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第ニ章・お兄様をさがせ!
第四十二話
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ルーベンスの意地悪、というのは王都へ向かうメンバーの固定の事だった。
独立した国として扱われる職業学園から王都までの道のりは険しい。
いわゆる魔境と呼ばれる地域を通過しなければ王都へ行けない事もあり、学園から王都へ向かう際には必ず四人以上のパーティを組むか、教員の引率が必要になる。
ルーベンスはアルフレッド、ベルベット、シーカーを含む四人のパーティでなければ王都へ向かう許可は出さない、と、そういう条件を出したのだ。
「それで?」
酷く不機嫌なのが分かる声音にリリィはついベルベットと最初に出会った頃を思い出してしまう。
しかし、怯むことなくリリィは真っ直ぐにベルベット目を見て告げる。
「ワタシたちと一緒に王都に行って欲しいの」
すると、ベルベットは不機嫌な態度のまま、小さく首を横に振った。
「あーしはこの件にこれ以上関わる気はないわ、例え貴女のお願いであってもね」
基本的にリリィにはダダ甘のベルベットがこうまでハッキリとした拒否の意思を示す事はそう多くない。
そんな彼女が不機嫌な声音で、それもハッキリとダメと言ったのだ、いつものリリィならしょうがないと言って諦めるのだが、今回はそうはならなかった。
「どうして?」
漠然とした問い返しに少しだけ呆気に取られるベルベットだったが、不機嫌なポーズを崩さない為に浅い本音を口にする。
「あーしはあの女が嫌いなのよ、リリィとアルフを傷付けたあの女が。なんであーしが嫌いな女の為に遠路遥々王都にまで足を運ばなくちゃ行けないのかしら?」
冷たく突き放すような口調でベルベットは淡々と二の口を告げる。
「それにさっきも言ったけど、あーしはリリィやアルフの方が大事なの、傷ついて欲しくないの、だからあーしがあの女の為にする事なんて一つもないわ」
これで話は終わり、そう言わんばかりにベルベットは後ろを向いた。
ーーここまで言えば流石に諦めるでしょう。
と、ベルベットは勝手にホッと胸を撫で下ろすが、リリィは少しも諦めてなどいなかった。
「ベルは付いて来てくれるだけでいいの、ルーベンス様がベルも一緒じゃないと王都に行く許可は出さないって言うの、だからお願い一緒に王都に行こう?」
えっ? とベルベット椅子からずり落ちそうになる。
リリィは頭のいい子だとベルベットは知っている。
場の空気も読めるし、何より頭の回転が速い。
つまり何が言いたいのかと言うと、相手の雰囲気や言い分を無視してまでお願いをする事など今までに無かったのだ。
「き、聞き分けのない子ね、あーしは嫌だと言っているのよ、あーしには行く意味も理由もないのよ」
動揺が悟られぬようにベルベットは不機嫌な態度を前面に押し出すが、しかし、
「ベル、ワタシと一緒に王都に行くのはいやなの?」
ベルベットは、うっ、と言葉に詰まる。
正直、リリィと何処かへ行くと言うのは魅力的な提案だった。楽しげに買い物をしたり、食べ歩きをしたりと、そんな妄想をした事がないでは無い。
しかし、今回に限ってはそこへ至る理由が褒められるような物では無いのだ。
ベルベットは一つため息を吐いて不機嫌なフリを止める。
「リリィと出掛けたくない訳じゃないわ、でも貴女の王都へ行きたい理由はそれじゃないでしょう? それを持ち出すのは卑怯だと思わないかしら?」
「…………ごめんね」
自分でも卑怯だと思っていたのか、リリィは俯き謝る。
かく言うベルベット自身も卑怯な言い分でリリィを丸め込もうとしていたのだから人の事は言えない、と自己嫌悪するようにさらに深いため息を吐いた。
