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【可愛い消毒】
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「私が、あんたのお気に入りのキーパーと被ったってこと?」
朗太は乗り出さんばかりの勢いで慌てて体の前で手を振る。
「オレっ!! 別に男が好きなわけじゃないよ!? そりゃ、一番初め奏さん見たとき、なんでかその1番のこと思い出しはしたけど、でも、代わりとかそういうわけではっ」
「そんなん、いーわ、どうでも。で、居なかったんでしょ、入った高校に」
「うん。なんか、推薦決まってたのに蹴ったって。俺は何の為に男子校行ったんだって話っすよ。家遠かったから寮だったし、ほんとマジでしばらく悶絶したもん。女の子居ねえええって。いやまあ、面白かったっていえば面白かったんだけど」
「なんでそんなバカな進路選んだの? 話もしたことないようなの追っかけて」
奏は朗太とは視線をあわさず、それでも視線の端にその姿を捉えていた。
「うーん、オレ、フィジカル良くなくて、自分より明らか下手っぴな奴にレギュラー取られたりしてクサってたんだ。でも、そのキーパー、俺よりチッコイくらいなのに、スゲーうまくて、みんなから頼りにされてて、誰より前向いてて。ああ、あの人にコーチングされて試合出てみてーって。
その人、トレ選行ってたみたいだから、上の人に色々聞いて、んで播高行くってきいたからマジで勉強必死にやって。学区外だから基礎点100も違ってて、それまでそんな勉強らしい勉強したことなかったから、頭沸いて死ぬんじゃねえかって思った」
もし自分が何事もなくあのまま学校に通っていたら、この真っ直ぐな憧れと情熱を向けられたんだなと思うと、むずかゆい気持ちになる。
「今、どーしてるんだろーなー」
憧憬を含んだ声に、心の中呟く。
もう、死んだんだ、と。
「ね。今度サッカー観にいかない?」
「奏さん、サッカー好き!?」
「カナデは、サッカー嫌い」
でも、ソウの部分が疼き出す。
そして、そうして、死んではいないのだと思い知る。
「でも……あんたと行くの、楽しそう」
……!?
自分で口に出していながら、自分で驚いた。
やはりアルコールというものは恐ろしい。
そして奏以上に驚いた顔をした朗太だったが、慌ててスマートホンを取り出すと、もの凄い勢いで開催日をチェックし、天皇杯とJリーグのホーム戦の内、結局二人の休みのあうホーム戦を見に行くことになった。
その流れをどこか他人事のように眺める奏は、やはり見た目以上に酔っていたのだろう。店を出て歩きだしたとたん、アルコールで足がふらついた。朗太が慌ててそれを支える。
「ありがと」
言いながら身を離そうとした、が──。
「あのさ、一回だけ。一回だけ、ギュッとさせて!! 各務の、ずるいからっ」
必死な口調の朗太に、目を覗き込まれる。
「……どーぞ」
ぞ、を言い終える前に、きつく抱きすくめられる。
息苦しくはあったが、酔っているせいか人の体にもたれかかるのが心地良くて、黙って身を任せた。
そして数秒の後、朗太は潔く奏を引き剥がすと満面の笑顔で笑った。
「消毒かんりょー」
奏は自然に笑顔が浮かぶのを止められず、半ば照れ隠し、右の手のひらを朗太の顔面にビタンと押し当てた。
朗太は乗り出さんばかりの勢いで慌てて体の前で手を振る。
「オレっ!! 別に男が好きなわけじゃないよ!? そりゃ、一番初め奏さん見たとき、なんでかその1番のこと思い出しはしたけど、でも、代わりとかそういうわけではっ」
「そんなん、いーわ、どうでも。で、居なかったんでしょ、入った高校に」
「うん。なんか、推薦決まってたのに蹴ったって。俺は何の為に男子校行ったんだって話っすよ。家遠かったから寮だったし、ほんとマジでしばらく悶絶したもん。女の子居ねえええって。いやまあ、面白かったっていえば面白かったんだけど」
「なんでそんなバカな進路選んだの? 話もしたことないようなの追っかけて」
奏は朗太とは視線をあわさず、それでも視線の端にその姿を捉えていた。
「うーん、オレ、フィジカル良くなくて、自分より明らか下手っぴな奴にレギュラー取られたりしてクサってたんだ。でも、そのキーパー、俺よりチッコイくらいなのに、スゲーうまくて、みんなから頼りにされてて、誰より前向いてて。ああ、あの人にコーチングされて試合出てみてーって。
その人、トレ選行ってたみたいだから、上の人に色々聞いて、んで播高行くってきいたからマジで勉強必死にやって。学区外だから基礎点100も違ってて、それまでそんな勉強らしい勉強したことなかったから、頭沸いて死ぬんじゃねえかって思った」
もし自分が何事もなくあのまま学校に通っていたら、この真っ直ぐな憧れと情熱を向けられたんだなと思うと、むずかゆい気持ちになる。
「今、どーしてるんだろーなー」
憧憬を含んだ声に、心の中呟く。
もう、死んだんだ、と。
「ね。今度サッカー観にいかない?」
「奏さん、サッカー好き!?」
「カナデは、サッカー嫌い」
でも、ソウの部分が疼き出す。
そして、そうして、死んではいないのだと思い知る。
「でも……あんたと行くの、楽しそう」
……!?
自分で口に出していながら、自分で驚いた。
やはりアルコールというものは恐ろしい。
そして奏以上に驚いた顔をした朗太だったが、慌ててスマートホンを取り出すと、もの凄い勢いで開催日をチェックし、天皇杯とJリーグのホーム戦の内、結局二人の休みのあうホーム戦を見に行くことになった。
その流れをどこか他人事のように眺める奏は、やはり見た目以上に酔っていたのだろう。店を出て歩きだしたとたん、アルコールで足がふらついた。朗太が慌ててそれを支える。
「ありがと」
言いながら身を離そうとした、が──。
「あのさ、一回だけ。一回だけ、ギュッとさせて!! 各務の、ずるいからっ」
必死な口調の朗太に、目を覗き込まれる。
「……どーぞ」
ぞ、を言い終える前に、きつく抱きすくめられる。
息苦しくはあったが、酔っているせいか人の体にもたれかかるのが心地良くて、黙って身を任せた。
そして数秒の後、朗太は潔く奏を引き剥がすと満面の笑顔で笑った。
「消毒かんりょー」
奏は自然に笑顔が浮かぶのを止められず、半ば照れ隠し、右の手のひらを朗太の顔面にビタンと押し当てた。
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