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2【動き出す思惑】

2-26呼び出し(4)

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 湖西くんに拘束され身動きが取れないまま次第に心臓は狂ったように暴れだす。
 耳に聴診器を付けたのかと疑いたくなるほど自分の鼓動が鮮明に聞こえ、呼吸もだんだん早く浅くそして苦しくなり、自然と涙が視界を滲ませた。
 
 
「は、……はぁ、っ」
「――?橘さん…橘先輩?」
 
 
 荒い呼吸を繰り返す僕の様子にいち早く気付いた湖西くんが意外にも心配気に呼びかけてくるが、まともに返事を返すこともできない。
 仕舞いには自分の力で立っているのもままならなくなってきた。
 
 とうとうガクンっと崩れ落ちそうになる寸前に湖西くんが腕の力を強め、両脇を捕えられる格好から腰を抱きかかえる形に変えられたところで意識が朦朧としてくる。
 
 
「――美樹さん!」
「なにさ~…って、ねぇちょっと、顔色悪くない?なんで!?」
 

 そしてこちらも意外にもぎょっと驚いた表情で目を見開く美樹彦さんは、俯く僕を覗き込み何度も目の前で手を振ってくるが、やはり反応を返す余裕もなく、不思議と手の動きがスローモーションで何重にもボヤけて見えていた。
 
 
「ねぇこの人、大丈夫なの!?まだ僕何もしてないんだけど!?」
「過呼吸起こしかけてます」
「は??マジ??死んじゃう?それはやばい、さすがにそれはパパに怒られるどころの騒ぎじゃない!ワンちゃん、なんとかして!」
「っ、橘先輩、しっかりしてください」
「は――はっ、ふ……ま…くっ」
「わ、わかった、わかったから!楓真呼ぶから!」
 
 
 スーツのポケットからスマホを取り出し、落ち着きなく右手の親指の爪を噛む美樹彦さんを意識朦朧とする視界で捉えながら、うわ言のように楓真くんの名前を何度も何度も、口にした。
 
 
 
 楓真くん―――
 
 
 楓真くん、早く来て―――
 
 
 楓真くん、ここは、怖いよ―――
 
 
 楓真くん、楓真くん、楓真くん―――
 
 
 
 そうしていれば、僕の運命の番は絶対助けに来てくれる、そう信じているから。
 
 
 
「ふ…ぅ…ま…く……」
 
 
「―――つかささんっ」
 

 
 バンッと派手な音を立て開けられた出入口に立つ人物の顔は丁度廊下からの逆光で全く見ることはできなかった……が、代わりにぶわっと香る強いフェロモンが、彼だと告げていた。
 
 
 
 紛うことなきこれは僕の運命の番の香り。
 
 
 
 そして湖西くんとは比べ物にならないくらい力強く心地よい腕に抱き寄せ包み込まれながら、「つかささん…」と僕を呼ぶ世界で一番安心する声を間近で感じた途端、必死に手放さないよう堪えていた意識は糸が切れたようにぷつん、とそこで終了した。
 
 
 
 
 

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