そして、不安気な表情を浮かべてリリィに問う。
「ねえ、どうしてそんなにあの女に固執するの? あーしは……あの女がリリィにとってプラスになるとは思えないわ」
ベルベットはただ心配だった。
わざわざ不機嫌なフリをしたのも、冷たく突き放すような言い方をしたのも、エルフィアと関わる事でリリィが更に傷つくのではないかと思ったからだ。
当然、エルフィアの事が嫌いだという私怨も入ってはいたが、そうであってもこれは不器用な彼女なりの友人の守り方だった。
不安気な表情を浮かべながらそう尋ねるベルベットに近寄ると、リリィは優しく手を握った。
「ベル、ワタシは友達をプラスになるかマイナスになるかで付き合ったりしないよ」
柔和な笑みを浮かべてリリィはそう口にする。
その笑みはベルベットの気持ちを理解しているようだった。
「そんなこと知ってるわよ」
ベルベットが恥ずかしそうにソッポを向いてそう言うと、リリィは小さく、ありがとう、と口にする。
「ベルがワタシたちを心配してくれてるのが伝わって来てすっごく嬉しいよ。でもね? これはアルフにとってもワタシにとっても必要な事だと思うの」
ハッキリとそう言い切るリリィに、ベルベットは尋ねる。
「どうしてよ」
リリィは迷う事なく、真っ直ぐに目を見据えて答えた。
「この問題から逃げたらこの問題は絶対に解決しないでしょ?」
少しだけ惚けた後にベルベットは思う。
ーーそうだった、この子はこういう子だった。
と。
ベルベットは小さく笑みを浮かべて、しょうがないか、と呟いた。
「分かったわ、一緒に王都に行ってあげる」
「本当に!?」
「ただし、条件があるわ」
「条件?」
エルフィアと関わるな、とかだったらどうしようという不安に煽られるリリィだったが、それが杞憂だったのだとすぐに思い知らされる。
「問題が解決したらあーしと買い物に行くこと、絶対に」
心配性の友人に感謝しながらリリィは満面の笑みを浮かべて答えた。
「喜んで、一緒に楽しもうね」
独立した国として扱われる職業学園から王都までの道のりは険しい。
いわゆる魔境と呼ばれる地域を通過しなければ王都へ行けない事もあり、学園から王都へ向かう際には必ず四人以上のパーティを組むか、教員の引率が必要になる。
ルーベンスはアルフレッド、ベルベット、シーカーを含む四人のパーティでなければ王都へ向かう許可は出さない、と、そういう条件を出したのだ。
「それで?」
酷く不機嫌なのが分かる声音にリリィはついベルベットと最初に出会った頃を思い出してしまう。
しかし、怯むことなくリリィは真っ直ぐにベルベット目を見て告げる。
「ワタシたちと一緒に王都に行って欲しいの」
すると、ベルベットは不機嫌な態度のまま、小さく首を横に振った。
「あーしはこの件にこれ以上関わる気はないわ、例え貴女のお願いであってもね」
基本的にリリィにはダダ甘のベルベットがこうまでハッキリとした拒否の意思を示す事はそう多くない。
そんな彼女が不機嫌な声音で、それもハッキリとダメと言ったのだ、いつものリリィならしょうがないと言って諦めるのだが、今回はそうはならなかった。
「どうして?」
漠然とした問い返しに少しだけ呆気に取られるベルベットだったが、不機嫌なポーズを崩さない為に浅い本音を口にする。
「あーしはあの女が嫌いなのよ、リリィとアルフを傷付けたあの女が。なんであーしが嫌いな女の為に遠路遥々王都にまで足を運ばなくちゃ行けないのかしら?」
冷たく突き放すような口調でベルベットは淡々と二の口を告げる。
「それにさっきも言ったけど、あーしはリリィやアルフの方が大事なの、傷ついて欲しくないの、だからあーしがあの女の為にする事なんて一つもないわ」
これで話は終わり、そう言わんばかりにベルベットは後ろを向いた。
