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1【職場復帰】
1-2サプライズ辞令(2)
しおりを挟む僕の職場復帰と同時に、子供たちもこの春から新たに保育園へ通うことが決まっていた。
お試しとして既に何回か通園をしているが今日が初めての通し日。双子ということもあり一人きりではないのがお互い心強いのか、新しい環境でも不安がること無く楽しそうに過ごしているという報告は先生から貰っていたが、親としてはやはりハラハラドキドキしてしまう。
「つぅくん、ふぅくん、お友達と仲良く過ごしてね」
「先生の言うこともよく聞くように」
「「あ~い」」
若い二人の女性の先生にそれぞれ抱かれた楓莉くんつくしくんに、スーツ姿で出勤スタイルの楓真くんと揃って手を振っていると、同じように預けに来ていたお母さん方が数人集まってコソコソ話しているのが小さいながらに耳に入ってくる。
その大半が楓真くんに対する黄色い声だった。
楓真くんと話し合い、どうしても仕事上難しい時以外は朝は基本二人で園まで送り届ける事にした。
これから日中、共に過ごす時間が急激に減ってしまう子供たちへのせめてもの償い…と言いつつ、本音は子供と離れ難い親心が8割がただった。
数回朝の見送りを経験してみて、特に話しかけてくる人達は無いが、遠巻きにキャッキャ見られている感触から、男性同士のパートナーということもすんなり受け入れられている様子だった。
オメガ男性に対する言葉が何も聞こえてこない。
むしろ、大変だろうに双子を産むなんてすごい、という声が聞こえたりして、小さな子供を持つ親という共通点は、男女の垣根を越え仲間意識を抱いて貰えるらしいと少し感動していた。
今後、楓莉くんつくしくんがお友達として紹介してくれた子の親御さんたちとも家族ぐるみで仲良くできる日が来たらな、とまだ見ぬ将来に少しワクワクしていた。
「あと、トヨさんの言うこともよく聞いてね」
「トヨ~」
「あい~」
合点承知、といった顔で力強く頷く頼もしい二人に先生たちも揃って全員から笑いがもれる。
今日から夕方のお迎えは楓珠さんの所へ長年務めてくださっている家政婦のトヨさんにお願いしている。トヨさんは楓真くんが小さな頃から御門家を見てくれているベテラン家政婦さんで、子供たちもすっかり懐いている為、安心して任せられる。
仕事が終わったら楓珠さんのご自宅へ双子を迎えに行くという形でしばらく様子見をするのだが、楓珠さんとトヨさんの多大なる支援と協力があっての今回の職場復帰。心から感謝しかない。
実際、楓真くんはこのまま職場復帰せず家にいてくれていいと言ってくれた。かつて僕を拾い雇ってくださった楓珠さんもそれには大いに賛成してくれていた。
どう考えても有り難い提案に、僕ひとりだけが首を縦に振らなかった。
まだ小さな子供たちには確実に寂しい思いをさせてしまうし、一日中家にいた時のように十分な家事ができなくなってしまうかもしれない……だけど、社長として活躍する楓真くんを専属秘書として傍で支えていきたい、という僕の思いは、楓珠さんのもと楓真くんが会議や職場で活躍するかっこいい姿を見る度に秘かに大きく膨らみ、産休育休中も萎むことは無かった。
それに、今は僕の後輩である花野井くんが楓真くんの秘書としてついてくれているらしいが、そのポジションを僕以外の人に譲るのが悔しい、というのが正直な気持ち。
楓真くんのパートナーは公私共に僕が埋めたかった。
ここまで正直な気持ちは誰にも伝えてはいないが、僕の我儘を許し応援してくれる楓真くん、楓莉くん、つくしくん、そして楓珠さん、トヨさん。みんなの支えがあってこその念願の職場復帰だった。
それに恥じぬよう、仕事も家庭も、しっかり両立してやっていこうと気合いとやる気で満ち溢れている。
「「ぱぱ、まま、ばい~」」
「ふふ、いってきます」
「いい子でね」
「「きゃぁぁっ」」
いつもの習慣で双子のおでこにキスを贈る楓真くん。
そんな楓真くんの顔が不意に至近距離に近付いた、子供たちを抱く先生が顔を真っ赤にし、全てを目撃していたお母さん方からも黄色い声が上がる。
……やめなさい。
楓真くんの背中を押し、頭を下げながらそそくさとその場を後にした。
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