【BL】欠陥Ωのオフィスラブストーリー

カニ蒲鉾

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2【動き出す思惑】

2-13強制ラット(3)side楓真(2/24修正)

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「まさか会社宛の荷物でこんな手を使ってくるとは思いもしなくて…完全に油断しました…」
 
 
 ソファへ深く沈み込み額に手を当てるとはぁー…と盛大に出てしまうため息。洒落にならない美樹の手段には当然腹が立つが、なにより油断した自分に一番腹が立つ。
 
 
「……そうだね…もし近くに居たのが僕じゃなかったら、とか楓真くん一人だったら、とか色々考え出したらキリがないけど―――最悪の事態にならなくて、本当によかった……」
「っ」
 
 
 いままで気丈に構え、俺を支えてくれていたつかささんの目がここにきて初めて揺れ、繋がる手から伝わる僅かな震えに目を見開く。
 つかささんのそんな表情を見た瞬間、考えるより先にその手を強く引き腕の中に閉じ込めていた。
 
 今にも溢れそうな程、目いっぱいに溜まった涙の奥に見えるつかささんが感じ抱えていた不安――それは、俺の特殊な体質に関係していた。
 
 普通、アルファとオメガは番になるとそれ以降お互いのフェロモンしか感じ取れないようになる。一番身近で例えるならば父さんがそうで、母さんが亡くなって以降も父さんは母さんのフェロモンにしか反応しない――つまり、今後一生父さんは誰のフェロモンにも影響を受けたりしない。
 本人からしたら苦しい事も度々あるだろうが、そのおかげで昔のつかささんが安心して傍にいることが出来た唯一のアルファであった。
 
 俺も父さん達他のアルファ同様、番になった以降はつかささんのフェロモンしか感じなくなるのだと、思っていた。……が、何かおかしいと感じたのは番になって初めて外出し街へと繰り出した瞬間、隣から漂う心地よいつかささんのフェロモンがかき混ぜられるように外の世界に漂う色んな匂いが脳をダイレクトに刺激した。
 
『っ、―――!?』
『楓真くん!?』
 
 急激なフェロモン吸収に体が悲鳴をあげ、その場で倒れた俺はすぐさま病院へ運ばれ瞬く間に数多の検査を受け、発覚した『フェロモン異常』
 原因も明確だった。フェロモンに対する拒絶反応を起こしてしまうつかささんに影響を与えないよう一時期無理に服用していた強いフェロモン抑制剤が原因だと告げられた。その薬の副作用はじわじわと俺の体を犯し、知らない間にフェロモンに対するブロッカー機能を破壊していたそうだ。
 
 そんな診断結果は間違いなく自分の事なのにどこか他人事な感想しか浮かばない俺は、むしろ隣で聞いていたつかささんの動揺に心配してしまった。少し考えればあの人の性格上、ショックを受けるのは目に見えていたのに、何故共に結果を聞かせてしまったのか…そう後悔するほど、僕のせいでと泣きながら自分を責めた。
 つかささんのせいではない、自分がつかささんのそばにいたかったからすすんで服用した、後悔はない、と何度も説得し、宥め、なんとか落ち着いてもらえたが、数年経った今でも体に害の無い程度の微弱なフェロモンブロッカーを服用する俺の姿を悲しそうに眺めるつかささんが、今回の美樹のフェロモン騒動に強く不安を覚えるのは十分理解出来た。
 
 
 番を持ったアルファにフェロモンを送ってくる行為は普通なら無駄な事だと思うが、美樹がこうしたという事はどこからか俺の体質の情報を仕入れたということで……敵に回すと厄介な相手だとつくづく思う。
 
 
「つかささん…ごめんなさい……心配かけて…」
「……っ、謝らない、約束」
「……はい」
 
 
 俺の肩に顔をうずめ、胸の辺りのシャツをギュッと握りしめるつかささん。そんなつかささんを抱く腕の力は無意識のうちに強まり、同じ男とは思えないほど余裕ですっぽり収まってしまう華奢な体を壊してしまわないよう、大切に抱きしめなおした。
 
 
 
 
「今回は俺にターゲットを決めてやってきましたが、あいつの事なので……何をしでかすか正直、予想ができません。あの見た目通り、性格もキツくてわがままで、小さい時からコトモノヒト全て自分の思い通りになると本気で思ってる節があります…」
「……想像できちゃうなぁ」
「就任披露パーティで嫌でも顔を合わす事になりますが、絶対に一人にならないで、極力俺が傍にいますけど―――」
「キミは主役なんだから…ずっとそうするわけにはいかないでしょ。大丈夫です、自分の身は自分で守れるよ」

 
 柔らかく笑いながらそう言うつかささんを信じていないわけではないが、心配で仕方がない。こんな細腕で空き部屋に連れ込まれたら…と想像しただけでゾッとする。何を言うでもなく腰にまわした腕にぐっと力を込めた。
 


 
「そうだ、ふと気になったんだけど美樹彦さんから届いた花って、たしか…薔薇だったよね」
「ですね、一瞬しか見てないですけど、ずっと変わらない美樹のフェロモンイメージの匂いのまま、薔薇でした。しかも真っ黒の」
「……黒…薔薇」
 
 
 不意に何かを思い立ったのかスマホを取り出し操作するつかささんはブラウザの検索画面を起動すると『黒薔薇 花言葉』と打ち込む。
 そして出てきた結果にふたりして息を呑んだ。
 
 
『あなたはあくまで私のもの』『憎悪』
 
 
 同じ花にもまったく正反対の意味がある事に驚きながら、この場合どちらが正解かなんて考えてみても本人以外わからない。
 
 
 ただひとつ言えるのは、間違いなく強い想いを乗せ俺の元までやってきた―――。

 
 
 
 
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