ーーここまで言えば流石に諦めるでしょう。
と、ベルベットは勝手にホッと胸を撫で下ろすが、リリィは少しも諦めてなどいなかった。
「ベルは付いて来てくれるだけでいいの、ルーベンス様がベルも一緒じゃないと王都に行く許可は出さないって言うの、だからお願い一緒に王都に行こう?」
えっ? とベルベット椅子からずり落ちそうになる。
リリィは頭のいい子だとベルベットは知っている。
場の空気も読めるし、何より頭の回転が速い。
つまり何が言いたいのかと言うと、相手の雰囲気や言い分を無視してまでお願いをする事など今までに無かったのだ。
「き、聞き分けのない子ね、あーしは嫌だと言っているのよ、あーしには行く意味も理由もないのよ」
動揺が悟られぬようにベルベットは不機嫌な態度を前面に押し出すが、しかし、
「ベル、ワタシと一緒に王都に行くのはいやなの?」
ベルベットは、うっ、と言葉に詰まる。
正直、リリィと何処かへ行くと言うのは魅力的な提案だった。楽しげに買い物をしたり、食べ歩きをしたりと、そんな妄想をした事がないでは無い。
しかし、今回に限ってはそこへ至る理由が褒められるような物では無いのだ。
ベルベットは一つため息を吐いて不機嫌なフリを止める。
「リリィと出掛けたくない訳じゃないわ、でも貴女の王都へ行きたい理由はそれじゃないでしょう? それを持ち出すのは卑怯だと思わないかしら?」
「…………ごめんね」
自分でも卑怯だと思っていたのか、リリィは俯き謝る。
かく言うベルベット自身も卑怯な言い分でリリィを丸め込もうとしていたのだから人の事は言えない、と自己嫌悪するようにさらに深いため息を吐いた。
そして、不安気な表情を浮かべてリリィに問う。
「ねえ、どうしてそんなにあの女に固執するの? あーしは……あの女がリリィにとってプラスになるとは思えないわ」
ベルベットはただ心配だった。
わざわざ不機嫌なフリをしたのも、冷たく突き放すような言い方をしたのも、エルフィアと関わる事でリリィが更に傷つくのではないかと思ったからだ。
当然、エルフィアの事が嫌いだという私怨も入ってはいたが、そうであってもこれは不器用な彼女なりの友人の守り方だった。
不安気な表情を浮かべながらそう尋ねるベルベットに近寄ると、リリィは優しく手を握った。
「ベル、ワタシは友達をプラスになるかマイナスになるかで付き合ったりしないよ」
柔和な笑みを浮かべてリリィはそう口にする。
その笑みはベルベットの気持ちを理解しているようだった。
「そんなこと知ってるわよ」
ベルベットが恥ずかしそうにソッポを向いてそう言うと、リリィは小さく、ありがとう、と口にする。
「ベルがワタシたちを心配してくれてるのが伝わって来てすっごく嬉しいよ。でもね? これはアルフにとってもワタシにとっても必要な事だと思うの」
ハッキリとそう言い切るリリィに、ベルベットは尋ねる。
「どうしてよ」
リリィは迷う事なく、真っ直ぐに目を見据えて答えた。
「この問題から逃げたらこの問題は絶対に解決しないでしょ?」
少しだけ惚けた後にベルベットは思う。
ーーそうだった、この子はこういう子だった。
と。
ベルベットは小さく笑みを浮かべて、しょうがないか、と呟いた。
「分かったわ、一緒に王都に行ってあげる」
「本当に!?」
「ただし、条件があるわ」
「条件?」
エルフィアと関わるな、とかだったらどうしようという不安に煽られるリリィだったが、それが杞憂だったのだとすぐに思い知らされる。
「問題が解決したらあーしと買い物に行くこと、絶対に」
心配性の友人に感謝しながらリリィは満面の笑みを浮かべて答えた。
「喜んで、一緒に楽しもうね」
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