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僕と『夢』
しおりを挟む「何かおかしくない?」
僕は友人の弁当を目の前にそう言った。
「はっ? 何が?」
「いや、何がって」
僕は困惑しながら弁当に指を指す。
「お前の弁当、なんでペロちゃんキャンディなの?」
「なんでって、そりゃ美味いからだろ」
「まあ確かに美味いけどさ」
そういう話じゃないんだけど。
「なんだよ、一本欲しいのか?」
「い、いや、いらないけど……もしかして弁当作って貰えないのか?」
不安になった僕は友人にそう尋ねる。
「バーカ、そんな訳ねえだろ、俺が頼んだんだよ」
「お昼ご飯にキャンディを?」
「おう、キャンディを」
「ダイエット中とか?」
「俺がダイエットすると思うのか?」
「じゃあそのキャンディに秘密があるとか?」
「ただの市販のキャンディだよ」
「ますます意味がわからない」
「何をいってんのか俺の方が分からないんだけど、なんでそんなにキャンディを昼飯にすることに反応してんの?」
なんでって、おかしいからなんだけど。
いや、おかしいよね?
「腹減らないの?」
「キャンディ食ってるからな」
「いや、舐めてんじゃん」
「細けえ奴だな、腹に入ってるんだから変わらねえだろ?」
「変わるでしょ、全く腹にたまらないじゃん」
「確かにな、でも不思議と腹は減らないんだよな」
「何日か学校に来なかっただけなのにいつのまにか友達が激変してる」
怖いんだけど。
「そんなに変わった気はしねえけどな、というか米とか食ってる奴の方が今は少ないんじゃね?」
「はっ?」
「周り見てみ」
バッと辺りを見渡すとみんな何故かキャンディを舐めていた。
僕は両手で顔を覆って、叫ぶ。
「…………何かがおかしい!!!」
「おいおい、お前ほんとに大丈夫か? まだ風邪ひいてんじゃねえの?」
「熱も無いし体も怠くないし体調は万全だ! 今ならオリンピックにも出れるよ!」
「そりゃスゲェな、種目は?」
「そういう話じゃねえよ!」
じゃあ何だよ、と友人は顔を顰める。
「なあ! 昼ご飯だよ? 飯を食おうよ!」
「だからキャンディ食ってるだろ?」
「ペロペロしてんじゃねえよ! メシを食えって言ってんだよ!」
「だからこれが昼飯だって、あんまり昼時に騒ぐなよな、キャンディに埃が付くだろ?」
「そうだけど! そうだけどさ!」
なんだよキャンディに埃が付くって!
おかしいだろ!
「まあ落ちつけ、キャンディを食わぬ者よ」
「キャンディを食わぬ者!?」
「お前はまだ風邪を引いているんだ、きっと気が動転してるに違いない」
「なんで僕がおかしくなったの前提なの!?」
「だってさ、顔も赤いみたいだし」
「ツッコミに忙しいだけだよ!」
「ツッコミにキレがないし」
「ふざけんなキレッキレだわ!」
ゼーハーと肩で息をしていると、友人がため息を吐いて言う。
「そもそもなんで弁当がキャンディじゃダメなんだよ」
「それは……」
「理由なんか無いだろ?」
り、理由。確かに理由なんかないけど、友人が何を食べてようと関係ないけどさ!
「キャ、キャンディだけだと栄養が偏るだろ?」
「わかってないな、お前」
「な、何がだよ」
「お前が学校を休んでる間にキャンディ業界は進化したんだよ、今じゃ手軽に栄養を摂取出来るって世間でも話題になってるんだぜ?」
な、なんだその話は、一度足りとも聞いたことがない。
「あと普通以上に美味しいし食べない理由がないんだよ」
グニャアっと世界が歪んでいる気がした。
もしかしたら僕が間違っていて友人の言うことが正しいのか。
僕が世間から遅れているだけで元々キャンディが流行っていたのだろうか。
気持ち悪くなりそうなほど視界が歪むと、電源が切れたように僕の意識は暗転した。
「ハッ!」
飛び上がるように起き上がるとそこは僕の部屋だった。
「あれは、夢?」
キャンディが昼の弁当になっているのが普通の世界。
別にゾッとするような事ではないけど冷や汗が止まらなかった。
「ちょっと大丈夫? 凄い音がしたけど」
部屋の扉を開けて母が入ってきた。
どうやら勢いよく飛び上がり過ぎたようだ。
「ごめん、ちょっと悪夢を見て」
「まあ大丈夫ならいいけど、その様子だと熱はなさそうね」
そういえばもう体も怠くないし、熱も引いてるみたいだった。
「どうする? もう一日学校休む?」
僕は少し考えて答える。
「いや、治ったし行くよ」
僕の答えを聞いて、母は少しだけ笑って答える。
「分かったわ、じゃあ母さん仕事に行くからね、テーブルの上にキャンディ用意しておいたから食べながら行きなさい」
「分かった」
そう言って母は部屋から出て行った。
「あれ? 母さんキャンディって言った?」
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