表情からとても強い意志を感じ、考えるより先に目の前の彼を抱きしめるべく体が動いていた。
「っ、つかささん…?」
「ありがとう…本当に楓真くんは家族想いのいい旦那様だねぇ」
「え…えぇ?なんですか突然」
「ふふ、でもね、別に関係を切る方に考えなくても、僕が楓真くんの番として美樹彦さんに納得して貰えればそれでいいと思うんだよね…僕も頑張って認めて貰えるよう努力するね」
「……つかささん以上に最高の番は絶対にいません」
「うーん、だといいなぁ」
「いぃまぁせぇんんんん~」
「わぁっ」
僕の方から抱きしめたというのに、気づけば強くぎゅぅぅっと抱きしめられ駄々っ子のように首元に頭をぐりぐり押し付けられ、どちらともなくくすくす笑いが溢れ出す。
そのまましばらくじゃれあっていると、力のままにとさっとソファへ倒れ込み、視線をあげれば上から覆い被さる楓真くんの視線と絡み合った。
見つめ合うこと数秒後、お互い何も言うまでもなく、自然と閉じる視界は唇が落ちてくる感触をより鮮明に感じさせるのだなぁ…と頭の片隅でぼんやり思いながら流れのまま身を任せるのだった。
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