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第一章・最弱の魔法使い

第十話

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「本当にいいの!?」

 嬉しそうにその場をぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶリリィ。
 対照的にアルフレッドの表情は少し暗いものだった。

「本当なんすけど、やっぱり止めないっすか?」
「なんで?」
「きっとリリィが嫌な思いをすると思うんすよ」

 結果としてベルベットはアルフレッドの依頼を受けた。
 しかし、強引に契約内容の変更を余儀なくされたのだ、ベルベットは〝リリィ・マクスウェルに対して不敬な態度を取ってはいけない〟という一文を無理やり取り消させたのだ。

 ーー誤算だったっす、まさか、その部分にだけ食いついて来られるとは。

 契約内容には幾つかのミスリードを用意していた、それはリリィに不快な思いをさせない為の一文を守る為のものだったのだが、ベルベットはそれらを全部無視してその一文だけを消させたのだ。

 ーー他を文言を消させてもリリィを守る為の一文は消させちゃダメだったっす。

 と、後悔をするアルフレッドにリリィは申し訳なさそうに謝る。

「アルフ、ごめんね? アルフが嫌なら私……」
「ああいや、違うんすよ。リリィが絶対、必ず、ほぼ100%の確率で嫌な思いをすると思うと気が進まないんすよ」

 暗い表情の理由が分かると、リリィは、なんだそんな事か、と安堵のため息を吐く。

「あのねアルフ、私は誰かに嫌がらせをされたりとか馬鹿にされたりするのは嫌だけど、別にされたからどうなるってわけじゃないんだよ?」

 妙に前向きな発言にアルフレッドは疑問符を浮かべる。

「? でも嫌なんすよね?」
「当然嫌だよ。でもアルフが言ってくれたでしょ? 応援してくれるって、偉大な魔法使いになれるって、信じてるって。私は私を馬鹿にするたくさんの人たちより、私を信じてくれるアルフの言葉の方が大事なんだよ」

 えっと、つまり? とアルフレッドが不思議そうに尋ねると、リリィは笑みを浮かべて答える。

「誰に何を言われても、私にはもう関係ないって事だよ、見返してやるって思うし、負けたくないって思うけど、私が目指すものが変わる事はないんだから」

 清々しい笑顔を浮かべるリリィを見てアルフレッドは思う。

 ーー俺が気にする事じゃなかったっすかね?

 薄く笑うアルフレッド、その様子を見てリリィは言った。

「アルフは子供が出来たら絶対に親バカになるね」
「そうっすかね? どちらかと言えば奥さん命みたいな感性を持ってるんすけど」
「どっちも大事って言うに決まってるけど、なんかずっと子供と遊んでそうだよ」
「ま、俺に家庭を持てるとは思わないっすけどねぇ」
「なんで?」
「こんな身体してるし、何よりもモテナイッスカラ」

 少し虚ろな目をしてそう言った。

「アルフはカッコイイのにね?」

 慰めるようにリリィはアルフレッドの頭を撫でる。

 因みにシーカー曰く、モテないというのはアルフレッドの主観であって客観的な目線でみればモテている、らしい。

「そろそろベルベットのところに行くっすかね?」
「楽しみだな、人からちゃんと魔法を教わるの初めてだから」
「でも本当に嫌な思いをするっすよ?」
「大丈夫、理不尽にも嫌がらせにも慣れてるから」

 慣れてるとかそういう問題ではないと思うんすけど、と思いながらアルフレッドは頬を掻いた。




ーーーーーーーーーー


 暗い工房、ベルベットの領域内でリリィは魔法について学ぶ事になった。
 アルフレッドは到着と同時に退席させられた。物凄い剣幕でベルベットに追い出されたのだ。

「アンタが最弱の魔法使い?」

 ベルベットは険しい表情でそう尋ねる。

「そうです、リリィ・マクスウェルです。今日はよろしくお願いします」

 リリィは軽くお辞儀をして手を差し出すが当たり前のようにそれを無視するベルベット。
 冷たい視線を向けてリリィに聞く。

「アンタ、才能ないんでしょ? なんで無駄な事すんの?」

 明らかな敵意を含んだ言葉だったがリリィは笑みを崩さなかった、笑み、というよりヘラっとした気の抜けた表情に近いものだ。
 それはベルベットに気を回し、自分が抱いた感情を押し殺す為でもあった。

 そんなヘラっとした表情のままリリィは正直に答える。

「偉大な魔法使いは私の夢なんですよ、だからです」
「だから才能がないんでしょ? 無駄じゃない、その時間」
「才能がないからといって諦めるなら最初から私は魔法使いを目指したりしないですよ?」

 ベルベットは小さく舌打ちをする。
 彼女は弱いものを見ているとイライラするのだ、ハッキリとした嫌悪感が全身に走るのが分かるほどに。
 特に、今リリィが浮かべている楽しくも無いのにヘラヘラとしている所を見ると特に。

「まあ、いいわ。あーしには関係のない話だし、あーしはアンタを次の昇級試験に合格させる、それだけ」

 不要な馴れ合いはしないから、とベルベットは前もって忠告をする。

「はい、よろしくお願いします」

 リリィの無駄に元気なところがベルベットの苛立ちを加速させるが無駄に当たり散らしても時間の無駄だと分かっているのでベルベットは半ば無視をする形で話を進める。

「とりあえずアンタが魔法についてどれだけの知識があるのかを試すわ」

 ベルベットが指を鳴らすとパッと三枚のテスト用紙がリリィの目の前に現れる。

「すごいですね、今のは空間魔法ですよね?」

 側から見れば手品のような現象だったのだが、リリィはそのタネを見ただけで理解していた。
 少しだけ驚きベルベットはリリィに聞いた。

「アンタ、分かるの?」
「使えないですけどね」

 気まずそうにヘラっとするリリィの笑みがベルベットの琴線に触れた、それを怒気を孕んだ声で忠告する。

「ヘラヘラするの止めなさい、虫唾が走るわ。それを続けるならあーしはアンタに何も教えない」

 リリィはアルフレッドの紹介してくれた人に何を言われても絶対に怒るまいと決めていた。
 嫌な思いをすると前もって聞かされていた事と魔法を習う千載一遇のチャンスを逃さない為だ。
 でもそれが相手の琴線に触れると言うなら話は別だろう、リリィは取り繕った笑みを止め、真面目な表情を浮かべる。

「分かったよ、でも一つだけ言わせて」

 ? と疑問符を浮かべるベルベット。

「私はリリィ・マクスウェル、貴女の名前は?」

 内心は凄く腹立たしかったのだ、挨拶をしても返さない、友好の証の握手も無視をされる。
 だから少しだけ強めの口調で、感情を込めて、言った。

 リリィの態度に少しだけ意外そうにした後、ベルベットは不遜な態度で対応する。


「ベルベット・プライマー、気安く名を呼ばないで欲しいわ」
「私は気安くリリィって呼んで、ベルベット」

 ーーまあ、さっきよりはマシか。

 と、ベルベットは思う。
 彼女が弱者を嫌う理由の一つが媚びへつらうこと、さっきまでのリリィの態度はまさにそれだった。

「ふん、いいわ。そのテストやってみなさい、合計で150点以下ならアンタは絶対に受からないから帰ってもらうわ」

 ベルベットが出したテストは魔法基礎学というジャンルのテストだ、魔法基礎学はその名な通り魔法を使う理論の基礎の事だ。
 簡単な話、これを理解していないと魔法という神秘の一端すら使えないようなものだ。

「じゃあ、始めて」

 開始の合図に何も言わず、リリィは問題を解き始めた。


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