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2【動き出す思惑】
2-6真っ黒な贈り物(1)
しおりを挟む多少前日の名残を残しつつ黙々と通常業務をこなす秘書課メンバー達。
少し前に会長に同行して水嶋さんと瀧川くんが外出していったが、あとの面々は今日のタスク的に事務仕事がメインだった。
自分の急ぎの仕事はそこまで溜まっていなかったため、一人残された会長チームの新人、湖西くんにどこまで教えを受けているか業務内容を確認しつつさらに必要事項を教えていると、突如トントンと秘書課の扉がノックされた。
この時間はだいたい総務部が受付へ届いた郵便物を回収、仕分けし、会長、社長宛の物をこの部屋へ持ってくる時間帯。普段対応している花野井くんは現在松野さんをマンツーマンで指導しており奥のプリンターに行ってしまっていた為、代わりに自分が対応しようと席を立ち上がりかけた時、「俺が行ってきます」と湖西くんが先に立ち上がり出入口へと向かっていった。
わぁ…最近の子にしては珍しく率先して動けるのね…と感動しながらその様子を見守るも、ふとそんなことを思う時点で自分も古株になってきたな、と苦笑が漏れる。
「お疲れ様です、会長、社長宛の郵便物と、あと今日は社長宛に速達のお荷物が届いてました」
「ご苦労様でーす!」
いままで秘書課の元気印花野井くんと同じくらい元気に返事をする新人フレッシュな湖西くんを優しく眺めながら荷物片手に戻ってくるのを待ち受ける。
「橘先輩!郵便物受け取りました!」
「うん、ありがとう。仕分けはやった事ある?」
「花ちゃん先輩がやってるのをちら~っと見てただけでしっかりはまだ教えて貰ってないです」
「じゃあ簡単に教えるから、一緒にやろうね」
「お願いしまっす!!」
元気だね、と笑いながら宛先毎に纏めていた輪ゴムを取り外す。
実はこの作業をするのはだいぶ久しぶりだった。
産休育休中はもちろん、花野井くんにこの業務を引き継いでから随分長い年月が経ったなぁなんて感慨深く浸りながら、初めて目にする『御門 楓真社長』と書かれた郵便物でピタリと動きが止まる。
「先輩?」
突然手が止まってしまった僕に不思議そうに声をかける湖西くんの声で「あ…」と我に返る。無意識のうちに口角まで上がっていた。
「ごめんねなんでもないよ、……本当に社長になったんだなぁってちょっと感動しちゃった」
「……お二人は本当に仲良しですよね」
「ふふ、そう見えてたら嬉しい。さ、続き教えるね」
お願いします、とにっこり笑う湖西くんの表情の陰りに、まだ付き合いの浅い僕はこの時全く気付いていなかった―――。
「こんな感じで、郵便物は親展と書かれたもの以外は一度開封して中身を確認して、必要かどうかを取捨選択してから会長や社長の元へ届けます」
「………難し」
「ふふ、初めは判断つかないと思うから少しでも迷ったら自己判断せず必ず周りの人に確認してね」
「了解です!」
難しい事にシュンとした様子も、すぐさま気合いを入れ直す素直な性格に好感度が上がる。
後輩の成長に期待しながらあとひとつ残された速達の荷物に手を伸ばす。片手で収まるサイズの縦長のそれは真っ黒で光沢感のある包装紙に真っ赤なリボンで包まれた小ぶりながらに存在感をはなつ荷物。見た目的に贈り物のようだった。
「あとは速達だね、社長宛だっけ…送り主は――」
“一柳ホールディングス 執行役員 一柳 美樹彦”
久しぶりに目にした名前。
無意識にはっと息をのみ、脳裏には昨年末訪れた一柳財閥主催のパーティでの出来事が蘇っていた。
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