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2【動き出す思惑】
2-31安心感
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気を失う直前に感じた楓真くんのものだと確信が持てるフェロモン、声、人肌、全ての要素が積もりに積もった不安な気持ちを吹き飛ばし、もう大丈夫だと思った瞬間、ピンと張っていた緊張の糸が一気に緩み抗う余地もないほど一瞬で意識を手放していた。
それからどれくらい経過したのか―――
ふわりと頭を撫でる感触と、安心するフェロモンに包まれている感覚にゆっくり意識が浮上し、ボヤける視界を何度か瞬きを繰り返し見えるように調節していると、不意に飛び込んできた光景に「え…」と体が固まった。
少し離れた所に立つ人物――それがジャケットを脱いだ楓真くんの後ろ姿だとわかると同時に気づいたこと。
初めは楓真くんに重なり隠れ見えていなかったのだが、少し動いた拍子にあの楓真くんが誰かの胸ぐらを掴み今にも振り上げた拳を叩き込む寸前という信じられない場面が繰り広げられているのだと理解すると、目を見開いている暇もなく重だるい体を無理やり起き上がらせ、一目散に走り寄っていた。
トクトク聞こえる心臓の鼓動が自分のものなのか、それともぎゅっと抱きしめる楓真くんのものなのか……もしかしたら両方かもしれない。
とにかく間に合う事が出来たことに安堵し、広い背中にとんっと額を預けながら息を吐く。
どれだけ強く拳を握りしめていたのか、一本一本指を絡ませぎゅっと繋がる彼の右手は氷のように冷たい。それは普段陽だまりのように温かい楓真くんの手とは思えないほどだった。
自分もつい直前まで気を失っていたが、それでもこの手よりは断然マシだろう。少しでも温もりが伝わるように、と絡ませた指をにぎにぎさせながら、腰に回した左手はぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。
「つかさ…さん…?」
「ダメだよ…楓真くん…。誰であろうと、あなたの大切な会社の従業員に手を出しては絶対に、ダメ…」
「っ、」
背中に向かって言い聞かせるよう、絶対にダメ、を強く繰り返していると、少しは冷静さを取り戻してくれたのか未だ湖西くんの胸ぐらを掴む手をやっと解放し、そのまま自分の目元に持っていく楓真くん。
ゴホゴホ咳き込む湖西くんには美樹彦さんが駆け寄るのが見え、そちらは任せておこうと楓真くんだけに集中する。
握り合ったままの右手も腰に回した左手の位置へ持っていき、両手で楓真くんを抱きしめる。
身長の高い楓真くんを後ろから抱きしめる図は、一見しがみついているようにしか見えないだろうが、構わない。無言で立ち尽くす楓真くんにただ寄り添い続けた。
「ごめんね…楓真くん……心配、かけたよね」
「……はぁー…もう、湖西に拘束されて気を失うつかささんを見た瞬間、またあの時みたいに俺…間に合わなかったんじゃないかって思ったら、俺、マジで、怖くて……」
「楓真くん…」
目元を覆う左手が僅かに震えている楓真くんの姿にズキンっと胸を痛め、握った手をよしよしと撫で擦りながら僕は無事だと伝える。
あの時のトラウマは当事者の僕だけでなく、楓真くんにも深い傷を残していたのだと思い知り、アルファといえど、7つも年下の彼に相当な負荷をかけてしまったことに年上として責任を感じていると、不意に握り合った手の上から更に手が重なる感覚――。
目を覆っていた手を外したのかと彼の表情を見る為顔を上げると、楓真くんを抱きしめていた腕を優しく解かれ、そのままくるりと振り返った楓真くんに正面から抱きしめられていた。
抱きつく、だった僕とは違い、しっかり抱き込まれ腕の中に包まれる。
「つかささんが無事でよかった…すぐに目を覚まして安心しました」
「……うん、来てくれてありがとう」
背中に回した腕にぎゅっと力を込めれば同じだけ返してくれる感覚に安心する。
つい、自分たち以外の存在をわすれかけてしまうほどに───。
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